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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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83.ハンバーガーセット

 行方不明事件は犯人のリリアンが死んだことによって幕を閉じた。アンデッド化した住民一人一人を行方不明の人物と照らし合わせると、全員一致した。それぞれの家族に報告が行き、亡骸と涙の対面をする。


 ここまで来たら私たちのやる事はない。後のことは警備隊の人に任せ、いつもの日常に戻った。


「ネクロマンサー、いましたね」

「いたけど、こんなことになるなんて……ね」


 店の席に座りながらポツリと話し始める。


「永遠に一緒に居たいからって相手をアンデッド化するなんて考えもつきませんでした」

「普通の判断ができないくらいまで追い詰められていたのね。気持ちは分かるけど、普通なら考えつかないわ」

「不死王が言葉巧みに誘導した可能性もある」

「ですね。弱り切ったところに提案をされたら、心は動いちゃいますものね」

「リリアンと同じ状況だったら、私も不死王の提示した条件を飲んじゃいそうだわ」


 二人ともリリアンの気持ちに寄り添った考えになっていた。だけど、私は違う。


「大切な人を失う悲しさを分かるけど、私はリリアンの選択肢は選択しない」


 私はその選択をしなかった。一緒にいることもできただろうが、お互いの住む世界が違った。そう……私は簡単に家族を切り捨てた薄情者なんだ。


「そういえば、ユイさんは大切な人を無くしたことがあるんですか?」

「……数年も前にね」

「前の世界は過酷だって聞いていたけど、大切な人を失うほどの過酷さだったのね……」

「……話しすぎた。この話はおしまい」


 二人の同情する目が痛い。そんな目で見て欲しいから言ったわけじゃない。ただ話しの流れを……いつの間普通に話せるようになったんだ? こんなつもりはないのにな。


「全く、ユイはなんにも話してくれないんだから。でも、少しは会話に入ってきてくれているから嬉しい」

「少しは懐柔できましたかね?」

「馬鹿言っているんじゃない。私は馴れ馴れしくするつもりはないから」

「へー、そうなのねー」

「ユイさんはそんなことをいうんですか?」

「こら、人を突くなっ。やめ……やめろっ!」


 二人がニヤニヤしながら人を突いてくる。なんか、馬鹿にされているようで腹が立った。だから、突いてくる二人の手を叩き落とす。それでも、二人の笑顔は消えない。


 その時、店員が近づいてきた。


「お待たせしました! ハンバーガーセットになります!」


 店員はそれぞれの前にトレーを置いていった。トレーの上には紙で包まれたハンバーガー、皿の上に乗ったフライドポテト、炭酸が弾けるコーラがある。


「来たわね! これが地球で流行っていた、ハンバーガーセットよ!」

「サンドイッチみたいな食べ物ですね。この飲み物は黒くて独特ですね……飲むのに勇気がいります」

「どれも美味しいわよ! さ、見てないで食べましょう」


 セシルがテンション高めに勧めてきた。ハンバーガーセットなら、まだ小さかった時に食べたことがある。ファストフード店で食べた、おもちゃ付きのハンバーガーセットだったな。


 あの時は食べやすい厚さのハンバーガーにポテト、リンゴジュースだったかな? まぁまぁ、美味しかった記憶がある。それでも夢中になるほどではなかった。


 だけど、このハンバーガーは違う。バンズからはみ出さんばかりの肉汁滴るパティ、パティの熱で溶けたチーズ、新鮮なレタスや玉ねぎやトマト、カリカリに焼いたベーコンが入っている。


 なんだ、このハンバーガーは。私は経験したものと大分違う。こんなに分厚くなかったし、色んな物は入ってないし、いい匂いなんてしなかったはずだ。


「地球ではハンバーガーを売る店が沢山あったみたいだけど、ここのお店で出しているハンバーガーはそれとは違うものなんだって。ちゃんとした料理店が出すハンバーガーなの」

