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番外編5 デイジー・シャノン男爵令嬢はゲームの世界だと後から気づく

カイルの話がビターエンドっぽいので、別の人視点での話を追加しました。




 私の名はデイジー・シャノン、男爵家の三女としてこの世界に生を受けた。

 この世界――と限定的に言うのは、私には前世の記憶があるから。そう、地球の中で平和な日本という国で生まれ育った記憶が。

 とはいえ、男爵家の三女ともなれば自由に使えるお金もあまりなく、また、前世の記憶が役に立つことなどほとんどなかった。

 一応、貴族が通う学院には通わせてもらったものの、そこでいい令息と知り合うことなく、そのまま行けば貴族ではなくなる状態だった。

 私は、仕事をすることにした。

 もともと日本での記憶があるから、結婚に関しては出来ればいいな、くらいの気持ちしかない。結婚しなければ、シャノン男爵家の姓のまま貴族でいられるし、働くのもいい所で働ける。

 幸いにも王宮でメイドの募集の話があり、私はそれに飛びついた。



 ***



 王宮に着くと、あちこちに既視感を覚えて、私は大いに戸惑った。

 なんで? 王宮にはデビュタントで一回だけ来たことがあるけど、その時には大広間までしか入れなかった。

 こんな奥の方に来たことはないのに、何処か見たことがあるのは何故?


 メイドとして働いている間、掃除をしに代々の王族を肖像画として展示してある回廊、東にある中庭、何処か懐かしくて、ドキドキする。

 なんで、だろう?

 不思議に思っていると、それが解決する時が訪れた。


「早くしないと、マードック公爵令嬢がいらっしゃる時間になってしまうわ」


 少し離れた所から、そんな声が聞こえてきた。

 マードック公爵令嬢――この国の王太子殿下の婚約者だわ。

 王太子殿下……ウィリアム王太子殿下、そして第二王子はクライヴ王子殿下……マードック公爵令嬢は……ディアナ・マードック! 『あなたのために』という乙女ゲームの世界だわ!

 そうよ、王宮のあちこちになんとなく見覚えがあったのは、ゲームのスチルの背景だからだわ。


 今までの不思議な感覚に納得がいったけど……残念なこともあった。

 そう、私はこのゲームに名前すら出ないモブだということ。

 ま、男爵家の三女なんて、出るわけないわね。

 それを言うと、ヒロインの存在否定になってしまうか。

 彼女は男爵令嬢だけど、庶子だったはず。平民として暮らしたことはなかったはずだけど、庶子と三女――どちらがましなのかしら? まあ、うちは家族仲は良好だったから、私のほうがいいのかもしれないわね。


 それにしても、ウィリアム王太子殿下は十六歳で、学院に通っている。

 ということは、ゲームの真っ只中ということね。

 そうなると、王太子殿下と悪役令嬢であるマードック公爵令嬢とは、すでに仲が悪くなっているのかしら?

 そう思うと、好奇心がむくりと起き上がる。

 タイミングよくマードック公爵令嬢が登城されたという話が聞こえてきたので、こっそりと様子を見に行った。




 柱の陰に隠れて見ていると、侍女を連れたマードック公爵令嬢が静かに歩いていた。

 彼女の表情からゲームの悪役令嬢のような高慢さが感じられず、思わず頭にはてなマークが乱舞した。特に特徴的な真っ赤なドレスを着ていない。化粧も派手じゃない。

 もしかして……悪役令嬢は転生者!? だって、ゲームの悪役令嬢と全然違うもの。それしか思いつかないわ。

 そう思うと、確認したくなってくる。

 そうっと付いていくと、今日は中庭で王太子殿下とお茶会の予定らしい。

 この頃にはゲームも中盤になり、ある程度のイベントをこなした後だし、ヒロインが王太子ルートを選んでいたなら、王太子殿下と悪役令嬢の関係は冷たいものになっているはず。


 二人のお茶会の給仕はメイド仲間で仲の良いルーシーだったので、こっそり行って「手伝うわ」と伝えると「助かるわ」と返ってきた。ラッキー、おかげであっさりとお茶会に侵入成功よ。でもセキュリティ面は大丈夫かしら?



