6話 へっぽこな魔王軍
魔王城に攻め込んできた人の兵士たちは、おとなしく投降する者は全て捕虜にした。
かなりの数だったから、魔王城の牢屋はパンク寸前だ。
近いうちに、なんとかしないといけない。
でも、攻撃を乗り切ることはできた。
ヘベクは軍部の最高責任者だったから……
そのヘベクが消えた今、すぐの攻撃はないと思う。
しばらくは安心できるというわけだ。
後は、適当なタイミングで捕虜の扱いを決めればいい。
「うーん」
目先の問題は解決されたけど、その他の問題は解決されていない。
その他の問題っていうのは、人の軍、魔族とかは特に関係なしに、主に僕の問題だ。
「魔族って、血も涙もない、殺戮をなによりも好む種族なんだよな?」
少なくとも、僕は、アスガルド王国の国王から、そんな風に聞いていた。
魔族は生きとし生きるものの天敵。
故に、討たねばならない。
討たれる前に。
だから、ほぼ奴隷のような扱いでありながらも、僕は勇者として戦い続けてきた。
でも、実際はどうだろう?
クロエは、血も涙もない殺戮者だろうか?
「違うよなあ」
魔王としての力はあるものの……
どこか抜けていて、でも優しくて、かわいい魔王だ。
話せばきちんと理解してくれるし、無闇に力を振るうこともない。
他の魔族もそうだ。
メリクリウスさんとか、嫌われてはいるものの、話がわからない相手じゃない。
きちんと説明すればわかってくれる。
「こうなると、国王から聞いていた魔族の話は、ほぼほぼウソって思った方がいいなあ。でも、なんでそんなウソをついたんだろう?」
そこがよくわからない。
わからないと、モヤモヤして落ち着かない。
今度、時間がある時に調べてみよう。
「それよりも……まずは、魔王軍について色々と調べてみようかな」
クロエのこととか。
質素を通り越して、貧乏な懐事情とか。
魔王城目前にまで簡単に攻め込まれているところとか。
気になることが多すぎる。
僕も今後は関係していくことになるから、その辺りはしっかりとしないと。
――――――――――
「……これはひどい」
一通りの調査を終えた僕は、思わずそんな台詞をこぼしていた。
クロエに協力してもらい、魔王軍の調査をしてみたんだけど……
予想以上にひどいことになっていた。
まず、資金。
毎年赤字を叩き出しているらしく、国家の予算は底をついていた。
あの極貧生活も納得だ。
部下に給料も払えていない。
今残っている魔族たちは、忠誠心だけで残っている状態だ。
それも、ほんのわずかで……
メリクリウスさんとの決闘に集まった方で、ほぼ全員。
百人に満たない、とんでもない有様だ。
そして、施設の状態は最悪の一言に尽きる。
お金がないから、メンテナンスをすることができない。
メンテナンスができないから、次々と施設が壊れていく。
修理をするお金もないから、そのまま放置。
必然的に、他の施設を限界を超えてフル稼働させることになり……
結果、他の施設も潰れる。
とんでもない悪循環だ。
それから、魔族の質。
今残っている魔族は、クロエに対する忠誠心が強い。
それは良いことだ。
でも、その力は微妙だ。
ロクなものを食べることができないから、自然と力が下がり……
施設も壊れているから、強くなることもできず……
なかなかにひどい。
正直、アスガルド王国の兵士の方が強いんじゃないかな?
他にも色々な問題点があって……
軽く調査しただけでこれだ。
本格的な調査をしたら、問題点が山程出てくるんだろう。
「これ……人がなにかしなくても、そのうち、魔王軍は自滅するんじゃあ?」
そんなことを思うくらいに、今の魔王軍はボロボロで、ズタズタで、オンボロで……どうしようもないくらいに落ちぶれていた。
「へっぽこなのはクロエだけじゃなくて、魔王軍も同じ……か。はは、笑えない」
これから魔王軍に身を寄せるんだけど……
僕、大丈夫かな?
ついついそんな心配をしてしまう。
「カナタよ!」
自室で頭を悩ませていると、クロエが元気よく部屋に入ってきた。
寝間着を着ている。
もう夜なので、城の外の湖で水浴びをして、それから着替えてきたらしい。
「一緒に寝るぞ! 我の隣で眠れることを光栄に思うがよい」
「うーん、その前に聞きたいことがあるんだけど」
「一世一代の誘いをあっさりと断られた!?」
クロエが勇気を振り絞って言ってくれたことはわかるんだけど、今は、他の話をしておきたい。
僕だけじゃなくて、クロエにも関係することだからね。
「クロエたち魔王軍は、今、人と戦争をしているよね?」
「うむ、そうだな」
「勝算はどれくらいあると思っている? 素直なところを聞かせてくれないかな」
「む、むう……」
クロエがものすごく苦い顔をした。
ややあって、小さな声で、絞り出すように言う。
「……ゼロだな。今の魔王軍に、戦争をするような体力はない。というか、戦争をしなくても維持できるかどうか……そんな際どい状態だ。ぶっちゃけ、勝算はないな」
「素直に認めるんだね」
「現実から目を逸らしても仕方ないのだ。ただ、諦めたつもりはないぞ。まだ詰んではいない。どうにかして、ここから立ち直り……我を信じてついてきてくれる皆のために、できる限りのことをしようと思う」
具体案はないらしい。
ただ、クロエの言葉に宿る熱は本物だ。
部下のことを心の底から考えている。
為政者としての能力は足りないかもしれないけど……
でも、統治者としての資格はあるんだろうな。
クロエらしい気がした。
「なら、僕に手伝わせてくれないかな?」
「む? カナタが?」
「僕も魔王軍の一員だから。ここから、なんとか魔王軍を立ち直らせていきたいと思う」
「本当か!? カナタが力になってくれるのか!?」
クロエはいっぱいの笑みを浮かべて、僕の手をぎゅうっと掴んできた。
「……ふあ!?」
そして、自分の大胆な行動に自分で恥じらい、赤くなって離れた。
「えっと……ち、力になってくれるか?」
「うん。僕で良ければ、喜んで」
「うむ……ありがとうなのだ!」
クロエがにっこりと笑う。
この笑顔が曇らないように……
ずっと輝いていられるように……
クロエのためにがんばろう。
僕は、そう決意した。
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