30球 ピアスは何処へ!?
ボールの空気具合って人によって、微妙に違うんだなあ……。
好みとかってすっごい細かいと思うけれど、でも出来ることなら言葉で言ってもらいたい。
だって、そうじゃないと分からないでしょう?
九世凪先輩と帷子凪くんのペアもボールの空気の入れ具合に満足したようでお互いにレシーブ練習をようやくはじめていくことができたみたい。でも、もうちょっとで良いから声を掛けてくれるとか……してくれれば良いのにねぇ?だって、ただ黙って二人して立っていて、練習もしないでそのままでいると『何かあった?』って周りが声を掛けるまでそのままってことになっちゃうでしょう?世凪先輩も凪くんも、別に部員同士のやり取りが苦手ってわけでもないんだから(事あるごとに練習試合のときには選手に声掛けをしていたみたいだったし)マネージャーの私や杢代瑠璃先輩でも良いんだから声を掛けてほしい。
他に、トラブっているペアはいないだろうか……って他のレシーブ練習をしているペアたちを一通り見回っていくと、不意に体育館の床にしゃがみ込んであれこれと探しまわっている人……というか、ペアがいた。一年生の雲英雄馬くんと、二年生の夫馬律樹先輩である。え、どうしたんだろう……何か、落とした?
「雄馬くん、律先輩!どうしました?」
「あ。待て待て!ちょい探し物してるってだけだから!つか、足元気を付けてくれ!」
え。探し物?そんな床をじっとこらさないと分からない探し物って……もしかして、コンタクトレンズだとか!?あれ、でも、二人とも特にコンタクトを付けているだなんて話は聞いたことが無かったはずなんだけれどなあ……。
なかなか二人に近付くのも慎重に、足元に注意を配りながら恐る恐る雄馬くんと律先輩の近くに歩み寄って行く。相変わらず雄馬くんも律先輩も一緒になって床にしゃがみ込んでいるが、未だに見つかっていないらしい。一体、何を落としてしまったんだろうか。
「あの、雄馬くん?律先輩?何を落としたんですか?」
「んー、なんか律先輩のピアスが落ちたんだってさー」
「ピアス!?」
「そそ。気が付いた時には一個無くなってたんだよ!着替えたときには、付いてるの確認したし、体育館に来たときにも耳には触ってたから無くなってない。落としたとすれば、朝練をはじめた辺りからなんだって!」
そう言えば律先輩の耳にはいくつものピアスが付いている。運動部……っていうか、他の部員たちはごくごく普通で、髪を染めた感じも他には見られないし、ピアスを付けているのも律先輩ぐらいだ。だからちょっと運動部らしくは無いのかな?って感じはしているのだけれど……。
「えーっと……ここら辺は、確認したんですよね?」
「一応な」
「そう小さいモノってわけでもないからすぐに見つかるはずなんだけれどなあ……」
ほとんど体育館の床に顔を押し付けるぐらいまで距離を縮めては床をじっと眺めている律先輩。雄馬くんもキョロキョロと床を見まわしているものの、ピアスらしいモノを見つけることはできていないみたいだ。
「……ちょっとぉ、邪魔だよぉ二人とも。何してんのぉ?」
そこに声を挟んでやってきたのは、世凪先輩。さすがに近くで床にしゃがみ込んであれこれと探し回っている人たちがいれば嫌でも気になってしまったんだろう。もちろん私だって似たようなものだ。……ピアスだから光に当たってキラキラしているっぽいよね。でも、それらしいモノなんて見当たらない。本当にここで落としたのか?っていう気さえしてきてしまうのだけれど……。
「はぁ?律のピアスぅ?…………体育館で落としたのは間違い無いんだよねぇ?……仕方ない。ゲーム小僧も手伝ってよぉ。律のピアスだってさぁ」
こうして世凪先輩と凪くんも探しモノに加わってくれるのだけれど、なかなかにお目当てのモノが見つからない。でも、少し意外だ。世凪先輩のことだから『後にしなよ、今は練習中でしょぉ』とかって注意するのかと思っていたのに、困っている律先輩を見ると自ら探しモノに加わってくれた。……困っている後輩を見ると放って置けないって性格なのかな。
「えっと、律先輩のピアスってどういう形なんですか?」
「あぁ。丸っこいヤツ。指輪のもっと細っこいタイプって言えば分かるか?色はシルバーで……」
不意に律先輩が体を起こすと肩口辺りだろうか。なーんか、妙にキラキラしているモノがあって、私は思わす『律先輩そのままで動かないでください!』と声を上げてしまった。私の声にビクつきながらも動きを止めてくれる律先輩の近くに歩み寄って行くと……やっぱり!
