13. よく似たもの同士
「イヴァン殿、其方もシャルロット嬢とともに毒を身体に宿していると聞いている。其方達の毒は私には効かぬと思うか?」
「恐れながら。私とお嬢様の身体の毒は遠く異国の地の物を使われております。近隣諸国の毒には耐性のおありになる皇太子殿下といえども、無事でいられる保証はございません。」
それほど驚いた様子もなくイヴァンの言葉に耳を傾ける皇太子は、不意に思い出し笑いのようにフッと笑みを浮かべた。
初めてダンスに誘ったあの日のシャルロットを思い出していたのだ。
「そうか。それでシャルロット嬢は解毒薬を使っているとのことだが、完全に彼女の身体から毒が抜けることはあるのだろうか?」
「実は数年前に比べると、最近では毒は確かに薄まっております。しかし、まだ暫くは身体に毒は残っているでしょうね。」
「それはどのように調べたのだ?」
「はい、熊と狼です。」
言葉少なに答えたイヴァンに対して、シルバーグレーの瞳を見開き疑問の表情を浮かべた皇太子であったが、暫し沈思黙考した後に破顔した。
「成る程。イヴァン殿、其方も解毒薬を使っているのか?」
「いいえ。私に解毒薬は意味がありません。お嬢様と違って長年身体に取り込んでまいりましたから既に手遅れなのです。しかし、お嬢様はこの毒を作った女から聞いた境界のギリギリで毒から脱することができましたので解毒薬が効くのです。」
シャルロットはイヴァンに解毒薬を飲むように命じたが、イヴァンは飲んでいなかった。
解毒薬の貴重な材料を効果のないと分かっている自分に使うよりは、シャルロットへ使う方が余程有益だと考えていたからだ。
「しかし、シャルロット嬢は其方も解毒薬を飲んでいると思っている風だったが。」
「お嬢様はお優しい方ですから。効果はないと説明しましたが、私にも飲まぬよりは良いだろうと。」
皇太子はイヴァンの答えを聞いて満足気に頷いた。
「見込んだ通り、イヴァン殿と私は良き友になれそうだ。其方はシャルロット嬢のためならば惜しむ物もないのだろう。それほど大切に思っていると。」
「僭越ながら、お嬢様は私の半身であり分身だと思っております。同じ過酷な過去を持つとはいえ、お嬢様にはまだ普通の人として生きられる道がございます。私に普通は望めぬことではありますが、お嬢様が普通の人として幸せになることがひいては私の幸せなのです。」
イヴァンは本心からの言葉を述べた。
この聡い皇太子に偽りを述べたとしても、すぐに露呈するだろうと。
「ですから、お嬢様は『猛毒令嬢』などではなく私が全力で以って『ただの麗しい令嬢』となるよう努めるつもりでございます。殿下におきましては、それでもお嬢様を大切に愛していただけますよね?」
きっとこの皇太子はシャルロットに毒がなくなれば皇后のように信用ならぬとは言わないであろうと。
心の底ではシャルロットから毒がなくなれば僥倖だと思っているに違いないとイヴァンは考えていた。
「イヴァン殿には私の本音が悟られているようだ。で、あれば私も其方には隠さず話そう。其方の思っている通り、私はシャルロット嬢が猛毒令嬢だろうがそうでなかろうがどうでも良いのだ。肝心なことは彼女を伴侶として私の傍におきたいということ。その為の口実として猛毒令嬢だの、それほどまでに貞淑さを求めているだのと陛下やそちらに伝えたまで。」
「やはりそうですか。安堵いたしました。殿下はかなりの策士でいらっしゃる。できれば敵にはしたくありませんね。」
青紫色の瞳は灰銀色の瞳と視線を合わせた。
「これから其方には是非私の味方になってもらおう。その代わり、シャルロット嬢を必ず幸せにすると誓おう。」
「殿下がお嬢様を大切に想ってくださっている限りは私は殿下の味方になりましょう。お嬢様も殿下のことを慕っておいでですから。殿下に出逢って初めての恋心というものを知ったようです。」
思わぬことをイヴァンから耳にした皇太子は先程の怜悧な顔つきとは打って変わって、頬を朱に染め柔らかな表情を見せた。
「シャルロット嬢が私のことを慕ってくれていると?きっとあの様子では嫌われてはいないであろうと前向きに考えるようにしていたが、そう思ってくれているならば重畳だ。」
そのような皇太子の面持ちを見て、イヴァンは大切な半身であるシャルロットは必ずや幸せになるのだろうと覚えた。




