黒タイツは30デニールで
「あんたも変わってないね佐之助。家業を継いだって聞いたから変わったんじゃないかって心配してたんだよ」
「姉さんに呼ばれたんです。そりゃ急いで来ますよ。むしろ少し遅れたくらいです」
「無理させたね。それで何とかなりそうかい?」
「身分証明が必要なのはそちらのべっぴんさんですか?」
「そうじゃ、すまんのよろしく頼むわい」
そこからは早かった。
何でも行方不明の人が戻って来て、死亡扱いになっていない場合、昔の保険証や身分証明書があれば再発行が可能らしい。
確かに一度ホームレスになったりしてからの社会復帰には身分証明書は必須だしな。
どういう理由で行方不明になったかは様々だが今回藤林さんは何年か前に夜逃げした家族の忘れ物の保険証を持ってきた。
その人は今だと22歳になる。銀狐の見た目と同じくらいでぴったりだ。
「こちらを持って役所に行けば再発行が可能なはずです。行方不明の方が戻ってくる可能性はかなり低いため大丈夫だと思います。夜逃げでホームレスになってるか、すでに亡くなっているか、海外にでも逃げたか理由は不明ですが可能性の低いものを持ってきました」
「ありがとよ、理由や住所はどうする?」
「それはこれから本人も含めて詰めましょう」
そこからは棗、銀狐、藤林さんの三人で話を始めた。
住民票、マイナンバーを取得して、住所を登録してと中々難しい話が始まり康成は考えるのをやめた。
藤林さん想像以上に真っ暗じゃねーか。
康成は暇な時間に行方不明の年間者数を調べると85000人近くの行方不明がいるらしい。
まぁ神様の身分証明書だし、今回は役所に目を瞑って貰うか……
誰かに迷惑がかかってる訳じゃないしな……
ふと娘のことを思い出し探すとスキンヘッドに高い高いされたり馬さんごっこをしていた。
まさかのスキンヘッド子供好きだった。
むっちゃにやけてるし。
「よし、これで良いね?それじゃあ明日頼むよ?」
「わかりました。間違わないように頭の良い若いのをつけます。銀狐さんは説明が苦手ってことにしましょう。若いのに説明を任せます」
「何から何まで悪いね。貸しにしといてくれ」
「姉さん馬鹿なこと言わないでくださいよ。これっぱし姉さんからの御恩の万分の1です。どんどん頼ってくださいよ」
まじで母ちゃんの過去に何があったんだよ……
母ちゃんの昔の写真って全然ないんだよなぁ……
「それではそろそろ帰ります。また何かあれば呼んでください。金貸し以外でしたら無料で引き受けますよ」
「そうさせて貰うよ。今度は遊びにでもおいで。たまには一緒に酒でものもうかね」
「是非とも、坊っちゃんも姉さんをよろしくお願いします。では」
彩愛と遊んでいたスキンヘッドに声をかけると男達は少しショックな顔で立ち上がり、一礼すると家を後にした。
「なぁ母ちゃんって昔……」
「女に秘密はつきもんだろ?あんまり詮索するもんじゃないよ」
何か腑に落ちないな。
「我もそろそろお暇するか、明日の準備もあるでの。それでは棗殿明日またよろしくの」
「わかったよ。そういえば稲荷さんはその服しか無いのかい?さすがに役所では目立つよ」
「服か?そうじゃな……こんなのはどうじゃ?」
銀狐が言うと、身体が少しひかり、気がつくと顔は銀狐だがスーツを着た黒髪OL銀狐に変身した。
「先程娘っ子とてれび?を見ていての若い女性がこのような服で仕事をしておった。どうじゃ?」
エロいイケナイ秘書みたいだ……
これもありだな。
「悪くないね、就活してるみたいで良いじゃないか」
「そうだな、眼鏡をかけると凄くいいぞ」
性的な意味で。
「眼鏡か?これでどうじゃ?」
再度変身すると銀狐は昔の瓶底眼鏡をかけている。
確かに眼鏡だけどさ……
期待と少し……いや、かなり違う。
「苦学生みたいで役所の同情を引けそうだね。よし!それで行こうか」
あぁ……エロ眼鏡美人秘書が……
「お主はどうじゃ?」
「イイトオモイマス」
「なんで少しへこんでおる?」
次に期待だな……
「明日はどうする?俺は早番だから朝はいないぞ?」
「私が稲荷さんの朝飯を作るよ。一人分増えたって大したことないしね」
「そう言われると助かるのぉ、棗殿に甘えるとするかの。お前もそろそろ行くぞ」
彩愛と遊んでいる狐に声をかけると康成の首に巻きついた。
「なんだよ?遅れってか?」
狐は頷く。
「なんじゃお前は康成が気に入ったのか?」
「しかたねーなぁ。銀狐、社まで送るぞ」
「そうじゃの、頼むかの。聞かれてもおらんのに自己主張するなんて珍しいの?」
「そうなのか?」
「我の使いじゃしの、まぁ将来的な神候補じゃがの」
「肉食べたからとか?」
「あり得るの、初めてのことだからわからぬが面白い、退屈せぬわ。お前はどんな風に成長するかの?」
歩きながら銀狐は康成の首に巻きついている狐の頭を撫でると親に撫でられているかのように気持ち良さそうに目を細めた。
神社に着くと康成は社の中を覗く。
「なんじゃお主よ、乙女の部屋が気になるかの?」
「部屋ってよりは廃墟だけどな、この社で銀狐はどうやって寝るんだ?」
「いや、普通じゃぞ?風で空気の膜を作るじゃろ、その風を火で暖めて適温にする。乾燥していたらそこに水を加えて程よい湿度を保つのじゃ」
「そっか、霊力を使って一人で冷暖房、加湿器、除湿器何でもできるんだな。本当に便利だな」
「じゃろじゃろ?お主も鍛練すればできるようになるわい。今日は霊界で基本を覚えて来たようじゃな?」
「そこまでわかるんだな」
「霊力の流れでわかるわい。もう少し鍛練を重ねれば肉体強化を教えようかの」
「まずは基本か?」
「当然じゃ、基本が始まりで全てじゃよ」
「布団は?」
社の中には布団はおろか、テーブルも無い。
まさか……
「そんなもの買う金はないわ。だからこうじゃ」
再度変身すると、冬用の半纏を纏い狐を首に巻く。
「これで、壁際に横になるのじゃ」
「よし、わかった。銀狐うちに帰るぞ。座敷が空いてるからそこで布団に寝ろ」
「え、えっ?社は?」
「こんな状態じゃ人は来ねーよ!この、馬鹿ちんが!改修するまで暫く居候しろ!」
「あはは……神に馬鹿ちんとはの、すまん、恩にきるわい……」
家まで引き返すと棗が不思議な顔をしていたが、事情を話すと笑いながら承諾した。
「客間も座敷も空いてるから好きに使いな。一応離れもあるけどどうする?」
「離れを借りようかの、迷惑をかけるの」
「気にするんじゃないよ。これも何かの縁だ。縁は大事にしようや」
康成が布団を離れに運ぶと銀狐は布団に転がる。
「久しぶりの布団じゃの。ふかふかじゃ……」
「神社の再建も大事だけどさ、まずは自分の周りから少しづつ片付けて行こうぜ?まだ今の時代に馴れていないんだ。みんな協力するから……ん?何だ、もう寝てるのかよ……布団に転がったままじゃねーか」
寝息をたてる銀狐に康成は毛布をかけると部屋を後にする。




