肩車は娘の成長の指標
「何なんだよお前は!?本当に人族かよ?」
「一応な、それより約束守れよ」
「わかってるよ」
男は約束通り康成に袋を渡す。
中身を確認すると金貨が30枚程入っていた。
「なぁ華凛、金貨みたいなのが30枚位入ってるけど俺は価値がわからねぇ。どんくらいだ?」
「30か?この街で普通に生活しても2ヶ月はもつぜ?」
30~40万位か?
価値がわかんねぇから甚平さんにも聞いてみるか。
康成は袋から半分取り出すと男に返す。
「なんだよ?憐れみか?」
「もともと俺が勝つことはわかってたからな。全部貰ったらただのカツアゲになっちまう。俺は金を持ってなかったからな。お土産も買いたいから小遣いとして貰っとくよ」
「そうかよ。もともと俺に勝てる気でいたのかよ……あの強さだ、嬢ちゃん達の自信もわかるぜ……全く人族の癖に訳がわかんねー奴だな」
「だろ?よく言われるぜ」
「でも本当に半分返して貰っても良いのか?確かに一文無しになるから助かるけどよ……」
「それなら尚更だ、気にすんな。俺はこの街は初めてなんだ何かあれば助けてくれ。それで充分だよ。ただ最初から人族だから弱いとか決めつけるのは止めたほうが良いぜ?」
「何から何まで規格外な奴だな。わかった変な絡み方はもう止めるよ。俺の名前は田助って言う。この街を拠点にしてるから困ったらこの辺りの店の奴に聞いてくれ。だいたいの場所はわかると思うぜ?」
「俺は康成だ。よろしくなオッサン」
康成と田助は握手を交わすと丁度甚平が荷台を借りて戻って来た。
「お待たせしました。おや?そちらの方は?」
「今知り合いになった田助のおっさんだ。小遣いを貰った」
甚平は周りのギャラリーと腕相撲の後の机を見て察した様子で「早速一悶着ですか……康成君もぶれませんね」とため息をつく。
「あんたはもしかして大森林の村の甚平さんか?」
「えぇそうです。族長をさせていただいております」
「やっぱりか!前にそこの屋台であんたを見たんだ。誰も完食できなかった大食いチャレンジを親子で完食しただろ?この辺りでは伝説だぜ?」
「お恥ずかしながら……あれからこの辺りで挑戦しようとしても断られるので困ってるんですよ。無料で大量に食べれるので丁度良かったのですが……」
「確かにな、あの店もやり過ぎだったけどよ。あんたはあの店主が、泣くまでやめなかったからな」
「普通の大食いの人にあの量は無理ですよ。そもそも完食させる気がありませんでしたからね。毎回人を見て量を変えてましたし。ちょっとしたお仕置きですよ」
「俺も試したけどあれを食べきるのは無理だったよ。それに失敗したら金貨一枚はさすがにデカイ」
「なかなか旨かったんだけどな……俺もギリギリだったぜ」
「もしかしてお嬢ちゃんって甚平さんの娘さんだったのか?」
「まぁな」
「そいつは失礼なことをしちまったな。すまねぇ」
「気にすんなって、結果的に何もされてねーんだからさ」
「まさか生きる大食い伝説の二人に会えるなんてな」
「おい、それやめろ」
「良いじゃないですか華凛、伝説の理由は人助けみたいなものですし」
「父ちゃん、俺も一応女だぞ?さすがに大食いの称号は嬉しくねーよ」
「そうか?華凛、大食いも才能なんだぞ?」
テレビでボディビルの偉い人が言ってた。
「そうっすよ、きっとアネキは食えるからそこまで爆乳に成長したに違いないっす!」
そうだそうだ!
「胸は関係ないと思うけどな、才能って言われたら悪い気はしねーな」
コイツちょろいな……
「それじゃあ、俺は行くからな。迷惑かけたな、何かあったら声をかけてくれよな!」
そういうと田助は街中に消えて行った。
「落ち着きましたし荷物を運んでしまいますか?肉が溶けてしまいます」
甚平は荷物を荷台に次々と乗せる。
康成もそれを手伝おうとするが止められる。
「康成君はここではただの村人ですよ。人族の村人はこのサイズの荷物は持てませんからね?」
「何か悪い気がするな」
「なんてことないですよ?ここまで一番大きな荷物を運んで来たのは康成君ですから一番の功労者です」
「そうだな。康成が一番頑張ったから後は任せろよ」
「そういうことならお願いするかな」
康成は積み荷の作業には手を出さず積み荷を固定したりと簡単な雑務をこなす。
甚平、華凛が荷台を引き、康成と羽歌はそれについていく。
「なぁ康成、何で全部受け取らないで半分返しちまったんだ?」
「そうっすよ!もったいないっす!もったいないお化けがでるっす!」
「俺の力は俺の力であって俺の力じゃないからな」
「謎かけっすか?」
「違げーよ。こっちに来たらいきなり努力も何も無しに強くなっちまったからな。未だに卑怯だと思うんだよ。だから勝負事くらいは出来るだけ力に頼らずに挑戦したかったんだけどな。今回は勝手に話が進んじまったし、少しイラッとしたから解禁した。悔いはない」
「アネキ!直訳するとアニキは私達を盗られたくなかったらしいっすよ!」