「ハンバーガーにも種類があるということですか? 地球には色んな物があるんですね」


 私が行っていたファストフード店とは違うハンバーガーがこの世にはあるのか。なら、これから食べるハンバーガーは未知の体験だ。


 二人がハンバーガーを紙で包んで持ち上げた。


「凄く分厚いですね。食べ応えがありそうです」

「思いっきり口を開いて食べてみて。絶対に美味しいから」


 この分厚さ……口に入るのか? 手で持ったハンバーガーを口に無理やり詰め込み、噛んでみた。一瞬で色んな食感を覚えて、一噛みで感動してしまう。これが……ハンバーガー?


 肉汁溢れるパティにそこにかかったスパイシーなソース。カリカリのベーコンの塩気と合わさって一気に食欲をそそられているのに、濃厚なチーズの旨味を感じる。濃い味を感じた後には新鮮でシャキシャキな野菜たちが爽やかさを生む。


 この分厚い一口で色んな味、食感を楽しめた。口の中で咀嚼するとそれらが混じり合って、絶妙なハーモニーを生む。これが、本当のハンバーガー!?


「んー! 色んな食感や味を一度に楽しめて、美味しいですね!」

「でしょ? サンドイッチにはないボリューム感もハンバーガーならではの魅力よ」

「完成された一噛みでした。あー、口が幸せですー!」


 確かに口の中が幸せだった。計算された具材の配置のおかげで一噛みの食感の幸福度が高まっているような気がする。絶頂の幸福感を感じた後に、口の中に広がる具材の調和のとれた味わいがまたいい……。


 もう一噛みすると、また絶頂の幸福感を感じる。一噛みの幸せの後に口の中に広がるハーモニー……。過去の私が食べていたハンバーガーは一体なんなんだ? これが、前の世界にもあった食べ物なのか?


 幸せの噛み応えを堪能していると、飲み物が欲しくなった。用意されているのはコーラ。コーラは飲んだことがある。ゾンビが蔓延った後に放置された物を飲んだ。


 常温で放置された物を飲んだけど、それなりに美味しかったと思う。ちょっと気が抜けていたような気がするが、問題なく飲めた。だけど、今出されているコーラは違う。


 キンキンに冷えたコーラだ。炭酸がシュワシュワと音を立てている、新鮮なコーラがある。漫画やラノベで見たけれど、冷えたコーラを美味しそうに飲む描写があった。あれを体験できるのか。


 ドキドキしながらストローに口をつけると、コーラを吸い上げる。口の中に入った瞬間、炭酸が弾けて独特の味が広がった。これが冷えたコーラ……美味しい!


 ハンバーガーの味を堪能した後に飲むコーラはとても良い。言葉には言い表せないけれど、凄く合っている。なるほど、だからセットでコーラの選択があったのか。


 じゃあ、フライドポテトはどうだ? カリカリに上げられたポテトを一つまみして、食べる。程よい塩気のあるポテトは美味しい。そして、何よりもこの組み合わせに合うと直感的に思った。


 このハンバーガーセットは合っている。邪魔をする物は一つとしてない。それぞれがそれぞれを引き立てている。この組み合わせを考えた人は凄い。


「あ、そうそう。次の町の移動手段を考えたんだけど……」

「移動手段……まさかバスですか?」

「いやいや、それは無いかな。今回は前回の反省を踏まえて、解放的に移動しようと思って」


 解放的? 一体、何を考えているんだ?


「ここから不死王の後を追って北に向かうと、そこにあるのは第三領都。距離はそんなに離れていないんだ。この距離で何か移動手段はないかなって探していたらこんなのがあったの。ホラ!」


 セシルはスマホを操作して画面を見せてくれた。そこに移っていたのは、懐かしい自転車の画像だ。


「第三領都までの移動手段は自転車。サイクリングをしながら、第三領都に向かうよ!」


 自転車……それは前の世界で沢山お世話になった移動手段だった。

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