律先輩のTシャツの首辺りって言うんだろうか。Tシャツの首回りのところにちょうど引っかかっているような感じでキラキラしているモノを手に取る。
「……コレ、ですか?」
「おお!コレコレ!サンキュな!千早!」
こ、これだけ一生懸命になって床と睨めっこをしていたというのに、律先輩のTシャツに引っかかっていただなんて……でも、見つかって良かった。
無事にピアスを見つけられた律先輩は子どものように喜んでいたし、そんな律先輩を世凪先輩も『良かったねぇ。ってか、それ、だいぶ劣化してきてるんじゃないのぉ?新しいのにしたらぁ?』とまで声を掛ける始末。ついでに律先輩の明るい髪をぐしゃぐしゃに撫でまわしていたのも世凪先輩だった。あれ、もしかして世凪先輩と律先輩ってそこそこ仲が良かったりするんだろうか。
「世凪先輩って律先輩の付けているピアスに詳しそうですね。劣化とか言っていますし……」
「ん?あぁ……まぁ、律の付けているピアスって俺が選んだモノでもあるからねぇ」
「「は?」」
ついつい近くにいた雄馬くんと声がシンクロしてしまった。ちょっと離れた位置にいた凪くんもビックリしたように世凪先輩のことを見ているし、私なんてびっくりなんて言葉だけじゃ済まない。もしかして、そこそこ仲が良いんじゃなくて……めちゃくちゃ仲が良いんじゃ……?
「あのさぁ。別に変な意味があるとかじゃないからねぇ?律があまりにもピアスが付けたい付けたい!ってうるさかったから、あまりゴテゴテしたピアスだと邪魔になるでしょぉ?だから細いデザインのコレらにしたってわけ」
まさかの世凪先輩からのオススメでしたか!あ、いえ、ピアスそのもののデザインはシンプルで良いとは思います!思いますけれど……後輩にピアスが付けたい!って言われたからってわざわざピアスを選ぶことまでしちゃうの!?そんなことまでしてくれるの!?
「……何でか知らないけれど、コイツになつかれちゃってさぁ。だから、だいたい何でも言うこと聞いてくれるのは良いんだけれどねぇ……」
誰よりも練習にストイックな世凪先輩と、明るいムードメーカー的な律先輩。一応同じ部の部員っていう共通点はあるけれど、でも三年と二年だし……身に付けるものをどうのこうのって選んでくれるって、なかなか無さそうだよね。
ごしごし、とピアスをTシャツの裾で拭きながら傷が付いていないか、と念入りにチェックをしている律先輩。
「あー……留め具が、ちょいボロくなってるかも……?」
「だったら同じ時期に買ったヤツは全部脆くなってるんじゃないのぉ?いい機会だから全部買い換えたらぁ?」
「うーん……」
雄馬くんも凪くんも、そして私も近くでぽかんと口を開けて世凪先輩と律先輩とのやり取りを眺めているばかり。えーっと、意外と二人って幼馴染とかっていう関係だとか?昔からの知り合いで仲が良い、とか?ちょっと二人の仲の良さが気になってしまう私なのであった。
ピアス!危ない危ない!!素足で踏んだら大変なことに!!!
って、世凪先輩と律先輩……なんで、そんなに仲が良さそうなんでしょうねぇ??気になる!!!
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