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置いている漫画でラーメン屋のセンスが問われる


朝イチで役所に来たため、役所を出ると時刻はまだ10時を過ぎたばかりだった。



藤林組の若者は申し訳ないと頭を下げるが棗は「こういう事もあるさ、気にするんじゃないよ。佐之助には良く言っておくからね」と言うと再度頭を下げ役所を後にした。



「なぁ稲荷さん、稲荷さんは仕事口を探してるんだろ?何か希望はあるのかい?」



「希望かや?うーむぅ……正直言うとな、わからんのだ……働き口と言っても今の現世には職がありふれておるらしいの。ありふれておるが……」



「おるが?」



銀狐は腕を組むと首を傾げ目を瞑る。



「現世の職は難しそうでな……機械とかに慣れねばいけんのじゃろ?あのてれびも職人が造っておるのだろ?正直あそこまではできん」



神妙な顔の銀狐を見ると棗は吹き出した。



「はっはっは!稲荷さんはそんなこと気にしてたのかい?大丈夫だよ。私もテレビ何か造れる気がしないよ。稲荷さんにもできる仕事はあるさ」



「本当か!?我にもできる仕事はあるかのぉ?」



棗は笑うと人差し指を立てる。



「ラーメン屋とかで働いて見る気はあるかい?多分難しい仕事じゃないよ。私の知り合いに店長をやってる奴がいるんだ。良かったら紹介するよ?」



「ラーメン屋とな?飲食店かの?」



「そうだよ、募集はホールスタッフだったはずだから、お客さんが来たら注文を受けて厨房に教えるんだ。料理ができたらお客さんに運ぶ。レジ打ちは慣れるしかないけどそんなに難しい仕事じゃないはずだよ?」



「是非頼む!」



「あいよ、家から歩くと少し距離があるけどね。自転車を貸してあげるよ」



「自転車か……確かさっきから道の端を走っておる1人乗りの車輪のやつじゃろ?乗れるかの?」



「稲荷さんは一応狐だろ、運動神経は良いんじゃないかい?練習なら私も手伝うよ?」



「本当は狐では無いがの……運動は得意じゃよ」



「家の近くの公園で練習しようか、自転車は康成のお古がまだまだ現役で乗れるよ」



「よろしく頼む」



「練習も大事だけどね、先に店に行って採用してもらうよ」



「そうじゃったの、先走り過ぎたわい。知り合いと言うことはさっきの51同盟とやらかの?」



「稲荷さんもそんなこと覚えなくても良いのに……そうだよ同盟の中で一番濃い男だよ」



「何が濃いのじゃ?」



「まぁ……一目見ればわかるよ。簡単には忘れることができないくらいにね……」



銀狐はまだ見ぬ店長に想像を膨らませながら棗の車に乗った。



…………………




「あらぁ?お久しぶり、ナツじゃないのぉ、いらっしゃい。食べに来たのかしら?でも開店は11時からよ?」



銀狐は絶句した。



…………………


棗を先頭に店に入ると煮込むスープの匂いが鼻をくすぐり、昼食にはまだ早いはずの銀狐の腹を鳴かす。


棗の声に反応して奥から出てきたのはスキンヘッドが似合う。アゴヒゲを生やした熊のようなムキムキ男だった。



銀狐はどのような店長でも覚悟していたが、なかなかの巨体に緊張する。


濃いとはこの事か?確かに顔は濃いしデカイのぉ……もしかしたら無茶苦茶怖いのかのぉ?



「久しぶりだね、光雄」




「あらぁ?お久しぶり、ナツじゃないのぉ、いらっしゃい。開店は11時からよ?」



光雄と呼ばれた店長は体格に似合わない高い声にオネエ口調。


よく見ると唇には薄いピンク色の口紅が塗られ、店内の照明が反射する。


巨体を内股で支えつつクネクネと身を動かす。


銀狐は絶句した。



なんじゃあれは?新たな妖の類いか?

現世にはあのような魑魅魍魎がまだ存在していたとは……



何故男が唇に紅を塗る?


