33球 毒島琉生(ぶすじま・るい)
私だけだとどうしても落ち着いて会話が出来ない……仕方ない、と近くにいた副主将にヘルプのアイコンタクトを出した。
どうやら私からのヘルプに気付いてくれたらしい月見里先輩が『なんだなんだぁ~?』と私たちのやり取りの間を取り持ってくれることになった。
「ひぇ!な、なんだ!?蒼葉も俺に用事か!?」
月見里蒼葉先輩も参戦したことによって最初はビクビクしていたものの少しずつだが私の話に耳を傾けてくれるようになった毒島琉生先輩。良かったー……取り敢えず、これで話をはじめることができる。さっきまでは話なんて出来る雰囲気じゃなくて、毒島先輩に近付くたびに距離を取られて逃げられていたもんね。慣れない人間が近付くことが苦手なんだろうか?でも、月見里先輩に対してもちょっとビクビクしていたっぽい?同学年だからまだ一緒にいた方が気持ち的に楽かな~と思って間に入ってもらうことになったんだけれど、毒島先輩……何が苦手なんだろう?
「あの、毒島先輩って猫背で過ごすことが多いですよね。それって何か理由があるんですか?」
「ひぃ!すまんすまん!あー……クセ、みたいなものかな……それで、いつの間にか猫背で過ごすことが当たり前になってきちゃってて……はは、三年のくせに情けないだろう?」
「いえ、三年だから情けないとかは思わないです。ただ、ずっと前からなんでだろう?とは思っていました。……猫背になっちゃう理由。もしかして毒島先輩の恵まれた体格に理由があるのかなと思っていますし……」
「……体格が恵まれているから猫背になるもんかぁ?」
ついつい口を挟んでくるのは月見里先輩。まあ、ヘルプを出してしまったし、気になることがあれば口を挟んでくれるのは良いんだけれどメインに話をしたいのは毒島先輩だ。きちんと毒島先輩の口から何があるから猫背になってしまう、過去にこういうことがあった……とかって話でもあれば聞きたいところなのだけれど……。
「あー、確かに背が高いと目立つからなあ……俺、あんまり目立つことは苦手だったりするし……」
「そうなんですか?」
バレーをしていたら、やっぱり背が高い選手っていうのは目立つ。でも、それが嫌なのかな?
「背が高い=ブロックとかも上手そうだ、っていうイメージが持つだろう?実際、俺にもそういうイメージで見られることがあったし。……でも、俺そんな言われるほどバレー上手くないんだよ。周りに迷惑掛けてばっかりだしな。だからあんまり目立たないように……背を少しでも低く見せるように猫背になるのは……あるのかもしれない」
う~ん……イメージとしては、そりゃあ持っちゃうかもだけれど……本当にそれだけだろうか。何か、他の人間から何か言われたことでもあったんじゃないだろうか……。他の部員……の顔ぶれ的に毒島先輩が傷付くようなことをわざわざ言うような人なんていない気がする。となると……前にいた監督とやらだろうか。
「……もしかして、以前までいたという監督に、何か言われたりしていたんじゃないですか?」
「……っ……それは、少し……」
「おいおい、あれは少しだなんて言えるようなモンじゃないだろ~?まあ暴言とかは確かに酷かったしなぁ……琉生は体格に恵まれていたから試合にも早くに出させてもらうことが出来たんだけれど、そこには技術が伴っていないのに急に試合に出したら当然ミスも多くなるだろう?それを監督だって分かっていたはずなのに、全てのミスは琉生のせいだ!お前が悪い!って言いだしててさぁ……さすがに俺もブチ切れそうになったんだよなぁ~……」
あぁ、なんか納得できた気がする。毒島先輩が猫背で過ごすことが多い理由。それってつまり前までいた監督の言葉がトラウマになっているのかもしれない。今はだいぶ落ち着いてきているのかもしれないけれど、どうしても猫背になってしまうのは以前の監督に言われていたことが引っかかっているからなんだろう。これは、相当時間を掛けていかないと直せるものじゃないかもしれない……。