「田助も話してみたら悪い奴じゃなさそうだけどな」
「最初から人族否定、更に女をよこせって言われたんだ。ちょっとしたお仕置きだよ」
「なるほど……そうでしたか……私も参加したら良かったですかね?」
甚平さんが最初からいたら田助のおっさんは今頃ミンチだよ……
買い取りの業者の店まではそこまで距離もなくすぐに到着した。
甚平と顔馴染みの店員が荷物を見て言葉を無くし、その後は甚平にどうやって村から冷たいまま大量に運んだのか問い詰めるが何を聞いても「秘密です」の一言にしぶしぶ諦める。
「量もあるので少し時間がかかるそうです。昼御飯にでもしますか?」
「賛成っす!」
「そうしよーぜ!」
「店は混んでるみたいですし簡単に屋台でも良いですか?」
「よーし!ここは康成君に任せて貰おうか?小遣いも手に入ったしすきなもん奢ってやるよ」
「本当に良いのですか?」
「まぁ、ひょんな事から手に入れた泡銭だよ。こういうもんはパーっと使った方が良いんだよ」
パチンコで勝ったら「次の軍資金に……」ってとっておくと大抵負ちまうからな……臨時収入は上手いもんと買い物に使うに限るな。
「それでは遠慮無く康成君にご馳走になりましょうか」
「あっ、甚平さん一つだけ聞いて良いか?俺はこっちの金の価値がまだわからないだよ。簡単に教えて貰っても良いか?」
「そういえばそうですね、村でも余りお金は使いませんからね。康成君は今いくら持ってますか?」
康成は袋の中を覗くと金貨で15枚入っていた。
「お小遣いにしてはずいぶんと持ってますね……金貨1枚の価値ですが大銀貨10枚程の価値があります……」
甚平さんの話はこうだ。
金貨1枚=大銀貨10枚
大銀貨1枚=銀貨10枚
銀貨1枚=銅貨100枚
側に売ってる店の串焼きが1本銀貨2枚だし、多分金貨1枚1万円位だと思う……
「金貨にしては価値が低くないか?」
「金貨とはいっても1枚全部ではありませんよ?確か1枚辺りの金の率は低いはずです。金貨の上に大金貨があります。こちらは率がほとんど金のはずですが大きな商談の時しか使いませんからね」
「なるほどな……もちろん細工は?」
「当然できませんよ。特殊な加工がされているはずですから細工をしてもすぐにバレるみたいです。どのような加工なのかは公表されていませんがね」
「なるほどな、こっちなら霊力で何かしらの加工をしてるんだろうな」
「そうみたいですね」
康成と甚平が話しているのを待ちきれなくなったのか羽歌が声をあげる。
「アニキ!私はあの串焼きが食べたいっす!」
「おぅ、好きに頼んで良いぞ。みんなで食べるから人数分多目に頼んでくれ」
「ガッテンっす」と羽歌は目当ての屋台へと向かう。
その後ろを康成がついていく。
「おばちゃん、この串焼きを20本欲しいっす!」
「あいよ!お嬢ちゃんはお兄ちゃんと買い物に来たのかい?いっぱい買ってくれるし可愛いからサービスしてあげるね」
「おまけありがとうっす!でもおばちゃん、私達は兄妹じゃないっすよ?」
「あら?そうだったのかい?」
「現地妻っす!」
康成は無言で羽歌を華凛に放り投げると店員に愛想笑いを浮かべて金を渡し串焼きを貰う。
後ろを見ると羽歌は華凛に閉め技を喰らっている。
おぉ、完璧なコブラクラッチだな。
「アネキ!完璧に入ってるっす!ギブギブ!」
華凛が離すと羽歌は崩れ落ちる。
「この流れはもはや伝統芸能だな」
ダチョ○倶楽部みたいな。
「色々な店がありますから歩きながら食べましょうか」
「アニキ……アネキにやられて動けないっす……おんぶを希望するっす……」
羽歌は立ち上がるがふらふらしており酸欠状態だ。
「羽歌の自業自得だけどな、まぁ仕方ねぇなぁ」
康成は肩車をすると羽歌は元気を取り戻したのか康成の上ではしゃぐ。
「やった!肩車っす!」
「余り暴れるなよな。お前なら飛んだほうが高いだろ?」
「アニキ、街中は緊急時と許可証を持ってる作業時以外は飛行禁止なんすよ?」
そうなのか?まぁ温泉街だしな。空飛んでたら露天風呂とかは丸見えだからな。
「それに……人に肩車して貰うのはまた違うんすよ……」
「何か言ったか?」
「何でもないっす!少ししたら交代するからアネキも肩車してもらうっすよ!」
「恥ずかしいから俺は別にしてもらわなくてもいーよ!」
「おや?そうでしたか……華凛も疲れたら私が肩車をしましょうか?」
「だから恥ずかしいからいいって!この年で父ちゃんに肩車してもらうのはさすがに抵抗があるからよ」
「昔はお父さんの肩車大好きって言ってくれてたんですがね……」
「甚平さん残念だったな。うちの娘はまだパパの肩車大好きだぜ」
「娘の成長は嬉しくもあり時には悲しくもあるのですよ……」
「私もそのうち恥ずかしくなるんすかね?まぁ大丈夫なうちは存分に楽しむっすよ!」
康成が羽歌を肩車し、それを華凛が少しだけ羨ましそうに見る。
楽しそうな三人を後ろから見る甚平は自然と笑みが溢れていた。




