30. ポマンダーを買う
「シャルロット嬢、どうか辺境伯に宜しく伝えてくれ。たまには実家でゆっくりと過ごして来るがいい。ずっと妃教育で頑張ってきたのだからな。」
「皇太子殿下、ありがとう存じます。父も大したことはないそうですが、私にどうしても会いたいと申しますから少しだけ会って参りますわ。」
皇太子に嘘をついて実家に帰ることは罪悪感を感じたが、そもそもナタリー夫人に確認したところ婚姻まで城で過ごさなければならないという規律があるわけではなく、シャルロットと少しでも離れたくない皇太子が何となくそのようなことをシャルロットに伝えていただけだと判明したのだ。
故に、嘘をついて帰ることは皇太子への意趣返しでもあるから別に罪悪感を感じる必要もないとイヴァンは思っていたが、シャルロットはやはり罪悪感を感じるのであった。
「やはり私もついて行こうか?」
「殿下は政務がお忙しいでしょう。イヴァンもいますし、大丈夫ですわ。」
「皇太子殿下、お嬢様のことは私にお任せください。」
シャルロットと離れがたいこの過保護な皇太子は、イヴァンが勝ち誇ったような顔をしたのを見逃さなかった。
恨めしそうにイヴァンを睨みつけ、シャルロットを抱きしめて暫く離さなかった。
「それでは行ってまいります。」
こうして何とか皇太子を引き剥がしたシャルロットは、久しぶりに帝都へと降りたのだった。
「お嬢様、何をお求めですか?」
「あのね、ポマンダーのペンダントが欲しいのよ。狩猟大会は森の中で行われるでしょう?森の中には恐ろしい害虫などがいるかも知れないし、それに魔除けというか御守りのような感じで身につけていただきたくて。」
「成る程。ポマンダーですか。それは良いかも知れませんね。」
そうして二人は帝都の貴金属店へ寄り、ポマンダーのペンダントを買い求めたのであった。
そのポマンダーはボール型で繊細な透彫が美しく、そこにまるでシャルロットの瞳の様なオパールが据え付けられているものであった。
「ねえ、これ露骨すぎるかしら?私の瞳の色を身につけてもらいたいなんて。」
「宜しいんじゃないですか。あの皇太子殿下ならば飛んで跳ねて喜びますよ。」
「そうかしら。イヴァンがそう言うならそんな気がしてきたわ。」
「そうですよ。あの方はお嬢様から貰ったものならばそこら辺に落ちている石ころでさえケースに入れて毎日磨き、大切にすると思いますよ。」
「さすがにそれはないと思うわ。」
そうこう言いながらも二人の乗った馬車は、あっという間に久々に辺境の地へと帰ってきたのであった。




