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第8話 レベルループ

 『白金都市プラチナム』に到着。

 巨大な都市なため人も多い。

 住人、冒険者、商人、旅人などなど。

 商業区と住居区、貴族区と王族区にわかれている構造だ。

 俺は商業区に存在する『休憩所』へと向かう。

 『安らぎの聖石』が置かれている場所は、村や街には必ず一つはある。

 『白金都市プラチナム』には複数あるのでありがたい。

 休憩所は数百人は入りそうな会館みたいな見た目だ。

 ホールがあり、そこに『安らぎの聖石』が置かれていて、その周辺で冒険者や探索者たちが自分のステータス画面を開き操作している。

 こういうところはちょっとゲームっぽいよな。

 見るに初心者から中級者辺りがいるみたいだ。

 まあ、知り合いもいないしどうでもいいか。

 ただ、何が起こるかわからないし、少し人ごみから離れることにした。


「いよいよか!」


 魔都ルーンデルからここまでそれなりに時間がかかった。

 カンストしてるし、慣れているから道中の魔物は障害にならなかったけど。

 しばらくお預けを食らっていたから、俺の期待もぐんぐん上がっている。

 さてやるか!

 

「レベルループ!」

『レベルループをしますか?』


 機械音声が耳朶を震わせた。

 俺は目を閉じて、感慨にふける。

 カンストまで五年以上かかった。

 その苦労をすべて失うことになる。

 レベル1からやり直すことになるのだ。

 あの狩りの日々をもう一度繰り返す。

 今ならまだ間に合う。

 本当にレベルループするのか?

 

「するに決まってるだろ!」

『了承。レベルループ開始します』


 機械音声が響くと、俺の身体が眩く光り出す。

 同時に身体中から力が抜けていく。

 これはレベルドレイン!?

 どんどんと俺からレベルが奪われていく。

 光と風が渦を巻く。


「な、なんだ! あいつ光ってねぇか!」

「おい! 街中でスキルとか魔術使うなよ!」


 俺の様子に気付いた連中が騒ぎだす。

 目立ちすぎている。

 だがもうどうしようもない。

 俺はなすすべなくすべてを奪われた。

 そして。

 光は消え、風は止んだ。


「へ、変態だ! 変態がいるぞ!」


 誰かが叫んだ。

 変態? そんな奴が街中に?

 おいおい、俺のレベルループの邪魔しないでくれるかな?

 周りを見ると、全員が俺を見ていた。

 なんだ?

 なぜ俺を見ている?

 俺は自分の体を見下ろす。

 ……素っ裸だった。


「お、俺の装備が消えた!?」


 装備は足元に転がっていた。

 防具も武器もすべて。

 はっとして素っ裸のままステータス画面を開いた。


●名前:マイル

 ループレベル:1

 レベル:100 → 1

 EXP:0/120


 ステータス:HP  999 → 41

       MP  321 → 10

       STR 99 → 8

       VIT 78 → 6

       AGI 99 → 8

       INT 48 → 3

       MND 55 → 4

       LUC 81 → 7


 スキルポイント: 143 → 10



「確かにレベル1になってるな。

 ん? 何か追加されてるぞ」


 ステータスに変化があった。

 レベル項目の横に新たな項目が追加されている。


「ループレベル1?」


 通常のレベルとループレベルがあるようだ。

 恐らくループレベルはカンストした回数。

 これはつまり、何度もカンストして周回できるということでもある。

 上限突破レベルみたいなもんか。

 あったな、そういうゲーム。


「そうだ、永続ボーナスがあったな。

 こっちもやらないとな!」

「素っ裸のままステータス操作してるぞあいつ!

