7話 防衛費の捻出
「というわけで、防衛策を練ろうと思うんだけど、どうかな?」
翌日。
戦いの後片付けがあらかた終わったところで、僕はクロエとメリクリウスさんを呼び、あらかじめ考えていたことを打ち明けた。
昨日、クロエに協力してもらい、調査をした結果、魔王軍は相当危険な状況であることを知った。
今すぐに応急処置をしないと、近いうちに自滅してしまう。
そのために、まずはなにをすればいいか?
僕が考えた最初の応急処置は、防衛策を練る、というものだった。
「ほう、防衛策か……カナタはそんなこともできるのか?」
「それくらいは考えられるよ」
「いや、そんなことができる者はなかなかいないぞ。さすがカナタなのだ!」
普通、考えて当たり前のことなんだけど……
もしかして、魔王軍には、そういう担当の人がいない……とか?
いや、まさかね。
仮にも軍として働いているんだから、そういう担当が振り分けられていて当たり前……
「正直に言うと、助かりますね。我が軍には、そういう担当をしている者がいないので」
「マジですか」
クロエの私生活など、色々と気になるところが多いな……
魔王軍の生活水準、及び、軍の機能は、僕が予想しているよりも遥かに低いのか?
昨日は簡単な調査だから、よくわからなかったけど……
可能性は高いな。
そのうち、詳しい調査をしないと。
でも、普通こんな状態なら、すぐに滅ぼされてしまいそうなものだけど……
そんなことはなく、魔王軍は、今もここに存在している。
うーん、どういうことなんだろう?
また一つ、調べることが増えたな。
「とにかく、防衛策を考えよう。今のままだと、何度も攻め込まれたらおしまいだよ」
「うむ、そうだな。我らの恥を晒すようだが……カナタよ、そなたの知恵を貸してくれないか?」
「うん、もちろん。今の僕は、魔王軍だからね。クロエのためにがんばるよ」
「はぅ……!? 我のために、今、我のためにと……ふぁあああ」
クロエが恍惚めいた表情を浮かべた。
ちょっと怖い。
「しかし、防衛策と言っても色々とあると思いますが……基本的に、資金が必要になると思います。それは、どうするのですか?」
「もちろん、それはなんとかするつもりですよ」
具体的には、先の戦いで捕虜にした兵士たちの釈放金を当てにさせてもらう。
あれだけの人数だ。
釈放金も相当なものになるだろうし、それを防衛策にあてればいい。
そう言うと、メリクリウスさんが呆れたような声を出した。
「やれやれ……あなたは、人間のことがなにもわかっていないようですね。同じ人間なのに」
「どういうこと?」
「あれだけの捕虜を、わざわざ金を払ってまで取り戻そうとする人間なんていませんよ。そんな奇特な人」
「むぅ……そうだな。今回は、メリクリウスに賛成だ。人間は、むしろ、これ幸いとばかりに厄介払いをするのではないか?」
「うん、そうだろうね」
「「え?」」
指摘されたことをあっさりと認めると、二人は不思議そうな声をあげた。
アスガルド王国の国王は、けっこうなところまで腐っていると思う。
金のためなら、兵士を見捨てるなんて当たり前。
そんな感じだろう。
でも、それなら、見捨てることができない状況を作ってやればいい。
――――――――――
魔族領にほどほどに近い、アサムという街がある。
特にこれといった特徴はないが、魔族領に近いため、街は砦のように厳重な作りになっている。
ただ、僕からしたら、警備はザルだ。
簡単に潜入できるし、色々とやりたい放題。
なので、あらかじめ細工をしておいて……
それから、捕虜にした兵士を適当に十人選んで、アサムの街に置いて、釈放してきた。
もちろん、ただ意味もなく釈放したわけじゃない。
彼ら、彼女らには、残りの仲間がいることを告げておいた。
そして、残りの仲間を釈放してほしければ、相応の金を払うようにと告げておいた。
兵士たちは、アサムの街の人に保護されて……
そして、もちろん、今の話はアサムの街の人々に伝わる。
捕虜になっている兵士が、まだたくさんいること。