「ディーは今期のテストはどうだった?」

「……あまり、芳しくない成績になりそうです」

「まあ、王太子妃教育も詰め込まれていたからね。私としても、学院の成績も大事だけど、王太子妃教育に力を入れて欲しいから」

「ウィル様は王族としての教育も学院での勉強も、どちらも両立しているではありませんか。わたしは頑張ってはいるのですが、なかなか両立は難しくて……」


 あら、『ディー』に『ウィル様』と互いに相性呼び?

 それに、悪役令嬢は自分のことを『わたし』と言った。公的な場ではないとはいえ『わたくし』ではないのね。かなり親密な感じよねぇ。


 それにしても、美男美女で眼福だわぁ。

 ヒロインも可愛い方だったけど、悪役令嬢には負けるのよねぇ。なにより、この悪役令嬢は毒気がすっかり抜けて、穏和な表情なので、見た目の刺々しさが全くないの。

 中の人によって、顔は同じでも全然雰囲気が違ってくるのね。

「ねぇ、王太子殿下と公爵令嬢って仲がいいのね」と、ルーシーにこっそり聞いてみる。


「何言ってるのよ、今更」

「いや、私は初めて見たものだから」

「まあ……政略的なものとは言うけど、殿下は公爵令嬢に『はい』って言わせるまで二年掛かったって聞いたわ。好きじゃなきゃそこまでしないと思うわよ」

「え、二年も?」


 ゲームでは公爵家の後ろ楯のための政略的な婚約。そこに愛はないし、ディアナだって王太子妃という立場に憧れていた――とあった。

 だから、ゲームの中でヒロインに『王太子妃という立場ではなく、殿下を見てあげて』という台詞がある。逆にヒロインは好きになったのが王太子殿下だっただけ――と一途さを強調していた。

 でも、好きになっても婚約者のいる人に近づくのってNGじゃないかしら? しかも、貴族としては身分の低い男爵家の庶子という立場で。


 本来なら、この光景が正しい在り方なのかもしれないわね――と思ってしまった。

 ゲームは友人に勧められてやったんだけど、タイトルにあるように、ただ一人だけを想いストーリーを進める。裏ルートも逆ハールートもない。それがちょっと意外で、全攻略対象者のルートを順に制覇したわ。

 タイトル通り余所見しちゃ駄目。たった一人だけに絞って進めなければならないの。昨今、ネット小説でも多かった逆ハーレムなんて以ての外。だから良かったのよね。

 一途に想う気持ちを持ってゲームを進めるのは、初恋相手にぶつかっていった時を思い出したもの。なんか、青春だったわね――なんて、思ったわ。


 そんなゲームの設定だったけど、実際にゲームの世界がリアル化したら、やっぱり無理があるわねぇ。

 この世界は身分が物をいう世界。しかも、婚約者のいる攻略対象に手を出そうなんて論外だ。

 それがただ一人に向いたとしても。攻略対象者は悪役令嬢の義弟――カイルを除いて、皆婚約者がいるのだから。


「ディーは勉強より他国の言語について学ぶほうが好きだね」

「ええ。他国の言葉を覚えれば、それだけ色々な方と話もできるし、その国の本も読めるようになるわ。それが楽しいの」

「外交を担っているマードック公爵家だけある答えだよね」

「そうかしら? でも、ウィル様には及びませんもの」

「そうかな? カイルも好きなほうだよね」

「そういえばそうね。お父様の跡を継ぐのですもの。その辺りはお父様もしっかり教えていると思いますわ」


 はわわわ〜なんて素敵な光景なのかしら?

 まさか、はわわわなんて言葉を使う羽目になるとは思わなかったけど。本当にそんな言葉が出てきてしまうほど、王太子殿下と悪役令――いえ、公爵令嬢の二人が素敵なのよっ。


「それにしても、残り一年だね」

「……そう、ですね。もう一年経ってしまったのね」

「卒業したら結婚だよ」

「……はい。でも、まだ一年ありますわ」

「残り一年だよ。ディーに婚約者になって欲しくて公爵家に何度も訪れて、やっと婚約してから六年――それに比べれは、一年はあっという間だよ」

「……そう言われると、そうですね」


 公爵令嬢は少し淋しそうな笑みを浮かべた。

 王太子殿下を見るからに、殿下はヒロインに攻略されていない。王太子ルートに入っていたら、公爵令嬢との間にはかなり深い溝が出来ているはず。

 でも、憂いを帯びた公爵令嬢の顔を見た途端、殿下は静かに公爵令嬢の手に自分の手を重ねた。公爵令嬢の顔に赤味が帯びる。


 うわぁ、尊いっ!!


