25. ただの令嬢となりました
「それはできないな。」
皇太子があまりにきっぱりと返答したので、美しい渾身のボウアンドスクレープで有終の美を飾ろうとしていたイヴァンは拍子抜けをした。
「殿下、今なんと?」
「だから、それはできないと言ったんだ。」
「何故ですか?」
イヴァンはこの性根の曲がった皇太子を今度こそ睨みつけて言った。
この際不敬罪でもなんでも良いのでさっさとクビにしてもらえれば良いと思ったのだ。
「そんなことをしたら私がシャルロット嬢から嫌われてしまうだろう。」
いけしゃあしゃあと宣う皇太子にイヴァンは珍しく声を荒らげた。
「殿下!願いを叶えてくださるとおっしゃったではありませんか!」
「確かに言ったが、私は『私に叶えられる事であれば何なりと申せ。』と言ったはずだ。」
虚を衝かれたイヴァンは暫く青紫の瞳を見開いたままで茫然自失となっていたが、やがてため息とともに言葉を吐いた。
「やはり貴方は私と同じで性根の曲がったお方だ。そして随分な策士でいらっしゃる。」
「これからもシャルロット嬢の傍で幸せを見届けてやってくれ。」
シャルロットは目の前の出来事にやっと思考が追いついたようで、苦悶の表情から花が綻ぶような笑顔を咲かせてイヴァンへ抱きついた。
「イヴァン!貴方は絶対に逃さないわよ。助けた限りは責任を持って、ずっと私のことを守ってくれないと。」
「……かしこまりました。」
そうして、イヴァンの解雇という願いは却下された。
そして今日、猛毒令嬢はだだの令嬢となった。




