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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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82.永遠の……

 もう死んでしまった人と一緒にいたいと願うリリアン。そこには一人の人を愛した女性の姿があった。


「悪いけど、あんたの話しには付き合ってられない。死んだ人は安らかに寝かせるべきだ」

「いやよ! 私はこれからもイアンと生きていくの! だから、邪魔をしないで!」


 イアンはもう死んでいる。だから、一緒にはいられない。そう伝えるがリリアンは聞く耳を持たない。


「ネクロマンサーの力があればこうして傍にいることも、微笑んでくれることも、抱きしめてくれることもしてくれる。いつもと変わらない日々がそこにはあるのよ!」


 リリアンは動いているイアンに固執しているようだ。それが自分で操って動かしているだけなのに、それだけで十分だと言っているみたいだ。そんなことをしても報われる人なんていない。


「ネクロマンサーの力で動かした人が生きているだなんて思えません!」

「自分の意のままに動かしている人と一緒にいて、何が楽しいのよ!」

「うるさい、うるさい! お前たちには分からないのよ! 愛しい人が傍にいて微笑んでくれることの幸せを!」


 二人の言葉はリリアンには届かない。リリアンにとってイアンという抜け殻だとしても、動いてくれることが何よりも大切みたいだ。生きている時みたいに生活がしたい、その思いが強いのだろう。


 だけど、そんな事をしても死んだ人は蘇ってないし、生きているとは言えない。自分の力で動かした人と一緒にいて、嬉しいとは思えなかった。


 ……そうか、まだリリアンはイアンが死んだことを受け入れていないのか。


「イアンはもう死んでいる。その内、体は腐り落ちて人の形を保てなくなる」

「そんなことないわ! だって、変わらない笑顔を向けてくれるし、抱きしめてくれる手もいつもと同じだもの!」


 前の世界のゾンビはなんらかの作用があって、体は完全に腐りはしなかった。だけど、この世界のアンデッドはそれとは違う。普通の人間ならば、腐り落ちるのが目に見えている。鼻をつく死臭がそれを物語っていた。


「もう……もう後戻りできないのよっ。だから、このまま」

「いいや、もう手遅れだよ。イアンは死んでいる。だから、最後のトドメを刺してあげる」


 死んだ人はもう戻らない。例えアンデッドとして動いていたとしても、それは生きているとは言えない。


「い、いや……やめてっ! イアンには手を出さないで! イアンは生きているの!」


 イアンを守ろうとするリリアンの姿。ふと、脳裏に過る……家族がウイルスに感染してしまった時の光景。リリアンの姿が自分のように見えて、胸が苦しくなった。


 その心をグッと押し込めて、イアンに向かって走りだした。


「神よ、無垢なる魂をお送りします」


 必要のない祝詞を唱えて、私はメイスを振った。


「やめてっ!」


 私とイアンの間にリリアンが飛び出してきた。振りかぶったメイスはリリアンに当たり、リリアンの体が吹き飛んで地面に転がる。その瞬間、イアンを動かしていた力が無くなり、イアンも地面の上に倒れた。


