1日目
「あつーーー…そしてマジでうるさいんだけど」
僕の真下を人間が歩いている。
土の中から出てきてどのくらい経ったのだろう。
朝日はいつの間にか真上に来ていた。
そして、僕は鳴いている。
「マジ、鳴くだけで暑く感じるのよね」
なんて失礼な人間なんだ。
食物連鎖で最上位にいるからと大きな顔をしているのが気に食わない。
だから僕はさらに腹を震わせ大きく鳴いてやった。
ざまぁみろ。
「マジで、滅びればいいのに」
なんてことを言うんだ、この人間は。
僕は「ミンッ」と最後に鳴いて飛びだった。
一つ断っておこう。
決して傷ついたからではない。
場所を変えたくなっただけなのだ。
木の上を羽ばたけば太陽の熱が僕を焼いてくる。
今年の夏は暑い…
それは、僕でも思う。
太陽の眩しさにクラリときた。
羽ばたくたび、景色が揺れる。
空気の匂いが変わった。
夏の匂いではない。
……まあ僕は蝉だから匂いなんてわからないんだけど。
休憩しよう。
次はあの木だ。
次の木で周囲を知るためにも鳴いてみた。
おや、ここは涼しい。
鳴きやすい。
しかし…、この周囲はかなりうるさい。
なんとも言えない煩さだ。
人間が出す騒音とはまた違う。
僕を狙う鳥たちの声ではない。
何か獣が唸るような。
狼か?
否、周囲を見れば見たこともない獣が毛を逆立てている。
その反対には見慣れない服装をした人間が白く煌めく細長い棒を持っている。
虫取り網ではなさそうだ。
つまり、僕には何にも被害はない。
僕の仲間も、よく人間に捕まっていた。
捕まるだけではない。
あの大きな手に掴まれ、知らない土地へ連れて行かれるのだ。
小さな箱に入れられ、ただ鳴くことだけを強要されるものがあるとも聞く。
仲間だけじゃない。
虫の王とも言えるカブトムシでさえ人間には敵わないことがあるそうだ。
そんなことを考えながら人間と獣を見る。
人間が先に動いた。
白く煌めく棒は空を切る。
瞬く間に獣を貫いた。
その光景は、僕の知る惨さとは違った。
虫取り網よりも凶暴で、鋭く、無慈悲な光景だ。
僕は柄にもなくビビってしまった。
鳴くことすらできないほど。
しかし、僕は蝉だ。
子孫を残すためにも鳴き続ける義務がある。それが僕に課された使命…。
ここで鳴けないのなら場所を変えるだけだ。
そう、僕は飛べるのだ。
鳴けぬなら場所を変えようミンミンゼミ
僕は偉人ならぬ、偉蝉になれるのかもしれない。
僕は逃げるようにまた飛び立った。
その時、おもわずお漏らしをしたことは伏せておいてほしい。
かかってしまったのだろうか、人間が僕を見上げていた気がした。