 思わず拝みたくなったわ。

 ああ、良いものを見たわ。本当にもう溜め息ものよ。


 公爵令嬢は悪役令嬢なんかじゃなくて、それどころか貴族令嬢よりも優しいし頑張り屋さんよね。実際、最初の頃は王太子殿下の婚約者っていろんなところで人を助けたとか聞いていたから、ゲームの悪役令嬢に結びつかなかったんだもの。

 それに、殿下もヒロインに攻略されずに、婚約者の公爵令嬢を想っている。


 これが、ゲームのワンシーンを間近で見れた最初の出来事だった。

 もう、モブで十分だわ。

 ただ、残念なのは、私が生まれるのが二年遅かったら、学院でのやり取りをこの目で見れたのにねってこと。本当に残念。



 ***



 それから、ゲームが終わる残り一年の間、王太子殿下と公爵令嬢が二人で居るのを何度か目撃した。

 王太子殿下は誰にでも優しいけれど、公爵令嬢には時々意地悪なことを言うとか、そんな時に困った表情をしている公爵令嬢を見つめる目がとても優しいとか、もう、ゲームのスチルにはなかったけど、私としてはご褒美としか言いようのないシーンばかりだった。


 これはもう、ヒロインは王太子ルートに入らなかったんだろうなと思えるほど、ヒロインの名前が出てこない。

 それよりも、第二王子殿下であるクライヴ様からはよく聞くらしいので――第二王子殿下付きメイド情報――、ヒロインはメイン攻略対象である王太子ルートには行かなかったのか――なんて思っていた。



 だって今日も――

 庭園を散策した後、四阿で一休みしているお二人を見て、いつものように尊い〜なんて思っていると、疲れが溜まっていたのか公爵令嬢は目を細めてうとうととし始めてしまう。

 もうすぐ卒業という時期のせいか、公爵令嬢は少し余所余所しくなっていることから、やはり彼女も転生者なのだろうと推測できる。

 でも、断罪回避に動いている様子もなかった。ただ、王太子殿下に求められるまま、王太子妃教育に励み、殿下の傍にあろうとする姿勢に、ゲームをやった私でさえ、彼女を応援したくなる。

 それに、王太子殿下もそんな公爵令嬢がお好きらしく、彼女を見る目がとても優しい。


 もともと四阿で隣り合って座っていた二人だったけれど、公爵令嬢が眠そうに首をコクリとしだしてから、王太子殿下はすぐに近くに寄って倒れないように肩を貸している。

 その後、完全に眠ってしまった公爵令嬢に対して、確かめるかのように頬に手を添えた。

 それでも起きない公爵令嬢に対して、王太子殿下はそっと額にキスをした。

 目の前のラブシーンをうっとり見つめていると、王太子殿下は視線に気づいたのか、こちらを見て視線が合ってしまった。


 うわぁ、ヤバい! 不敬罪とか言われちゃう? ――なんて思って固まっていると、王太子殿下は人差し指を口元に当てて、「内緒だよ」と言っているようだった。


 もちろんですとも――と首をコクコクと何度も縦に振った。

 うわぁ、怒られもせずに、逆にこのシーンを独り占め! なんて幸運なの!?

 表情を動かさないように努めているけど、心の中ではテンションマックスだったわ。

 本っ当に、ご馳走様でした!



