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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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8.聖女にご利益なんてない!

 リットの揉みくちゃにされた後、ようやく寝れると思ったのに……。リットはまだしつこかった。


「ねぇ、一緒に寝よう?」

「寝ない! あっち行って!」

「だって、今日でご利益なくなっちゃうかもしれないし」

「あの光はただの光! 全然、ご利益なんてないんだから!」


 黄金の光を浴びた私を縁起物と見ているのか、リットがしつこく追いすがってくる。力を持った者にすり寄ってくる、今はそんな状況だと思う。だけど、誰がこんな展開を想像した!?


「いいや、絶対にご利益があるわ! 吸わないと、そのご利益を吸わないとっ」

「吸うだけでご利益が手に入る訳がない! バカか、本物のバカか!」

「あの黄金の光を吸ったら、私だって聖女になれるかもしれないじゃない!」

「だから、粉のように言わないで!」


 何が吸う、だ! 気持ちの悪いことを言わないで欲しい!


 私のベッドに入ってこようとするリットを思いっきり押した。すると、リットは床に盛大に尻もちを付く。それを見た私は壁に立てかけておいた釘バットを手に持って、リットに向ける。


「来たら、殴る!」

「そ、そんなー……折角のご利益がぁ」

「ご利益なんてない! 自分の力でどうにかしろ!」

「ユイの意地悪ぅ……」


 そう言ってリットは自分のベッドに戻って、布団をかぶった。これで安心……そう思っていた時期が一瞬だけあった。


「……」


 リットが布団の隙間からこちらを覗いていた。まだ諦めてなかったのか!


「来たら、殴るからな! 絶対に来るんじゃない!」

「ご利益~……」


 今度は布団の中から拝み始めた。そんなことをされたら、寝れるものも寝れない! だが、こんなところで挫けてたまるか!


 こっちはゾンビに囲まれて命からがら身を隠した後、闇夜に紛れて脱出したことがある。その時に黙って機会を伺っていた時と比べれば、こんなの屁でもない!


 あの夜の再現というわけか……いいだろう、受けて立つ。最後に生き残るのは……私だ!


 ◇


 気が付くと部屋が明るくなっていた。どうやら、朝になったみたいだ。ハッとすぐに意識を浮上させると、手から離れていた釘バットを握りしめた。


 今の状況は? そう思って部屋を見渡してみると、そこは昨日割り当てられた部屋だった。そうだった、異世界転移をしてきてこの部屋を与えられていたんだった。まだ、私には地球での生活が沁みついているみたいだ。


 そう言えば昨日はリットに襲われかけたんだった。そのリットの様子を見てみると、布団をかぶったまま寝入っているみたいだ。全く、面倒な人と同室になったもんだ。


 釘バットを壁に立てかけると、靴を履いた。そして、部屋を出ていく。まだ食堂に行くには早いが、リットに絡まれるのが面倒だ。誰もいない廊下を進み、食堂の中に入った。


 広い食堂にはまだ誰も座っていない。朝食もまだできていないみたいで、関係者の姿は見えない。やっと一人になれる状況に私はホッとした。適当な席に座ると、少しだけ目を閉じる。


 ちょっとだけ眠ろう、そう思ってうたた寝をした。


 ◇


 うつらうつらとしていると、食堂にいい匂いが漂ってきた。ふと、目を開けてみるといつの間にか大人の人が配膳を開始している。ようやく朝食の時間が来た。すると、その時間を見計らって神官見習いの人たちが食堂に入ってきた。


 みんな、お喋りをしながら食堂に入ってくる。そして、一人でいる私を見て、誰もが一度立ち止まった。視線をこちらにむけたまま、少し離れた席に座り始める。


 私が地球人だと知った時と聖女に選ばれた後では態度が変わっていた。それだけ聖女に選ばれたことが異質だと感じている証拠だ。人が増えるごとにそれが顕著に現れる。


 食堂に入ってきた人たちは私から距離を取り、ひそひそと噂話をするかのように話している。私のことを話しているのだろうが、気分がいいものではない。


 そこに嫉妬や妬みはあるだろうし、取り入ろうと考えている人もいるかもしれない。今後絡んでくる奴らはきっとろくでもない奴らばっかりになるだろう。


 面倒くさいことになりそうだ。だから、人は好きじゃない。まぁ、いい……絡んでくる奴らを返り討ちにすればいいだけの話だ。


「ユイー!」


 ほら、早速絡んでくる奴が……。


「ご利益頂戴!」


 って、リットじゃない! こいつ、性懲りもなく近づいてくるなんて! しまった、釘バットを置いてきてしまった!


「近寄るな!」

「えー、いいじゃん。聖女になったユイの周りには、ご利益がきっとあるはずなのよ」


 どういう思考回路をしたら、そんな考えになるのか分からない! 何が、聖女だからご利益があるだ! そんなものがあるんだったら、私に良いことが起こるはずじゃないのか!?


 私に触ろうと手を伸ばしてくるリットの手を掴んで止めた。


「ユイの意地悪~。ちょっとくらいいいでしょ?」

「リットのちょっとはちょっとじゃない!」

「本当に今回はちょっと、ちょっとだから~!」


 どうして、こいつは人の話を聞かないんだ!


 リットを押し問答をしていた時、突然周りが沸いた。


「やっぱり、そうだよね! 聖女に選ばれたユイにはご利益があるよね!」

「そうだと思ったぜ! 俺もそのご利益にあやかりたい!」

「あんなことがあった後だもん、ユイの体には不思議な力が宿っているはず!」


 どうしてそういうことになる!?


 周りの突然の豹変に驚いていると、私の周りにあっという間に集まってきた。そして、手を伸ばして私の体を触り始める。


「ちょっと、男子~! セクハラよ、セクハラ!」

「頭なんだからいいだろう!?」

「頭ポンポンも今じゃセクハラなんだよ!」

「ご利益、ご利益~!」

「やめっ、触るなっ、近寄るなっ!」


 なんなんだ、この状況は! もっとこう、ドロドロとした状況になると思ったのに、陰険な感じになると思っていたのに!


「沢山触ったらご利益なくなるんじゃない? 一人一日一タッチまで!」

「お供え物したほうがご利益でそうじゃないか?」

「どうか、私も聖女になって、めちゃくちゃモテて、玉の輿に乗れますよーに!」


 だから、私は縁起物じゃない!


「私が聖女に選ばれた嫉妬や妬みはないのかー!」


 耐え切れずに叫ぶと、周りは一瞬静かになった。誰もが顔を見合わせると、笑い声が上がる。


「流石、地球人だね! とは思うけど、そんなのあるわけないよー」

「羨ましい気持ちよりも、ご利益にあずかりたいぜ」

「聖女なんてめったにお目にかかれないんだから。近くにいて、ありがとうございます! だよ」


 なんだか、めちゃくちゃありがたがっている!? ここは神官養成学校で、神官になるために競うところじゃないのか!? 相手を蹴落とすためにあの手この手で手段を選ばないことをやってくるはずでは!?


 どういうことだ……ここは漫画やラノベで読んだ世界じゃないのか!?

お読みいただきありがとうございます!

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