 変態だ!」


 俺は周りの騒ぎを無視して、永続ボーナスを割り振った。


       AGI 8+10


 永続ボーナス10をすべてAGIに割り振る。

 AGIアジリティは俊敏性とスタミナに影響があるステータスだ。

 狩りにおいて重要なのは『死なないこと』そして『狩り速度』と『経験値効率』。

 ではなぜAGIなのか。

 STRストレングスは攻撃力や腕力に影響がある。

 魔物を倒す速度は上がるが、装備で上げれば問題ないのでいらない。

 VITバイタリティはHPや防御力と耐久力に影響がある。

 敵の攻撃を受けた時には有用だが、そもそも俺は敵の攻撃を食らわないのでいらない。

 INTインテリジェンスMNDマインドはMPや魔術や聖術の威力と防御力、状態異常耐性に影響がある。

 俺には不必要だ。俺は戦士系だし、ヒールも最低限あればいい。

 LUKラックはアイテム発見率やレア発見度、クリティカルヒット確率などが上がる。

 アイテムも欲しいものはないし、パリィするからクリティカルヒットもいらない。

 ってことでAGIを上げた。

 敵の攻撃をパリィ、あるいは避けて隙を見つけて攻撃するという俺の戦闘スタイルに合致しているしな。

 いいぞ、本当に永続ボーナスが付与されている。

 レベル1なのにレベル15くらいのステータスになったのだ。

 なんか気分がいいな、これ。

 俺は思わず笑みを浮かべた。

 すると寒気を感じる。

 あ、裸のままだった。

 この世界では武器防具に適正レベルがある。

 そのレベルに達していないと装備できないのだ。

 だから装備が剥がれたんだな、きっと。


「衛兵呼べ! 衛兵!」


 おっと、騒ぎが大きくなってきたな。

 このままだと俺は変態のレッテルを張られ、牢屋に入れられ、そして狩りができなくなる。

 レベル上げは俺の人生であり、俺の幸福。

 それを奪われるなんて生きていけない。

 ってか、なんで下着まで剝がれるんだよ、おかしいだろ!

 あ、下着も特注品だった……レベル1じゃ装備できない奴。


「装備レベルを完全に忘れてたな……レベル1で装備できるやつあったか?」


 ない。あるわきゃない。

 低レベルの装備なんて邪魔でしかないんだから、そりゃ捨てる。

 一応、必要レベルのないマントがあったので、すぐにインベントリから取り出し、腰布にした。

 これで恥部は隠れた。

 しかしなんだろう。

 変態らしさは薄れていない。

 装備を買いに行くにも外に行かないといけないし。

 この格好で?

 まずいね、それはね。


「あ、あの」


 振り返ると中性的な優男が立っていた。

 顔立ちは異常に整っているが、今は苦笑に満たされている。

 軽鎧と小盾、長剣、外套という冒険者として定番の装備をしていた。

 恐らく中堅冒険者。レベル20くらいか?

 その男は俺に何かを差し出してきた。 


「よかったら、これ。

 初心者冒険者の服と武器。レベル1でも装備できると思う」

「いいのか?」

「うん。僕はもう使わないし」

「助かる。ありがとう」


 快く頷く男に俺は頭を下げつつ装備を受け取る。

 初心者の時にギルドで貰える武器防具だ。

 最低限の防御力と攻撃力しかないが、ないよりはマシだろう。

 服を着るとようやく人間性を取り戻せた。

 あやうく人じゃなくなるところだった。


「もしかして高レベルの防具を装備しようとしたのかな?

 付与とか魔力が込められていたりとかする装備って低レベルだと弾かれて、装備がはがれるから」

「ああ、忘れてたよ。

 助言、助かる」


 こう見えて俺は殊勝な男だ。

 他人の助言には素直に耳を傾ける。

 ネットで情報を検索するのが当たり前の時代。

 時にSNSや掲示板やコミュニティでそういったやり取りをすることもある。

 その時に偉そうな奴、勘違いしている奴、馬鹿な奴、クズな奴とも出会うが、俺はすべての発言に一旦は目に通すようにしている。

 重要な情報がある可能性があるからだ。

 まあ、砂漠で砂金を探すくらいの可能性だけどな。

 それとは違い、この男は親切だし、言っていることもまともそうだ。

 助言を聞かない理由がないな。


「うん。

 でもなんで下着まで剥がれたんだろ……?

 下着に効果を付与するなんて話し、聞いたことないけど……」


 俺が無理やり『知人』に頼んで付与してもらったのだ。

 少しでもステータスを上げたくてな。

 まあ、ものすごい嫌な顔されたけどな。

 あいつ、元気かな。


「おい、カスパー!

 初心者に構ってねぇで行くぞ!

 このノロマが!」

「ご、ごめんロイド。すぐ行くよ!」


 遠くの方でこちらを見ていた連中が声を張り上げた。

 一人はロイドと呼ばれた卑屈そうな金髪の若者。戦士っぽい。

 一人は屈強そうだが性格の悪そうな大男。重戦士っぽい。

 一人は性格の歪んでそうな髪の長い女。魔術師っぽい。

 ふむ、数多のクズを見てきた俺にはわかるぞ。

 あいつらの性格は悪い。


「悪いね。僕は行くから。

 ソロだと危険だから、絶対にパーティを組んでね!

 それじゃ頑張って!」


 笑顔で手を振るカスパーと呼ばれた少年。

 ふむ、爽やかだ。

 他の三人に比べて、まともな奴らしい。

 俺はカスパーに手を振りながら見送る。


「さてと、狩場に行きますか。

 もちろんソロで!」


 俺はカスパーの助言を無視して、休憩所を出た。

 助言は聞く。

 だが言う通りにするかは別の話である。


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