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32球 その弱さは何処から?

 ウチの男バレは学年の壁っていうのは関係無いんだなあと気付かされることになった。

 特に世凪先輩と律先輩。なんだか、とっても良い関係に見えるんだよね。

 上手い具合にストイックな九世凪いちじく・せな先輩と熱意のある夫馬律樹ふま・りつき先輩を見ているとウチの男バレって学年の差に関係無く、いい感じにバランスが取られているように感じている。でも、みんながみんな何事にもストイックに出来るってわけでもないし、熱意がメラメラと感じられるってわけでもないのはしょうがない。人それぞれに努力の仕方っていうものは違ってくるし、どういう面を頑張ろうとしていくのか、っていうことも違うもんね。ただ……練習中でも、先日の練習試合の中においても何処か弱腰というか、弱気というものが目立ってしまっている先輩が一人いる。他のみんなが練習に集中しているせいだろうか、どうしてもその人の弱弱しさのようなものが目立ってしまっているようだ。彼の弱腰というものは一体どこからきているものなのだろう?何か、理由でもあるのだろうか。それとも、単に彼の性格ゆえっていうことなのだろうか。

 なにか、なにかちょっとでも先輩の弱気を少しでも和らげることができるようになれると良いんだけれど……。


「ひぃっ!わ、悪い悪い!と、取りにくかったか!?」

「す、すまんすまん!届かなくて悪い!」

「どぉわ!?わ、悪い!ぶ、ぶつかりそうになったよな!?だ、大丈夫だったか!?」


 朝練のレシーブ練習、そして午後には支柱を用意してネットを張って、サーブの練習やサーブレシーブの練習をおこなうことも多いのだけれど、熱意あふれる男バレの中で、どうしても目立ってしまっている人物が一人。だいたいいつも猫背で歩いている毒島琉生ぶすじま・るい先輩である。

 彼は、私から見ても凄く背も高くて体格にも恵まれているし、バレーをやるなら最適な身体つきをしていると思う。……のだけれど、毒島先輩は練習中でもほとんど猫背で過ごしていることが多いし、たびたび世凪先輩からは『その猫背、直しなって言ってるよねぇ!』と注意をされながらバシバシと強く背を叩かれているところを見かけている。う~ん……どうしても猫背になってしまう理由、クセのようなものでもあるんだろうか。でも、練習試合の中ではスパイクを打つ場面を何度か目にしたもののそういうときには丸まっていた背をしっかりと伸ばして強く勢いのあるスパイクを打てていた気がする。その状態を普段の練習の中でも続けていくことは難しいのだろうか。


 決して毒島先輩が悪いというわけではない場面においても、彼の口からまず出るのは謝罪の言葉。本当に自分が悪いという気持ちを持っているのかもしれないが、明らかに毒島先輩が悪くは無いっていう場面、彼がミスをしたというわけではなさそうな場面においても彼の口からは当たり前のように謝罪が出てきてしまう。

 バレーそのものが苦手?いや、バレーが苦手だったらそもそもバレー部には入部していないよね……三年生までバレー部員として続けていることは凄いことだし別に下手……には見えないと思う。

 他人に気を遣う性格が強いのだろうか?でも、それって猫背になる必要はある?猫背になる理由……毒島先輩は部内においても背が高い方に分類されている方だ。だからバレーをする人間としては背が高いってことはそれだけ有利になることも多い。ゆえに、自信を持っても良いと思うのだけれど……毒島先輩はそういう考えを持つことは苦手なのだろうか?


