20. 皇籍離脱ですって
今日は『グベール帝国の歴史』と『乗馬』を学ぶ日であった。
シャルロットは無事本日の座学を終えて、次は乗馬の練習というところで厩舎へと向かった。
「其方は確か兄上の婚約者であるシャルロット嬢か?」
厩舎にはデビュタントの日に挨拶をした第二皇子から第四皇子までの三人の皇子たちが揃って馬を準備させているところであった。
シャルロットはあの日はただひたすらに料理のことしか考えていなかったので名前を聞いたような聞いてないような、はっきりとしなかった為にまとめて挨拶を行うことにした。
「皇子殿下方に拝謁いたします。シャルロット・ド・デュバルでございます。」
シャルロットは興味深しげに自分を見る皇子たちにカーテシーで挨拶をした。
「俺たちは今から馬に乗るところだが、シャルロット嬢も乗馬か?」
「はい、妃教育の一貫として本日は護衛騎士の一人から乗馬を習うことになっております。」
乗馬の訓練は幼い頃から辺境の地でも行っており、身体の柔らかさと優れたバランス感覚でシャルロットらすぐに馬に乗れるようになったのである。
イヴァンの鬼のような指導は乗馬においては発揮されず、イヴァンも乗馬は未経験だった為にシャルロットと一緒に習ったのだ。
「それなら僕らが教えようか?」
「そのようなことは恐れ多いことでございます。」
「いや、せっかく会えたのだ。この機に友好を深めようではないか。」
この場にいない末の皇子と、目の前の皇子たちとは猛毒令嬢であるシャルロットが城内でなるべく会うことのないように皇后が取り計らっていたのだろう。
同じ城内でいながらも、今まで会うことはなかったのだから。
「おい、お前はもう下がれ。もし気になるのであればここで待機せよ。」
皆皇后と同じ赤みがかったブロンドの皇子の中で、澄んだ青空のような青い瞳の皇子がシャルロットの乗馬の指南役である騎士に命じた。
「はっ!」
騎士は皇子の命には逆らえず、その場で待機することとなった。
「それでは、お願いいたします。」
三人の皇子たちと、シャルロット、イヴァンはそれぞれに馬を並べてはじめは常歩から進めた。
それぞれの皇子たちは髪色は皆皇后と同じく赤みがかったブロンドであったが、瞳の色がそれぞれ違っていた。
第二皇子であるカイ皇子はエメラルドのような翠の瞳、第三皇子ヒュンケル皇子は澄んだ空のような青の瞳、第四皇子ジュール皇子は黄色味の強いヘーゼルの瞳であった。
種違いとは聞いていたが、それぞれの皇子の父親が違ったようで、シャルロットは好色なあの皇后に吐き気を催した。
「シャルロット嬢は乗馬の経験がおありのようだ。」
「ん?気分でも悪いのか?」
カイ皇子とヒュンケル皇子が声を掛けるが、シャルロットはまさか皇子たちの母親の好色具合に吐き気を催したなどと言えるはずもなく、黙って笑顔を返していた。
イヴァンはシャルロットの考えが手に取る様に分かっていた為、必死で引き攣った笑顔を返すシャルロットを見てその滑稽さに口元を緩めた。
「イヴァン、今笑ったでしょう?」
「いいえ、お嬢様。気分が優れないようですが馬にでも酔いましたか?」
「気分は最良よ。何ならもう少し飛ばすわ。」
イヴァンに向けて不満そうにコソッと文句を言うシャルロットは駈歩で馬を走らせた。
「シャルロット嬢は乗馬がお得意なようだ。」
「御令嬢は横乗りが当然だと思っていたが、さすが辺境伯令嬢といったところか。」
「僕らと貴女が馬で駆ける姿は大層美しかったですよ。」
馬を降りた皇子たちは口々にシャルロットを褒め称えた。
あの皇后の子であるからもう少し敵意を持たれることもあるかと警戒していたシャルロットとイヴァンだったが、意外なことに終始にこやかに過ごした。
「シャルロット嬢は私たちが皇帝陛下の実の子ではないことをご存知か?」
「……はい、恐れながら聞き及んでおります。」
カイ皇子がシャルロットへ問うと、ヒュンケル皇子とジュール皇子は特に気分を害した様子もなく頷いた。
「僕らが『種違い』と呼ばれていることは近しい者たちなら周知の事実だからね。あの母上には驚いたでしょう。」
「確かに、意外であるとは思いました。それに皇帝陛下も寛大なお方なのだと。」
ジュール皇子は一番年下であるからか、シャルロットにも親しみを持った様子で声を掛ける。
「私たちは年子でね。母上は種違いの私たちを毎年のように産み落としたんだよ。それを陛下は黙認された。見てわかる通り皆王家の血筋である灰銀の瞳をしていないことから、母上の不貞は明らかだったにも関わらずだ。」
「それでも、俺らは皇子としてこの城で好きなことをさせてもらってるからな。父上には感謝してるよ。」
カイ皇子とヒュンケル皇子は種違いの自分達を認知し、城に住まわせている皇帝への感謝を示していた。
「まあ僕らはいつか皇籍離脱をしようと思ってるんだ。いつまでも書類上の親である父上に甘えてるわけにもいかないからね。生物上の父上は皆どこか行っちゃったし、自分たちのことは自分たちでなんとかできるようにしようと思ってるよ。」
まさか種違いの皇子たちが皇籍離脱などと考えているとは思いもよらず、シャルロットはそのような重大事項を自分達にサラリと話す皇子たちになかなか言葉を返す事ができないでいた。
「皆様方は皇籍離脱した後はどのように過ごされるおつもりなのですか?」
やっと紡いだ言葉は当然の疑問であった。
皇子として育った彼らが皇籍離脱をした後にどのような生活を送るのか、想像もつかないことであったからだ。




