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8話 防衛策

「それじゃあ、防衛策について考えたいんだけど」


 話を転換して、本題に戻す。


 必要な資金を手に入れたから、これを元に、防衛策を考えよう。

 捕虜の返還で得た資金はかなりのもので、金貨10万枚……日本円で換算すると、おおよそ10億円だ。


 戦闘機や戦車を買おうとしたら、これでも全然足りないけど……

 ここは異世界だから、そんなものはない。

 現実的な範囲で予算を運用して、手堅い防衛策をまとめないと。


「二人は、なにか考えはある?」


 一応、僕なりに考えはまとめているけど……

 二人を無視するわけにはいかないし、より良い意見が出るかもしれない。

 なので、まずは二人の意見を求めた。


「はい! はい、なのだ!」

「はい、クロエ」


 先生のような気分になりつつ、クロエに発言の許可を出す。


「この金を使い、砦を構築すればよいのではないか?」


 おお、思っていたよりもまともな意見だ。

 ちょっとアレな意見が出ると思っていたから、驚きだ。


 というか、失礼だな、僕。

 ごめん、クロエ。

 心の中で謝罪しておいた。


「さすが魔王さま。素晴らしいアイディアです」

「ふふーん、そうだろうそうだろう。我ながら、ナイスアイディアなのだ! どうだ、カナタ!?」

「うーん、悪くはないんだけど、ちょっと効率が微妙かな」

「効率?」

「クロエが言いたいことは、こういうことだよね? 魔王城に続く道の途中に砦を作り、そこで敵の足を止める。そうすることで、魔王城の防衛を高くする、っていう感じ」

「うむ、そうなのだ!」


 そもそも、僕の時といい、先の戦いといい、魔王城の手前までいきなり攻め込まれるなんて、かなりおかしい状況だ。

 普通なら防衛網を敷いて、途中で敵を食い止めるのだけど……

 今は、それがまともに機能していない。


 だから、クロエは砦を築き、きちんとした防衛網を構築しようと思ったのだろう。

 クロエは、今の魔王城の問題をきちんと見抜いていた。


「砦のアイディアは悪くないし、効果的だと思う。お金もあるから、そこを心配する必要もない」


 この世界で普通サイズの砦を作ろうとしたら、金貨3万枚前後だろうか?

 3つも砦を作れば、かなり防衛は安定すると思う。


「ただ、時間がかかるよね」

「あ……!」


 それを忘れていた、というような感じで、クロエは目を大きくした。


「一日二日でというわけにはいかないし……その間、人手も取られる。その分、防備が薄くなる」

「むう……そうなると、砦を作るのは、根本的な防衛策を練り上げてから、というわけか」

「うん、その方がいいと思う。今は、時期が悪いかな」


 次の意見を求めるように、メリクリウスさんを見た。

 考えるような間を挟んでから、回答が出てくる。


「やはり、戦いは数で決まります。質が量を圧倒するという、あなたという特例の前で言うのもおかしな話かもしれませんが……それは、あくまでも特例。数がいなければ勝負になりません。なので、このお金で傭兵を雇うというのはどうでしょう?」

「そうだね、良いアイディアだと思う」

「やりました! って、人間に褒められて、なにを喜んでいるのですか、私は……」


 メリクリウスさんは、喜んだり自分を戒めたり、一人で百面相をしていた。

 いや、顔は見えないんだけどね。


「ただ、もう一手、加えたいかな、って思っているよ」

「もう一手? どういうことですか?」

「兵士の数を増やして、根本的な解決にはならないと思うんだ。そもそも、防衛網が構築できていない」

「「防衛網?」」


 クロエとメリクリウスさんが、揃って首を傾げた。


 うーん。

 僕でさえ、ゲームやら漫画の知識は入っているけど、知っていることなんだけど……

 それもわからないなんて。


 魔王軍は、内政だけじゃなくて、知識面も衰えているのかもしれない。

 それをなんとかしないといけないな。


「まあ、ざっくり言うと……敵の侵入を阻止するためのバリケードがない、っていうのが今の魔王軍の現状だよ」

「む、そう言われてみれば……」

「そのようなものはありませんね。しかし、それならばどうするのですか? 魔王様がおっしゃったように、砦を? しかし、それはあなた自身が否定したではありませんか」

「なにも物理的なバリケードを築く必要はないんだ。敵に、ここから先は魔王軍の領域ですよ、勝手に入れば攻撃しますよ、っていうことをわからせればいい」

「ふむ? それは、どのようにするのだ?」

「兵士を雇い、魔王城の周囲を巡回させる。どれくらいの規模にするかは、後で相談ね。僕、まだ魔族領の範囲知らないから」

「なるほど……兵士たちを巡回させることで、監視の目を作る。敵を見つければ、即、報告。そうして密に連絡をとることで、我々の手で防衛網を構築するというわけですね」


 さすが、メリクリウスさん。

 理解が早い。


 対するクロエは、いまいち理解できていない様子で、はてなマークを頭の上に浮かべていた。

 やがて、考えても仕方ないと判断したのか、思考放棄をする。


「細かいことはカナタに任せるぞ!」

「うん、任せて」

「うむうむ。カナタは頼りになるのだ」


 メリクリウスさんが、クロエを見た。

 私は?