しかし、金を払えば、今回のように、きちんと釈放すること。
それらの話が、加速度的に広まっていく。
人の口に戸は立てられない。
ましてや、捕虜の兵士の今後の運命という、わりと大きな話だ。
あちらこちらに話が広がり……
気がつけば、アスガルド王国のほぼ全ての民が知ることになった。
こうなれば、国王は捕虜を無視することはできない。
奪還のために攻撃をしかけてくる可能性は、なきにしもあらずだけど……
こちらが捕虜の命を握っている以上、そんなバカな真似はさすがにしないだろう。
実行に移したら、国民から袋叩きに合う。
結果……
国王は捕虜を無視することはできず、金を支払うしかない……というわけだ。
――――――――――
「……そんなわけで、捕虜を引き渡してきたよ。それで、それで得た金がこれ」
僕とクロエの部屋。
一連の策が成功して、僕は、その成果をクロエとメリクリウスさんに告げた。
メリクリウスさんの部下を借りて、捕虜を複数台の馬車に乗せて、そのまま運搬。
そして、捕虜を引き渡して……
代わりに、金を馬車に積んで戻ってきた。
「まさか、本当にうまくいくとは……カナタはすごいな」
「この金貨の山は本物なのですか? 偽物というオチではありませんか?」
「そんなことはないよ」
最初は、王国は偽物の金貨を用意していたんだけど……
きちんと調べたので、そんなものに引っかかることはない。
あと、捕虜の引き渡しを終えた後、人目のないところで追撃をしかけてこようとした。
捕虜さえ戻れば金を渡す必要はない、というメッセージなんだろう。
なので、追撃部隊を半数ほど斬り捨てておいた。
半分にしたのは、バカなことを考えないように、というメッセージを上に伝えさせるためだ。
そんなわけで……きちんと捕虜を返還して、大量の金貨をゲットした、というわけだ。
「むう……まさか、人間がここまでやるなんて。これは、少しは認めざるをえませんね」
「え、ホント?」
メリクリウスさんが、思わずという感じでこぼした言葉を拾う。
しまった、という顔をして……
それから、メリクリウスさんは、仕方ないという感じで口を開く。
「ええ、そうですよ。完全に信用してはいませんが……ある程度は、認めてもいいのかもしれません」
「ありがとう」
「れ、礼など不要です! 完全に信用していない、と言いましたよね? も、もしもおかしなことをすれば、即座に斬り捨てますよ」
「うん、それでいいよ。いきなり信じるとか言われても、それはそれで怪しいし、最初はそんなものだと思う。後は、僕が信頼を勝ち取っていくだけだから」
「……変な人間ですね」
「よく言われるよ」
「むうううっ」
突然、間にクロエが入り込んだ。
頬をいっぱいに膨らませて、僕を睨みつけてくる。
「なんなのだ、カナタ! メリクリウスとやけに仲が良いではないか! もしかして、メリクリウスのことが好きなのか!? そうなのか!? 我のことは遊びだったのか!?」
遊びもなにも、まだ友達のはずなんだけど……
という野暮はツッコミはやめておく。
「ヤキモチ?」
「うぐっ。そ、それはぁ……」
「安心して。僕とメリクリウスさんは、そういう関係じゃないし、そういうことも想っていないから」
「……本当か?」
「本当だよ」
「……なら、我のことが好きか?」
「それは、まだわからないかな」
「ぐはっ」
胸を刺された時のような仕草をして、クロエはがっくりと膝と手を地面につけた。
「引っかからなかったか……さすが、カナタだ」
「というか、今の流れで好きって言っちゃう人なんているのかな……?」
自分でツッコミを入れておいてなんだけど、クロエなら言いそうな気がした。
この子、言葉は悪いけど、すごくちょろいからな。
たまたまときめいた僕じゃなくて、もっと真剣に好きになれるような人を見つけてほしいんだけど……
まあ、恋愛は見つけるものじゃないし、無理は言うまい。
せめて、それまでの間は、僕が隣にいよう。
19時にもう一度更新します。




