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早すぎる巣立ち

今回から数話、双子視点でお送り致します!

今日は兄、ユーイン視点です!

僕の名は、ユーイン・トゥーマック。

ここ、フレーバル王国の辺境伯の息子だ。

とはいえ、貴族の位にあっても家は貧乏で、生活は厳しい。

けれど両親と六人の兄弟達と力を合わせ、貧しいながらも暖かく穏やかな日々を過ごして来た。

しかし、いつかはそんな家を出て一人立ちしなければならない。

家を継ぐ長男を除いた兄上達も姉上も、成人すると同時にその準備を整え、旅に出たり、そう遠くない土地に小さな居を構えたりしている。

まだすぐ上の兄上が家にいるけど、あと数年したら、僕の番だ。

家を出て新たな世界に踏み出す事には、抵抗はない。

けれどただひとつ、双子の弟であるルーインと離れる事になるのは、とても寂しい。

僕達は生まれてからずっと、何をするにも一緒だった。

お互い、側にいるのが当たり前だった。

だからできればこれからも、一緒にいたい。

もしルーインもそう思ってくれているのなら、家を出ても一緒に行動したい。

そんな事を考えながら毎日を過ごしていたある日、三番目の兄上と僕とルーインは、父上に呼ばれた。


「三人とも、つい先程まで、王都から使者殿が来ていたのは知っているな? 使者殿は、ある知らせをもたらした。各国代表の一致で、数日後、異世界から複数の女性を召喚する決定がなされたらしい。それに伴い、その女性達を守り支える人材を広く募集するそうだ。応募資格と権利は、我々のような貧しい下級貴族や土地の名士の一族、名のある冒険者などの中から、良識ある者のみに与える、との事だ」


僕達が父上の部屋を訪ねると、父上は僕達を順に一瞥してからそう語り出した。

父上が言葉を切ると、場に一瞬の沈黙が落ちる。

それを破ったのは兄上だった。


「父上は、私達三人にその人材となるべく応募せよ、と仰るのですか?」

「いや、そうではない。ただ、そういう機会(チャンス)がもたらされたと、知らせる事にしただけだ。知っての通り、この世界には女性が少ない。うちには運良く娘が一人生まれたが、そういう家庭は極僅かだろう。お前達の一番上の兄の嫁取りも、難航している。家を継ぐあいつこそ血を残す為女性と知り合い結婚して欲しいが、家から出すわけにはいかん。……そういった状況の中で、この話はまぎれもなく結婚のチャンスとなろう。私はお前達にも、結婚をして幸せな家庭を築いて欲しいと思っている。どうするかはお前達の判断に任せるが、この話は確実に女性と知り合う機会が与えられるものだという事は、理解しておいて欲しい」

「……仰りたい事はわかりました。ですが父上、私は冒険者となって世界中を巡るのだと既に決めています。結婚相手となる女性とも、いずれきっとその旅路の中で出会えましょう。よって、そのお話は私には不要と考えます」

「……そうか、わかった。ユーイン、ルーイン。お前達はどうだ?」


父上は兄上のきっぱりとした言葉に頷くと、僕達に視線を移し、そう尋ねてきた。

その視線に、僕はつい狼狽えたように目を逸らしてしまった。


「ユーイン?」


そんな僕に、父上は怪訝そうな声色で声をかけてくる。


「ぼ、僕は……家を出るのは、まだ先の事だと、思ってましたので……突然の事で……」

「……そうだな。俺もそう思ってた。……けど、ユーイン。父上の言う通り、このお話はまぎれもないチャンスだ」

「……え、ルーイン?」


視線を泳がせながら父上に言葉を返していると、ルーインがそれに被せて声を発した。

ルーインはまっすぐな目で僕を見る。


「俺は成人後、ここのような静かで穏やかな土地に行って、そこで冒険者なり何処かの店に勤めるなりして生活しようと思ってた。そして、いつか可愛い女性を見つけて、父上と母上のような夫婦になるのが、俺の夢なんだ。……その夢の為には、確実に女性と知り合えるこのお話は、逃したくないチャンスだと思う。だからユーイン。俺は、行くよ。応募して、王都に」

「……ルーイン……」


続いて告げられたルーインの言葉に、僕は衝撃を受けて呆然と立ち竦んだ。

ルーインが、行ってしまう。

ずっと一緒にいたのに……成人を待たずに、こんなに早く別れがくるなんて。


「……けど。けど、ユーイン。これは俺の我が儘だけど、俺はユーインとも、これからも一緒にいたいんだ。今までそうだったように、これからもずっと。だから……できればユーインも応募して、一緒に王都に行って欲しい」

「! ……ルーイン」


何も言えないままただ固い決意が窺えるルーインの目を見つめていると、ふいにその目が揺らぎ、ルーインはそんな事を口にした。

それは僕がずっと思っていた事と同じで……胸に嬉しい気持ちが広がって、僕はゆっくり口角を上げ、微笑みをつくる。


「……うん、わかった。僕も同じ気持ちだ。ルーインとはずっと一緒にいたかった、いや、一緒にいたいから……僕も、王都に行くよ」


そしてそう言って頷く。

僕達は双子。

だから、本当に生まれたその瞬間からこれまでずっと一緒にいて、離れた事なんかない。

そして、これからも……大人になってもずっと、一緒にいれたらいい。

王都行きを決めた僕達はすぐに支度に取りかかり、二日後の朝、生まれ育った故郷を経ったのだった。


え、ブラコン?

いいえ、ただの深い兄弟愛です!

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