「……今日は、毒島の観察?」


「あ、杢代もくだい先輩。はい……毒島先輩の猫背って結構目立つなあって思っていて……」


 ある程度、練習に必要なモノを準備してしまうと部員たちの練習の観察をすることが多くなってきた私に声を掛けてくれるのは三年でマネージャーの杢代瑠璃もくだい・るり先輩だった。いつも部活が始まると長い黒髪をポニーテールにして結い上げて、如何にもこれから「頑張るぞ!」っていう感じに気合いが入っているのが分かる。そして何よりも杢代先輩は美人なので、男バレ部員からすれば目の保養になっていることだろう。(部の中には私も目の保養の一つになっていると言われているが、私なんて目の保養になれるような存在ではないので苦笑いばかり浮かべて、そんな冗談は止めてください……と笑っていた)。


「確かに。毒島っていつも猫背でいるよね。同学年だから付き合いがそこそこ長い私でも猫背でいない毒島を見る方が少ないと思う」


「う~ん……せっかく恵まれた体格を持っているのに、わざと自分は背はそれほど高くはないです!って周りにアピールしているみたいで、ちょっと……勿体無いですよね」


「勿体無い……うん、確かに」


 バレーは背が高い方が明らかに有利だ。だから背が低い選手は最悪レギュラーになることだって難しい学校だってあるかもしれない。多少、技術が弱くても背が高いという理由だけでレギュラーに入ることができてしまうことだって少なくないのだ。だから、毒島先輩のように自分の背を低く見せるように過ごしているというのは不思議に感じてしまう。


「自信が……少ないんでしょうか……」


「自信、なのかな。毒島は別に自信があるとかないとかって理由で猫背になっているのとは少し違う感じがする……」


「え。杢代先輩って何か知っていたりするんですか?」


「ちょっとそこまでは分からない、かな」


 ちょうどこれから短いながらも休憩に入る予定だし、ちょっと毒島先輩に話し掛けてみようか。そうすれば毒島先輩の猫背の理由も聞けるかもしれない。もし、何か力になれることがあれば毒島先輩の猫背が少しずつ改善していけることだってあり得る!よし、思い切って毒島先輩に話し掛けてみることにしよう!


「よーし、一旦、ここまで!ちょっと休憩にするからなー!」


 大きな声で部員に声を掛けたのは主将の鐙凌駕あぶみ・りょうが先輩だった。すると、各々タオルで汗を拭いたり、私と杢代先輩が一生懸命に準備をしていたドリンクを口にすることで水分補給をはじめていった。よし、ここだ!

 私が、思い切って毒島先輩の近くへ歩み寄ろうとするのだけれど、毒島先輩は私が近付いてくることに気が付いたらしく、距離を置こうと後ろへと下がって行ってしまう。……あれ?あの、私は毒島先輩に用があって近くに寄りたいんですけれど!そんな、逃げるように下がらないでください!ちょっとだけ、ちょっとお話がしたいだけなんですよ!


「あ、あの!毒島せんぱ……」


「ひぇっ、お、俺か!?俺なにかまずいことでもしたか!?」


「ええ?ち、違う、違います!ちょっとお話したいことがありまして!」


「は、話!?お、俺とか!?な、なんだ!?俺が変なことでもしちまったのか!?わ、悪い!悪かった!」


 ええ!?いや、何もしてません!毒島先輩が謝罪するようなことは何もしていませんから取り敢えず謝るのだけでも止めてもらえませんか!?


「ち、ちが……えっと、お話を!単なる雑談をしたいだけなんです!」


「ひぇっ!……ざ、雑談?」


「……はい……」


 下級生の、しかも女性の私に対しても話し掛けようとすればビクビクと怯えてしまって、さらには謝罪の言葉も述べてくるものだから何とかして毒島先輩には落ち着いてもらいたくて何度も言い聞かせるのだけれど……ビクビク具合は落ち着いてはくれない様子。どう、話し掛けるのが良いんだろうか。これでは毒島先輩とゆっくり話がしたくてもいつまでたっても出来ないままになってしまう。決して多くはない男バレ部員だから一人一人とは話をしてどんな選手なのかということは知っておきたいところなのだけれど……入って来たばかりの私だと、そう落ち着いて話すことは難しいのだろうか……。

 ある意味、取り扱い説明書が一番欲しいのが毒島です。どうすればまともに会話ができるのか、他の部員と一緒なら話せるのか、それともいつなら彼は落ち着いてくれるのか……難しいところですね。


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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