「あの、毒島先輩。今のチームメイトたちは毒島先輩に酷いことを言う人たちはいませんよ。もちろん谷古宇監督だって毒島先輩に酷いことを言ってきたりしましたか?きっとそんなことは言わないと思います。だから少しずつでも良いので、猫背……直してみませんか?」
「自分でも……このままじゃダメだとは思っているんだけれど……なかなか、難しくて……」
分かってる。だから時折、世凪先輩辺りから背中をバシバシと叩かれているのだろう。でも、それって毒島先輩のことを気に掛けてくれているからの行動なんじゃないのかな?ただ意味も無く、猫背がだらしないから止めろって言っているわけじゃないよね。
「下級生との練習試合のとき……世凪先輩が上げたトスを見事にスパイクして見せたときの毒島先輩、とっても恰好良かったです!あの時、猫背だなんてことは忘れていたんじゃないですか?そうじゃないとあそこまで綺麗なスパイクは決められませんよね。……もっと堂々としていて良いと思います。目立つことは苦手だと言っていましたが、バレーって背だけで勝負するものじゃありませんからね。そこには技術だったり、メンタルといったものもありますから。でも、背をピンと伸ばした毒島先輩ってとっても恰好良いですよ!」
「……千早ちゃん……」
「お、千早ちゃんもなかなか言うねぇ~。確かに、背も目立つスポーツであることには違いねぇけれど……それ以上に目立つことってあるじゃんか。コート上で、どんなプレーをするかってことだよ。上手いレシーブをした時なんてめちゃくちゃ周りが大騒ぎするじゃん?すげぇスパイクが相手コートに決まったときだって会場中がワッと騒ぐだろう?琉生は、これからいろいろな技術をさらに高めていけば良いんじゃねぇかな?そして自分は背だけが高いわけじゃないんだぞ!って周りにアピールするんだよ、技術でさ」
さすが副主将、こういうとき同期で今まで頑張ってきただけ苦労も知っているのか、言葉の重みが違う気がした。そんな月見里先輩の言葉を聞くと、だいぶ時間が掛かってしまったがそれでも小さく頷き返してくれた毒島先輩。それを見て私も、おそらく月見里先輩も安心したのだと思う。
「へへ、そうか……技術か……俺は三年だし、あと半年かもうちょいぐらいしか部活は出来ないと思っていたけれど……まだまだ出来ることはありそうだなぁ……」
「もちろんですよ!毎日、出来ることを少しずつ積み重ねていけばそれは必ず結果に出ますから!」
「えー、あー……なんか、ありがとうなぁ……というか、千早ちゃんってこういう話がしたくて俺に話掛けに来てくれたのか?」
「そうですよ。最初は何で猫背で過ごしているんだろう?って思っていたんですけれど、いろいろお話が聞けて良かったです!」
「お、おう……そりゃ、どういたしまして……」
三年生だからって何よ。これからだってじゅうぶんいろいろなことに挑戦していくことができるじゃない。そうすれば毒島先輩にはもっともっと自信というものを持ってもらわなくちゃ!そのためにも、きちんとサポートをしてあげないと!でも、背があるってだけで試合に出してしまったという前の監督……一体どんな人だったんだろうか。今まで複数の部員から話を聞く限りではまったくもって良い評判というものを聞けたためしがない。パワハラ紛い、暴力、暴言……最悪の監督だったんじゃない。よくそんな人を監督としてこの学校に連れて来たものよね。誰かの推薦とかがあったのかしら?でも、谷古宇監督が来てくれて良かった。私はまだ谷古宇監督のことはよく知らないのだけれど、三年生からしたらまさに救世主になったんじゃないかと思う。
前の監督のせいじゃないかーっ!!付けてもらわなくても良いトラウマを残して去りやがってーっ!!!と、文句を言いたくなりますね。
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