18. やはり貴方は性格がお悪い
「そんなところで何をなさっておいでですか?」
一応今日の妃教育を終えたシャルロットは、体調が優れないと部屋で休んでいる。
その間にイヴァンは習慣になりつつある城内の偵察に出て情報収集をしていたところであった。
「イヴァン殿が頻繁に城内で彷徨いていると聞いたので、ここならば会えるかと思って待ち伏せていた。」
「成る程。お嬢様の前では話せないことなのですね。」
供もつけずにイヴァンを待ち伏せていた皇太子は、近くの部屋に入り話を始めた。
「シャルロット嬢の様子は?」
「随分と落ち込んでおいでですよ。全くあの皇后陛下は余計なことをしてくださったものです。」
「イヴァン殿、私以外が聞いていれば不敬罪だぞ。」
「皇太子殿下は私をそのような軽微な罪では罰しないでしょう。」
皇太子相手にも飄々とした従者は、シャルロットを傷つけた皇后に苛立ちを隠せないでいた。
「皇后の取り巻きが含んだ毒はシャルロット嬢のものではなかったのだな?」
「その通りです。もしそうであっても、私がすぐに解毒薬を含ませましたから助かったはずです。しかし、解毒薬が効かなかったということはお茶に別の毒が仕込まれていたのでしょう。実に残虐なことを平然となさるお方だ。」
最早不敬罪など怖くはないのか、皇太子の前で母親である皇后のことを辛辣に述べるイヴァンを、皇太子も咎めることはしなかった。
「皇后は目障りな私ではなく、自分の言う通りにする息子を皇太子に据えたがっている。種違いの弟たちはさすがに皇太子にできずとも、一番下の弟は確かに皇帝陛下の子で私の実の弟だからな。」
皇太子の他に四人の皇子たちが居て、そのうち三人は種違いで見目も皇帝陛下に似つかないが、一番下の弟は確かにこの帝国の皇族の印であるシルバーグレーの瞳を持っていた。
「成る程。皇太子殿下は聡いお方ですから、皇后が好きに操る事ができずに目障りなわけですね。種違いの弟たちでは皇子として過ごすことはできても皇帝になることはできないため皇帝陛下の血を引くお子を再度授かったと。」
「皇帝陛下は賢王と呼ばれているが、ただ唯一の欠点は皇后の外見と声に弱いことだ。どうしてもあの皇后のそこに惚れ込んでしまった陛下は種違いの弟たちでさえ認知し、皇子としてこの城に住まわせているのだから。そして皇后の好色も黙認している。さっさと隠居してくださっても宜しいのだがな。」
この皇太子でさえ大層不敬なことを述べているので、イヴァンは自分が少しくらいシャルロットのことで不敬を働いても許されるであろうと考えた。
「お嬢様は婚約破棄をお望みですが、どうなさるおつもりで?従者である私が傍にいればそれで良いと泣いておられました。」
その言葉を聞いた皇太子は、顔を強張らせ灰銀の瞳を鋭く細めて目の前のイヴァンを睨みつけた。
「其方はシャルロット嬢が皇太子妃にならずに自分の手元でいる方が良いと考えているのか?」
硬い声音の皇太子の問いにイヴァンは一時考えた後に落ち着いた声で答えた。
「いいえ、そのようなことは考えておりません。お嬢様は貴方のことを愛しておられるのです。お嬢様を幸せにできるのは皇太子殿下だけですよ。」
「毒が抜ければシャルロット嬢も気が休まるだろうが、まだかかりそうか?」
皇太子の問いは、あれからもイヴァンがシャルロットの体液と動物を使って毒の程度を試していることを疑う余地もなく思っていることを示していた。
「やはり貴方は性格がお悪い。お嬢様はそれをあまり望まれませんが、確かに私はあれからもお嬢様の血液で動物に毒が効くか試しておりました。」
「それで?」
かなり失礼な発言をしたことを自覚していたにも関わらず、それよりも結果を求めたことにイヴァンはこの皇太子こそがシャルロットに相応しいと思った。
「狼は死ぬことはありませんでした。しかし、アライグマや小さめのシカ程度には依然毒が効いております。」
「あれから少しは毒が抜けたということか。しかし数年かかってそれではまだ暫くかかるのだな。」
「左様でございます。」
「私はそのような些末なことはシャルロット嬢が傍に居てくれさえすれば気にしないが、シャルロット嬢本人が気にするであろうな。」
イヴァンへの嫉妬と怒りを既に沈めた様子で考え込む素振りをする皇太子へ、シャルロットを大切に思う従者は提案をする。
「僭越ながら、私に考えがございます。」




