旅立ちの日
翌日、いつも利用していた、この建物内にある食堂で朝食を取った後、カウンターの奥の厨房で働く料理人の人達に『今まで美味しい料理をありがとうございました』とお礼を言って食堂を後にし、今まで私の部屋の掃除や衣服の洗濯をしてくれてたメイドさんを探して『色々お世話になりました』と頭を下げて、部屋に戻った。
そしてすぐにマジカルバッグ・改を手に取り肩から斜めに下げると部屋の扉に向かい、その前でくるりと反転する。
部屋の中をゆっくり見回して、これまでの事を振り返る。
あのベッド。
この世界に来て間もない頃は、元の世界の事をよく夢に見て、起きたら涙を流している事があった。
あの机。
文官さんにこの世界の文字の書き方や歴史を習っていた時は、よく復習していた。
あのクローゼット。
持っている服は少ないけれど、その分コーディネートで誤魔化そうと、扉の裏についている鏡を見ながらあれこれ悩んだ。
……過ごしたのは僅かな間だったけど、それでもこの部屋にはそれなりに思い出がある。
でも、もうこれでこの部屋とはお別れだ。
「……さようなら。今まで使わせてくれて、ありがとうね」
私はそう言ってもう1度部屋を見回すと、ひとつまばたきをして踵を返し、扉を開けて、その向こうに足を踏み出した。
★ ☆ ★ ☆ ★
建物の玄関を出ると、そこにはユーイン君とルーイン君が立っていた。
出てきた私を見ると、二人は軽く頭を下げる。
「おはよう、シズルさん。いよいよ旅立ちの日だね! これからよろしく」
「おはよう。俺達、きちんと護衛として役に立つよう頑張るから、よろしく」
「あ、うん、おはよう二人とも! 私も足手まといにならないよう頑張るから、こちらこそよろしくね!」
私が小走りで駆け寄ると、二人はそれぞれ挨拶をしてくれて、私もそれを返す。
そして三人で、お城の門へ向かって歩き出した。
「あ、そうそう、あのね? とりあえず、これからの事を話し合いたいから、街へ出たらまず喫茶店に入ろう?」
「話し合い?」
「これからの事って、旅をするんだろう?」
「あ、うん。でもそれは、定住地を探す為にだから。あちこち当てもなく旅して回るより、二人の意見も聞いて、候補を絞っておくといいかなって思うんだ」
「定住地を、探す為?」
「……へぇ。俺達はてっきり、冒険者になってずっと旅生活するのかと思ってたけど、違うのか」
「え!? ご、誤解だよ! 確かに冒険者にはなるけど、いずれちゃんと定住地を決めて、そこのギルドを拠点に活動するつもりだから!」
「ふぅん、なるけどね。じゃあギルドがある場所が定住地候補なんだね。まあ、大抵どこでもあるけど」
「そうだな。けど、三人の能力を確認して、それに見合った仕事がそれなりにあるギルドでなければ駄目だろう」
「うん、そうだね。あと、こんな場所に住みたいって希望もそれぞれであるだろうし……。その事を含めて、落ち着いた場所でまず話し合いたいの。だからとりあえず、喫茶店に行こう?」
「「 わかった 」」
私は歩きながら目的地の候補を絞る為の話し合いをしたい旨を伝え、二人の了承を取ると、街の大通りにある喫茶店へと、歩を進めた。
★ ☆ ★ ☆ ★
喫茶店に入ると、私達は陽当たりのいい窓際の席に通された。
この喫茶店、今はベリーフェアなるものをやっているらしく、白い石造りの店内の至る所に、ベリーの飾りつけがされていて、なんだかちょっと可愛らしい雰囲気になっている。
双子はドリンクのみを注文したけれど、私はせっかくなのでドリンクの他に"三種のベリータルトアイスクリーム添え"を注文した。
数分経ってテーブルに置かれたお皿の上には、ブラックベリー、ラズベリー、ブルーベリーのタルトに、ストロベリーソースのバニラアイスが綺麗に盛りつけされている。
さ、さすがはベリーフェア……アイスにまでベリーが使われているよ!!
でもそうなると、これ、三種じゃなくて、四種のベリーだよね?
ああでも、ストロベリーはタルトじゃないから、いいのかな?
「さて、シズルさん。定住地についてだけど、シズルさんはどんな所に住みたいの?」
「あっ、うん。えっとね。水の流れる水路の街か、自然豊かな森の街とかいいかなって思うんだけど……ユーイン君とルーイン君は、どんな所がいい? いつかはお別れする事になるとしても、しばらくは一緒に住むだろうし、二人の意見もちゃんと」
「え? ちょ、ちょっと待ってシズルさん? 『いつかはお別れ』って何?」
「俺達、この先ずっと貴女と一緒にいるよ? いつまでもずっと。そういう契約だから。知らなかったの?」
「え……い、いつまでもずっと? そ、そうなの? いや、知らなかったって言うか……文官さんは、確かに、期限とか特に言ってなかったけど……そ、そっか。ずっと一緒にいてくれるんだ……良かったぁ」
「あ、『良かった』って事は、僕達がずっと一緒でも問題ないんだね」
「なら、こっちこそ"良かった"だな」
「あっ、ご、ごめんね! 勿論、問題なんて何もないよ!」
いつかはお別れするだろうっていうのは、私の思い込みだったんだね、余計な事言って、二人に悪い事しちゃった。
あ、でもそれだと、ヒョウキは造る必要なかったかも……うぅん、だけど、護衛は多いほうがいいだろうし……うん、別にいいよね!
「えっと、それで、二人の希望は?」
「あ、うん。そうだなぁ……。海のある、港町なんてどうかな? 海にも魔物は出るし、海上での人や積み荷の護衛とか、荷運びの手伝いとか、色々仕事はあるはずだよ。魔動宮が近くにあるっていう港町も、確かあったはずだし、そこなら尚いいかも」
「港町かぁ……。ルーイン君は?」
「俺は、静かな場所なら、どこでも。港町は賑やかそうだけど、街のどこかには静かな場所もあるだろうし、家をそこにしてくれるなら、別に構わない」
「静かな場所、ね。う~ん、それじゃあ、とりあえず水路のある街と、森の街と、港町を目的地として旅をする。その中で静かな場所を探して住むかどうかを見当してみる、でいい?」
「「 うん 」」
それぞれの意見を聞いて纏めると、二人はこっくりと頷いた。
よし、それならこれで旅の指針は決定だね。
文官さんと見た地図によると、確か、ここから一番近いのは水路のある街だったはずだ。
まずは、そこを目指して、出発かな。