 なんてことを言っているように見えた。


「メリクリウスさんは、傭兵とかに詳しい? 僕、そういうのよく知らなくて……」

「まったく、仕方のない人間ですね。そのようなことも知らず、さきほどの案を出したのですか? 少しは自分で勉強を……」

「メリクリウスよ、頼りにしているぞ」

「はっ! 私におまかせください!」


 クロエの言葉もあり、メリクリウスさんは即座に引き受けた。

 やっぱり、クロエに褒められたかった、頼りにされたかったんだろう。


 この人、なんだかんだで、クロエのこと大好きだよな。

 でも、わからないでもない。

 クロエって、人を惹きつけるなにかがあるからな。


 例えるなら、中国の3つの国の有名な話の、徳の人?


「あ、メリクリウスさん。傭兵を探す際に、注文をつけていいかな?」

「なんですか?」

「念話の魔法を使える人を、二人セットで、そうだなあ……最低でも、10人以上は欲しいかな」

「そんなこと……あなたは知らないかもしれませんが、魔法を使える傭兵は貴重なんですよ?」


 剣と魔法の世界なので、当然、魔法が存在する。


 ただ、魔法は誰もが扱える力じゃないみたいだ。

 血筋によって決まっているらしい。


 だから、流れる血によっては、どれだけ努力をしても魔法を使うことはできない。

 逆に、正しい血が流れていれば、簡単に魔法を使うことができる。

 もっとも、熟練した魔法使いになるためには、それ相応の努力が必要だけど。


 そんなわけで、この世界で魔法を使える人は限られている。

 それは魔族も同じ。


「魔法を使える傭兵なんて、かなり貴重です。その分、雇用料は他の傭兵の倍以上……下手したら、三倍、四倍にもなります。いくら資金を得られたとはいえ、そのような無駄をするなんて……」

「無駄じゃないよ。というか、今回の防衛網の構築には、魔法を使える人は必須なんだ」

「どういうことですか?」


 よし、話に食いついてきた。

 後は筋道を立てて説明して、納得してもらうだけだ。


「傭兵を雇い、巡回させて、防衛網を構築する。これは、メリクリウスさんも納得してくれたよね?」

「ええ、そうですね」

「ただ、それだけじゃあ、まだ弱いんだ」


 問題点を挙げる。


 兵士を巡回させれば、確かに、敵の早期発見や、あるいは、足を止めることができる。

 しかし、敵を見つけたとしても、本体がそれを知らなければ意味がない。

 密かに撃破されてしまえば、それで終わりだ。

 本体は敵の存在を知ることなく……

 敵は、こっそりと喉元に食らいつくことができる。


 日本……というか、地球では、こんな問題は発生しない。

 なにしろ、通信網が極度に発達しているからね。

 わずかなタイムラグで、地球の反対側とも連絡を取ることができるし……

 遠く離れた場所だとしても、なにが起きているか、自分の目で確かめることができる。


 そういう風に、本体が瞬時に状況を把握できるような防衛網を築くこと。

 それが、今回の目的だ。


「……なるほど。念話によって、瞬時に連絡を届けるようにする……確かに、理にかなった方法ですね」


 説明をすると、メリクリウスさんは納得してくれたらしく、反論の声を消した。


「で、巡回している兵士たちの連絡を受け取る本部も設置したいんだよね。そこで、各地からの情報を整理して、まとめて、必要とあればクロエたちに連絡をする。そういう風に、情報を瞬時に共有できるシステムがあるといいと思うんだよね」

「それが可能となれば、瞬時に連絡をとることができて、情報そのものが防衛網となる……悔しいですが、さすがと言わざるをえませんえ。そのような発想、私にはありませんでした。もしも、それが実現したのならば、かなり強固な防衛網となるでしょう。なにしろ、どこの国も種族も採用していない、新しいシステムですからね」


 納得してくれたみたいだ。

 よかった、よかった。


「メリクリウスよ。人材は確保できそうか?」

「正直、厳しいところはありますが……なんとかやってみようと思います」

「うむ、頼んだぞ」

「はっ、おまかせを!」


 メリクリウスさんが、やる気たっぷりに頷いた。

 クロエに頼りにされて、ものすごくうれしいんだろうな。

 もしも犬の尻尾があったとしたら、ぶんぶんと左右に揺れているだろう。


 この人、クロエのこと大好きだなあ。

 忠犬?


「……今、なにか失礼なことを考えませんでした?」

「そんなことないよ」


 鋭い。

 下手なことは考えないように、気をつけることにしよう。


「とりあえず、今しておくべきことはこれくらいか?」


 クロエが話をまとめようとするが、それに異論を唱えさせてもらう。


「待って。防衛策について、もう一つ、提案しておきたいことがあるんだ」

「ふむ? なんだ、カナタよ」

「その前に聞いておきたいんだけど、魔王城の一番近くにある人の街は?」

「そうだな……」

「人間の間で、エクスエンドと呼ばれている街が、ここから少しのところにありますね。それ以外は、時間をかけないと人間の街はありません」


 説明を頼む、というようなクロエの視線を受けて、メリクリウスさんがそう言った。


「その街がどうしたのだ? 防衛策に、どう関係してくるのだ?」

「うん。ちょっと考えたんだけど……」


 あらかじめて考えておいたことを口にする。


「その街を、攻め落とそうと思うんだ」

明日から、一日一回、12時の更新になります。


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