 ***



 何度か美味しい思いをしていると、公爵令嬢から声を掛けられた。


「お茶をありがとう。あなたはシャノン男爵令嬢よね?」

「は、はいっ、はじめまして、マードック公爵令嬢」

「二年くらい前からよく見かけるようになったのだけれど、それくらいからここでお仕事をされているのかしら?」

「は、はい、そうでございます」


 うわっ、よく見ているわ。こんな木っ端メイドのことまで把握しているなんて。


「あの……変なことを聞いてもいいかしら?」

「なんでしょうか?」

「あの、自意識過剰でなければ、よく見られていると思うのだけれど……」


 恥ずかしそうに薄っすら頬を赤く染め、僅かに視線を逸らす。


「あの、わたくし、たまに気が抜けて間抜けなことをしていたと思うの。だから、その……」


 ああ、確かに、王太子殿下と一緒の時はリラックスして疲れているとうたた寝をしてしまうこともあったわね。

 貴族令嬢としては、恥ずかしい行為だけど……逆にゲームの悪役令嬢と違って、人間味のある温かな人だと思えたのよね。


「あの……」

「あっ、すみません。公爵令嬢がとても美しいので、女の私でも見惚れてしまって――」

「……え?」

「ですから、綺麗なのでつい目が追ってしまうのです。特に王太子殿下とご一緒の場合はお二人ともお似合いで……もう、目の保養で……」

「そ、そんな風に見られていたの……?」


 もうね、ゲームのヒロインとのスチルよりもよっぽど眼福なのよ。

 綺麗なものが大好きってわけじゃないけど、何故かお二人に対しては目が追っちゃうのよ。


 私はここで自分が転生者だということを話そうかと思った。

 でも、今を生きているのに、前世のゲームの話をしても仕方ないわよね。

 公爵令嬢が悪役令嬢として活躍(?)して、身を滅ぼそうとしているならともかく、どう見てもお二人の仲は良好だもの。下手に話して不安にさせない方がいいわ。

 それでなくても、公爵令嬢も卒業パーティーを気にしているようだし。


 でも、顔を真っ赤に染めてもごもごしている公爵令嬢も可愛らしいわね。

 ゲームにかすりもしないモブだったけど、ここで働いてゲームでは見られなかった光景を見れて幸せだったわね。


「ふふっ、スマホでもあれば、お二人の仲のいい写真をいっぱい撮れたのになぁ」


 気づくとそう呟いていた。

 それは小さな呟きだったのに、公爵令嬢の耳に届いたようで――


「スマホって……もしかして、前世の記憶があるの?」

「……スマホで前世の記憶に結びつくって……公爵令嬢もそう、なのですか?」

「え、ええ。そうなの」

「あのっ、私もです!」


 本当は伝えるつもりはなかった。

 でも、公爵令嬢の嬉しそうな顔を見たら、そんな気持ちは吹っ飛んでしまったわ。


「嬉しいわ。他にも同じような方が居たのね」

「わ、私も初めてお会いしました!」

「そう。……キーナン男爵令嬢もそうみたいなのだけれど……何故か嫌われているみたいで」

「ああ……」


 キーナン男爵令嬢はヒロインだものね。悪役令嬢を敵視するのは仕方ないのかもしれないわ。


「公爵令嬢は『あなたのために』を知っていますか?」

「もしかして、あなたも知っているの? あ、わたしのことはディアナって呼んで。同郷――というか、同じ前世の記憶持ちなせいか、懐かしくて」


 え? 公爵令嬢を名前呼び!?

 ちょっとそれは恐れ多いというか……


「駄目、かしら?」


 公爵令嬢は潤んだ瞳で私をじっと見つめた。

 耐えること数秒――敗北した。


「では、ディアナ様と。流石に呼び捨てには出来ませんから」

「それでもいいわ、嬉しい!」


 そういえば、ディアナ様の言葉遣いも一気に砕けたわね。『わたくし』だったのが『わたし』になってるし。

 でも、ディアナ様の前世って、お人好しだったのでしょうね。本来なら、大きめだけど気の強さを現すかのような吊り目なのに、全然きつさを感じないんだもの。

 でも、こうしてディアナ様と話が出来るようになったのなら、聞いてみたいことがあった。


「不躾ですみませんが、ヒロインは誰を選んだんですか?」

「それが分からないの。クライヴ様、ヘンリー様、バリー様たちは、キーナン男爵令嬢に好意を寄せているのははっきりしているの。でも、ウィル様やカイルにも声を掛けてきていて……」