昔から社をあまり出ることの少ない銀狐は初めて見るオカマに動揺を隠せないでいた。


気づかないうちに身体は震え、棗の後ろに身を隠した。



「こら!うちのを怖がらせるんじゃないよ!」



「やーねぇ、怖がらせたりなんかしてないわよ。お嬢ちゃん大丈夫よ?オネエさん怖くないわよ?」


光雄はハァハァと言いながら銀狐へ近寄る。


嘘じゃ!


ハァハァ言っとるし、絶対喰われるわ!



「戯れはそこまでにしておくんだね。光雄、あんた従業員募集してただろ?この娘はどうだい?今、仕事を探してるんだ」



うおぉぉい!?棗殿!?本気かの!?



「確かにまだ募集してるわよ?なかなか女の子の従業員が来なくて悩んでたところよ」



確かに他の従業員は何故か店長に似てるムキムキが多いのぉ。



どこか店長を見る目が艶っぽい顔なのは何故じゃろ?



「それじゃあ、頼んでも良いかい?」



「まだよ?先にテストをするわ」



テスト?我は何にもわからんぞ?



…………………




「お待ちどう!男ラーメン2丁!」



銀狐と棗の目の前にはチャーシューが器の周りを囲んでおり、真ん中にもやし、ニラ、煮玉子が乗ったラーメンが運ばれて来た。



「棗殿?どうしたら良いのじゃ?」



「私もわからないよ。光雄が言うにはまず食べてみろだとさ。麺が伸びないうちに食べてしまおうか」



「そうじゃの、さっきから旨そうな匂いで腹がなりっぱなしじゃよ」



二人は箸とレンゲを持つとラーメンを食べ始めた。



銀狐は初めてのラーメンのため、棗の食べ方を真似し、始めにスープを飲む。



ニンニクとニラの香りが漂うスープを一口飲むと銀狐は目を見開く。


な、な、な、なんじゃ!?これは!?

濃い動物の出汁が出た旨味の塊のスープにニンニク、ニラがガツン!と来るわい!



次は肉じゃ!これは豚肉かのぉ?

おぉ!脂がスープの温度で溶けて、口に入れるととろけるの!



麺も縮れておるせいか、濃厚なスープが程よく絡む、これはいくらでも食べれるぞ!




最近人気の透き通ったスープのあっさりラーメンなど邪道、「濃い」「脂」「重い」がモットーのラーメン、普段から男性客が8割をしめ、休日には長蛇の列ができ、とある界隈で人気のオネエ系名物店長がいる店。


「女の敵」「カロリー爆弾」「手軽に太れるデブエット」と影で囁かれる店名「鬼麺堂」




そのラーメンを銀狐はペースを落とさずに食べ、スープまで完食した。



光雄はその様子を見て微笑み一言。



「はい、合格よ。いつからシフトに入れるのかしら?」



「ん?テストとやらは良いのか?」



「もともとうちのラーメンを美味しく食べて貰えば合格だったのよ。女の子で、しかもペースを落とさずに完飲完食、文句無しの合格よ」



「棗殿!やったぞ!就職先が決まったわい!」



ゴトッ!



銀狐が隣の棗を見ると棗もラーメンを完食したところだった。



「ふぅ……私もまだまだいけるね。相変わらずエグいラーメン作ってるね。私はなんとか完食だよ」



「あらぁ、なっちゃんは無理しなくて良かったのに……と言うか良く食べれたわね……」



「さすがにキツイよ。でも、光雄のラーメンは量はエグいけど旨いからね」



「なっちゃん嬉しいこと言ってくれるじゃないのぉ?銀狐ちゃんだっけ?うちの看板娘にするくらい大事に育ててあげるからね。約束するわよ」



「そうか店長さんよろしく頼むわい」



「店長なんて他人行儀じゃないの?遠慮しないであんみつって呼んでね」



「あんみつ……かや?」



「本名安堂光雄、略してあんみつだとさ。私は絶対呼ばないけどね」



「そうね……いきなりあんみつは呼びにくいだろうから、あんみつちゃんかあんみつ店長って呼んでね?」



「よろしくな、店長よ」



「もう、つれないわねぇ。まぁいいわ、ゆっくりじっくり仲良くなりましょ?」





こうして我は住民票と就職先を見つけることができたのだが……



波乱の予感しかせんのぉ……



神も働く時代とは……世知辛いわい……



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