21. 皇子殿下方の幸せを祈ります
「私の生物学上の父親は母上お気に入りの吟遊詩人だったそうだ。そのせいか、私も歌を作ったり歌ったりすることが好きでね。今も城でそのようなことばかりしているから、放蕩者の第二皇子だと笑われているよ。」
そう話すのはカイ皇子。
「俺の本当の父親は母上の護衛騎士だったらしくてな。そのせいではないと思いたいが、俺もこのガタイの良さと剣を振るうことしか能がないから傭兵にでもなろうと思ってる。今は毎日騎士団に混じって剣をふるっているが、皇籍離脱すればそんな訳にも行かないからな。」
「僕は絵描きの子らしいよ。母上の肖像画を描いた絵描と母上が懇ろになってできたのが僕なんだって。親切な侍女たちが教えてくれたよ。僕も絵を描いてるのが好きだからね。カイ兄上のように放蕩者の第四皇子と呼ばれているよ。」
続いてヒュンケル皇子とジュール皇子も順番に語った。
三人の皇子たちはそれぞれ自分の本当の父親の血を強く引き継いでいるのか、それに倣った生き方をしているという。
「それにしてもなぜ皇籍離脱を?わざわざ茨の道を行かなくともよろしいのではありませんか?」
シャルロットは不思議だった。
皇籍離脱をしなくとも、好きなことはできるであろうし、皇帝が認めている以上特に周囲から蔑ろにされることもないだろうと。
「このまま城に残れば早めに人生の幕を下ろすことになるからですよ。」
「俺らはまだ生きて好きな事をしたいしな。」
「最近は僕らのことが母上も段々と疎ましくなってきてるからね。皇太子であるヴィンセント兄上のことでさえ随分と疎ましく感じているようだし。今は末の弟ミゲルだけが母上の可愛い息子だからね。」
三人の皇子たちは自分たちの命を守るために皇籍離脱をすると言う。
シャルロットはまさかそのようなことがあるのかと信じられない思いであった。
「信じられないというお顔ですよ。しかし、皇太子であるヴィンセント兄上が居なくなり、私たちも居なくなれば、皇太子の座は末の弟ミゲルが継ぐことになりますからね。聡くて言う事を聞かないヴィンセント兄上より、自分の言う通りに動く傀儡となるミゲルの方が扱いやすいのですよ。」
「まあミゲルは確かに父上の息子だしな。会ったことあるか?」
ヒュンケル皇子がシャルロットに問うが、会ったのはデビュタントの日でその時でさえ末の皇子とは目を合わすこともなかったように思う。
「デビュタントの日にお目にはかかりましたが、その後はお会いしておりません。」
「そうだろうね。母上がミゲルを貴女に会わさないようにしているだろうから。」
「私が、猛毒令嬢だからでしょうか。」
そうシャルロットが告げると、それまで和やかな雰囲気であった三人の皇子たちは一様に困ったような顔をした。
「申し訳ありません。分かりきったことを申しました。」
シャルロットは最近自分の存在というものを考えることが増えた為に思わず口にしてしまったが、そのようなことを尋ねたとしても皇子たちを困らせるということは分かっていた。
この皇子たちはシャルロットが猛毒令嬢だということを知っているはずなのに、わざわざ親しく話しかけてくれているのだから。
皇后のように毒が恐ろしいから離れろと言う訳でもなく、シャルロットとも自然な距離感で関わっている。
「シャルロット嬢、少なくとも私たちはヴィンセント兄上のことを尊敬しているし、その兄上の望まれた貴女は素晴らしい方だと思っている。辛いこともあるだろうが、どうか兄上を支えていってはくれまいか。」
「俺らが好きにできているのもヴィンセント兄上が皇太子としての執務をきちんとこなしているからだしな。俺らにできることはヴィンセント兄上の邪魔にならないようこの城から去ることだけだ。」
カイ皇子とヒュンケル皇子は皇太子の婚約者であるシャルロットを応援してくれているようだ。
そして、ジュール皇子も人懐っこい笑みを浮かべてシャルロットを見つめている。
「シャルロット嬢、ミゲルはまだ僕らよりは幼いけれどあの母上の英才教育の賜物とでも言うべき性格の悪さだからね。気をつけて。」
シャルロットとイヴァンは思いの外皇子たちと有意義な時間を過ごすことができた。
この意外にも心優しく自由な皇子たちが皇籍離脱した後に幸せな人生を送れるようシャルロットは祈るしかないのであった。