「あら〜それは駄目ですね。あのゲームは余所見しちゃいけない、たった一人を選ばなきゃならないのに」


 どうやらヒロインは欲張って逆ハーを目指しているのかしら? でも、一夫一婦制のこの国で、そんなことがまかり通るわけないのに。


「やっぱりそう思う? でも、やっぱり卒業パーティーは怖いと思うの」

「どうしてですか?」

「ウィル様はゲームのウィル様と違って意地悪なことを言うし、カイルも最近余所余所しいの」


 あらぁ、あんなに仲睦まじいのに、本人は分かっていないのね。

 王太子殿下のディアナ様を見る目は、他の人と全然違うのに。殿下って皆に優しいけれど、一定の距離感という感じで、なんていうのかな優しいんだけど何を考えているか分からない感じ。

 だけどディアナ様を見る時だけは、その瞳に熱を帯びるというか――そう、他の人とディアナ様を見る目は全然違うのよ。


「気の所為だと思いますよ。王太子殿下はディアナ様のことを想っているって断言します」


 根拠はない。さっき思ったディアナ様を見る目が他の人と違うというだけ。

 でも、この一点だけでも十分だと思う。

 決定的な額にキスとか、更に後日、頬にキスも見ちゃったんだけど、王太子殿下に口止めされているからなぁ。

 ディアナ様が安心するなら言ってあげたいけど、それがあの王太子殿下にバレたら、なんかすごい危機的状態になりそうで――


「それなら嬉しいんだけど」


 はにかんだ笑みを浮かべるディアナ様は、本当に可愛らしい方だった。

 悪役令嬢がこんないい人になるなんて思わなかった。



 ***



 卒業パーティーが終わり、ディアナ様は断罪されることなく、王宮に来た時に嬉しそうに告げた。

 でも、それから少ししてディアナ様の表情が曇ってしまった。


「ディアナ様、どうされたんですか? 断罪もされず、王太子殿下とも結婚間近ですし、義弟のカイル様とも元の関係に戻れたんですよね?」

「ええ、そうなんだけど……」

「でしたら、どうして」

「その、キーナン男爵令嬢が家から追い出されて行方不明らしいの」

「……え?」


 ゲームは卒業パーティーまで。その後のことは、誰も知らない。

 なら、ヒロインは何処に消えたの?


「学院で迷惑をかけた家から抗議が行ったらしいの。それで、男爵夫人が怒って追い出してしまったって……。彼女は庶子でも貴族令嬢としての生活しか知らないわ。だから、身一つで放り出されて、生きているのか……」


 憂い顔で語るディアナ様は、本当にヒロインのことを心配しているようだった。

 自分のことを貶めようとした人相手に――なんてお人好しなのかしら。

 悪いけど、私は少しホッとしている。この優しい悪役令嬢が、断罪されずに済んだのだから。

 そして、ヒロインは逆ハールートなんてないのに、皆に好かれようとしたのだから自業自得とも言える。

 でも、ヒロインに何かあったら、このお人好しの悪役令嬢――ディアナ様は泣くんだろうなぁ。


「私もメイド仲間にヒロインの特徴を伝えて街に出たときに探してくれるように頼んでみますね」


 そう答えると、ディアナ様はようやくほっとした表情に戻って「お願いね」と頼まれた。




 それから、メイド仲間にヒロインの特徴を伝えて休みの時に街に出たら探して欲しいことを伝えると、皆、なんで? というような表情だったけれど、ディアナ様のお願いだと知ると、すぐに了承してくれた。

 それでも、街に出た傍らで探すのだから見つからなくて、皮肉なことにディアナ様自身がヒロインを見つけてしまった。


 ヒロインはすでにやせ細り病気にかかっていて、残り僅かな命しかなかった。

 ただ、幸せになりたかったと、ディアナ様に言ったらしい。

 馬鹿よ、それなら誰からも文句を言われないような相手を見つけて、その人と共にあれば良かったのに。欲を出すから、そんなことになるのよ。


 でも――自分が世界の主人公だと知ったら、欲が出てしまうものなのかしら?

 私はモブだから、そんな気持ちにはならなかったけど……。


 でも、やっぱりディアナ様を悲しませたことは許せないんだから。

 生まれ変わったら、今度は絶対に間違えずに幸せになりなさいよね――





…カイルにかすりもしなかった

とはいえデイジーと…となると安直すぎるし、姉さん女房になりますね

それにゲームのヒロイン・レイラのことが最後に出てきてしまったので、あまりハッピーエンドでもないような…

なんとなく納得がいかなかったので、時間があればもうちょっと別の話を追加するかもしれません。

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