 辺りがシンと静まり返る中、リリアンが呻く声だけが聞こえる。私はそれを知りつつ、イアンの体に手を当てた。


「神よ、無垢なる魂をお送りします」


 手から光が溢れて、それがイアンを包み込む。体に残っていた魂の欠片が浄化され、イアンは完全に天に召された。


「そんな、イアン……イアンッ!」


 それを見たリリアンが駆けて来て、イアンの亡骸に縋りついた。


「もう動かない……嘘よ、そんな……」


 すすり泣くリリアンの悲しい声が聞こえる。かける言葉はない、それが当たり前の光景だと思ったから。だけど、二人はそんな悲しい光景を見て黙ってはいられなかったらしい。


「リリアンさん……」

「その……」

「どうして……どうしてイアンをっ! 私たちは誰にも邪魔されずに生きていたかっただけなのに!」


 二人が声を掛けようとすると、リリアンがそれを遮る。そして、私を睨んできた。


「イアンは死んでいた。だから、一緒に生きることはできない」

「そんなことないわ! あのまま、邪魔が入らなかったら……私たちはずっと一緒に生きていけたはずなのっ」

「そんなの独りよがり。それが幸せだなんて思えない」

「そんな幸せで良かったのよ! 本当にそれだけで……」


 淡々とリリアンの気持ちを否定するが、リリアンは納得がいかないように声を上げた。


「あなたには、大切な人を失う気持ちなんか分からないでしょ!」


 訴えかけるような強い眼差しを向けられた。気持ちを押し付けられたような気分は良くない。だから、私も睨みつけて言ってやる。


「分かるから、言ってるの。分からない?」


 とっくの昔に経験している、大切な人を失う気持ち。助けたくても、助けられなかった大切な人。私の心のよりどころだった、大切な家族がいた。


 すると、リリアンはハッとした後、苦虫を潰した表情になった。


「あんたみたいな子供が……」

「子供だからって関係ない。その経験があったから言ってるの。何度でもいうよ、あんたのやり方は間違っている」


 大切な人といつまでも一緒にいたい気持ちは痛いほど分かる。それが叶わないと知った時、どれほど絶望したのかも分かっている。ちゃんと分かっていないといけないのは、その人たちはどんな事をしても戻ってこないことだ。


「……私はどうすれば良かったのよ」

「最後までイアンの看病をして、見届ければよかった」

「でも、私には堪えられなかった……無理だった!」

「愛する人のためだったら、なんでもできるんじゃないの? 結局、あなたの愛は負けたんだよ」


 私の言葉にリリアンは呆けた顔になった後、くしゃりと顔を歪ませた。まるで、私の言葉をその通りだと言わんばかりだった。


「あ、あはは……私はあの男にそそのかされた哀れな女って訳ね」

「あの男って黒いローブを被った人ですか?」

「そうよ。そいつが私のところに現われて、死者を復活させる力があるからそれをくれるって言ってくれたの。その力があれば、愛する人が苦しむ姿を見ることもなく、穏やかに暮せるだろうって」


 あの男のキーワードに堪らずフィリスが前に出てきた。どうやら、その男はリリアンをそそのかしてネクロマンサーに仕立てたみたいだった。


「愛する人と一緒に暮していける、愛する人を見放した町の人たちに復讐できる……そう言っていたわ。上手くいくはずだったの、上手くいくはずだったのに……こんなっ!」


 心が弱り切ったリリアンに不死王の言葉が深く刺さったのだろう、言うままに従ってしまったみたいだ。もし、リリアンが心を強く持っていたらこんな事態にはならなかったはずだ。


「その男はどこに行ったんですか?」

「あなたたち、その男を追っているの? なら、会ったら言っといてくれないかしら。あなたのせいで散々な目にあったって。男は北に向かっていったわ」


 不死王の行方の事が気がかりだったフィリスの問いに、リリアンは半笑いになりながら言った。まるで、不死王に酷い目にあって欲しいと言っているようなものだ。


「ふふっ、もう私は終わりね……」


 そう言って、リリアンは詠唱を始めた。最後の悪あがきか? 私はすぐに防御魔法を展開した。


「ダークファング!」


 リリアンは手を自分に向けて闇魔法を放った。黒い牙が出現し、リリアンに噛みついた。


「リリアンさん!」

「そんな……!」


 血しぶきが飛ぶと、リリアンは地面に倒れた。思わず私たちは駆け寄り、リリアンを見た。深い傷を負っていて、このまま放置すれば死ぬだろう。だが、回復魔法を使えば命は助かる。助かるのだが……。


「お願い、回復魔法は使わないで……」


 消え去りそうな声が聞こえてきた。


「最初から、こうすれば……良かった。イアンと一緒に……そしたら、私たちは永遠に……一緒」


 もう動かなくなったイアンの手を握りしめ、その体に頭を寄せた。


「これが、正解だったのね……。イアン……愛してるわ……」


 ゆっくりと目を閉じたリリアンは動かなくなった。重なる二人を見て、本当にこれで良かったのか? と、自問自答した。


 生かして罪を償わせる事のほうが良かったのか、二人で一緒に居させてあげた方が良かったのか……どっちが正しいかなんて全然分からない。


 ただ一つ、私のやるべきことが一つあることに気づく。リリアンの体に手を置くと、優しく祝詞を唱える。


「神よ、無垢なる魂をお送りします」


 手が光り、リリアンを包み込む。これでリリアンの魂もイアンと一緒に天に召されただろう。

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リリアンのために犠牲になったご両親や無関係な人びとが哀れだった。。。不死王許すまぢ。
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