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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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守りたかったモノ・2




 準備を整え、凛は鏡で自分の姿を確認する。フードとマントで気付きにくいが、その下には玉をこれでもか、という程仕込んである。

 大体の事はこれで対処出来るだろうが、この世界の科学の力が相手だと、どうなるかはわからない。地球の科学を参考にはしたが、地球と同じとは限らない。


「屋敷の結界が強すぎるのは、ネイリールさんでしょうね」


「そうっすね。フェルディナント殿だけの結界がこんなに強いわけないっすからね」


 自分の力を使い慣れていない凛だからこそ、破れない結界。


「俺が通った時少し亀裂が入ったんで、其処からっすね」


「そうだね」


 結界さえ壊さなければ、ネイリールが気付くのは遅れるだろう。


「あ…そういえば、こんなの作ってました」


 フェルディナントに頼まれた無効化の玉を作った時、面白くて魔力や姿を他者から見えなくなる玉も作った。ただの興味本位で作った玉が役に立つかもしれない。


「これは?」


「これは相手に放つ事で魔法を無効化にする陣を描き込んだもので、こっちが改良版の、本人の存在を他者が一切感じ取れなくなる玉です」


「あぁ。そうっすね」


 そっちの方が安全だと、テノは左手を差し出し、凛に陣を移してもらう。テノの全てが見えなくなった後、凛も左手に陣を移した。

 その瞬間、テノと凛は他者から完全に存在を消し、互いの姿だけは確認出来るようになった。


「便利っすね」


「そうだね。効果を消したかったら、指先で陣を真っ二つにするように切れば効果は消せます」


「わかったっす」


 これのおかげで、亀裂からではなく真正面から結界をすり抜ける事が出来た。

 覚悟もしていたが、何も揺るがずに結界はそこに存在している。


「あっさりっすね」


「そうだね…」


 凛もまさかここまであっさりと結界を抜けれるとは思っていなかった。外に出ても、他者の目には2人は映っていない。


「いっきに城まで行った方がいいっすね」


 姿は見えなくても、足跡は残る。

 フェルディナントの屋敷の裏にまわり、テノは魔法陣を描き出した。城に通じる直通の魔法陣。


「師団長なんで、この魔法陣は知ってるんすよ。1回でも使えば後に残らないんすよ」


「そうなんだ」


 手馴れているのか、テノの魔法陣を描く速度は速い。


「(城の結界か……こっちまで何も伝わってこないや)」


 屋敷の結界を抜けたら、頭痛や吐き気は収まったものの、嫌な予感だけがいつまで経っても消えない。だからこそ行かなくては、と思ってしまう。

 城を見つめたまま動かない凛の様子を横目で確認しながら、魔法陣に呪文を描き込んでいくテノ。本当に凛を連れて行っていいのだろうかという思いが消えない。

 凛は屋敷に閉じ込められていたから気付かなかったが、テノは恩恵持ちが倒れていった時、絶対的な力を感じた。2人が持ってきた荷物に対して。

 人間には一切脅威は感じなかった。だからこそ、持ってきたその何かに対し、テノは嫌な予感しか覚えなかった。

 だからこそ凛を連れて行く事は未だに迷うが、屋敷に置いていったとしても、単独行動を取るだけだろう。

 最後の呪文を書き上げ、それに魔力を注ぎ込む。


「リーンさん」


「うん」


 テノが手を伸ばし、テノが伸ばした手を凛が握る。

 2人の姿は一瞬で掻き消え、それに伴い魔法陣も完全に消えていく。

 跡形さえも残さずに。










「ここは…」


 転移されて来た場所は、何もなかった。

 真っ白の部屋。


「精神統一の部屋っす。ここからなら王の間も近いっすから」


「そうなんだ」


 この部屋にも結界が張られているのか、何も伝わってはこない。


「リーンさん。覚悟はいいっすか?」


 部屋を出てしまえば、恐らく何かに襲い掛かられるだろう。

 テノはその時の感覚を思い出し、拳を握り締めた。


「うん。行こう」


 凛の覚悟は既に決まっているのか、無表情のまま頷く。

 ドアノブに手をかけ、最後の悪あがきのようにゆっくりと扉を開けた。


「「──ッッ!!」」


 2人同時に顔を顰めた。

 淀んだ空気が城中に充満しているのか、視界を確保する事の方が難しい。


「すごいっすね」

 

 テノが本音を漏らす。まさかここまで酷い状態だとは思ってもみなかった。


「………」


 それに対し、凛は口を噤んだまま、謁見の間がある場所を睨み続けている。


「…リーンさ…」


 声をかけようとしたが、凛の色々なモノを押し殺した表情に何も言えなくなる。


「人間っていうのは、愚かで残酷だね。

 守りたいとさえ……思えないよ」


「リーンさん…」


「オレは行きます。テノさんは…」


「当然行くっす。リーンさんの傍は離れたくないすから」


「そっか。じゃあ行こうか」


 淀む空気の中、凛は迷わずに進んでいく。まるで目印があるかのように、足取りに迷いはなかった。






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