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騎士と魔導士 ※挿絵追加!

人物大百科を更新しております!是非ご覧下さい~!

9/25 挿絵を追加しております。是非ご覧ください!

 武錬場の扉をくぐれば、騎士達は両側に並び一斉に頭を下げた。王(わたし)の来訪なのだ。訓練兵でもあり、自らを無心になって鍛えていた者達は突然の王の来訪に背筋を固めていた。

 王都の城は王の城――そのことをわかった上で城で王に仕えている彼らだが、王(わたし)を見られる者は限られている。故に、彼らの言う騎士とは、純粋な戦士であった。


「陛下がアポ無しに来るからこういう事になっちゃうんですよね、ね、団長!」


「と、言われましても……」


 余所行きの笑顔をとって付けて、目が合った少年騎士に笑い掛けてみる。――が、少年騎士は悪い事が教師に見つかった子の様に、息を呑んで目を彷徨わせた。

 大変だ。私はもしかして、彼らに大変なストレスを与えているのかもしれない。ならば仕様がないさらば、とはいけないわけで!私は仮にもこの城の主で彼らの主というわけで!そんな私が彼らの顔を呼んでおずおず部屋に引き返すのは道理が違うと言う訳で!


 体裁だけでも……取り繕うべきか。ただシリウスの剣術姿が見たいだけなんだ……けどなぁ……。


「――こ、こほん」


 うっ、視線が大集合した集合線が私に集まっているのが見える!

 なんていう緊張感?いやいやいや、私ってここまで注目されるような人生歩んできたかな!?ただの女の子だったはずなんだけどな!?

 まあまあまあ頭の中で嘆くのは此処までにしておこう……。


「我が騎士達、突然の来訪……本当にごめんなさい。事前に連絡を入れるべきだったね、驚かせて……ごめんね」


 少年騎士へ目線をやると、少年騎士は頬を緩ませて下を向く。


「だけど私が今此処に居るのは他の何のためでもない。私の騎士の武勇は明日、この目にしかと焼き付ける。そう、焼き付けるその前に……――私は、我が騎士たちの裏側を、飾らない今日を見に来た。確かに!騎士っていうのは、鎧を身に着けて、馬に跨って、相手を討つその瞬間が良い……!んだけど、あなた達は私の騎士!民を招くために御前試合という体を取るけど、私は自分の騎士が陰日向関係なく頑張っている姿を見たい!だから、アポなしに、今!――来ました。我が騎士達よ、明日の御前試合で華々しい成果を上げる為に、今日は全力で竹刀を振り上げなさい!さぁ――尋常に、」


 私は会話の流れで手を振り上げてしまった。騎士達は特に驚いた様子も無く、合図がさも当然と言う様に流れるように向かい合い構えを取る。


「――はじめ!」


 空を切り裂いた私の手と、対峙する者を伏せようとする刃が共に振り下ろされた。武錬場に響き渡る竹刀、いや、木刀の音は夏の木霊の様に空間から乖離した。


 汗の匂い。汗と、声と、――女性騎士の靡く髪は、焦点を絞らせて、その他をぼやけさせた。

 私は、この景色を、この光景を――どこかで。


 見、―――――。





挿絵(By みてみん)





「   ―――――――――――――   」


 ――――猫毛の少女は、黄金色の教室で花のように笑う。






「スワード様!如何成されましたか!?」


 皆が一斉に剣を止めた。

 私も、歪んだ視界を無理やり引き戻して視線の集まる場所を見る。


「いやあ……随分と待たされたな。遅かったですね、スワード」


「……お前のように遊んでいる暇は無い。すぐに終わらせてやる――シリウス」


 スワードが、立っていた。

 そう――スワードが居た。どうして、などと、なぜ、などとふわふわした有り触れた問い掛けの如く歩いて私は彼の目の前に歩み出た。

 手に持つ木刀よりも鋭利な瞳で、私を見下ろすその目に首を傾げた。


「スワード?剣なんて持って……どうしたの?」


 更に視線が鋭くなった。

 焦る様にピントがあった視界で、私の胸がどきりと悲鳴を一度上げた。その視線の鋭さに心が凍てたわけではなく、私は……無意識に伸ばした手をぎりぎりで止めた。


「――御前試合の大取は、盾と……矛が、ぶつかり合うのが恒例だ」


「はい、決まり事ではありませんけれど……やはり僕らが戦う前に誰かに敗れる等あってはならないことですもんね」


「シリウス……」


 何時の間にか、背後にシリウスが立っていた。

 私に一礼をする。意を汲み取って、私は数歩後ろへ下がった。シリウスは入れ替わる様に前へ歩み出ると重心を真ん中にしっかりと落とし込んだ出で立ちで、私に背を向ける。

 対するスワードは、引いた顎と正反対に持ち上げた目でシリウスを見上げ口元に笑みさえ浮かべない。


「この――俺が、俺以外の誰かに負けることなどあるはずがない」


「今日はリハーサルですよ?肩の力を抜いたらどうですか?スワード」


 二人を中心にして、ギャラリーと化した騎士達は自然と舞台を整えた。

 十分な広さ、張り詰めた空気、――そして、舞台に残した開始を告げる王。


 盾と剣が私を見る。手が操り糸で動かされるように真上に行って――、何も告げずに、静寂を、糸を、幕を、切り落とした。


 先制を奪い取ったのはスワードだ。間合いの詰める速さと、猛る獣の様な剣気に気圧された私は声を上げられず後ろの騎士に駆け寄った。「陛下!危険です、こちらへ!」伸ばされた手を傍目に掴んで、私は舞台から出ることに成功した。けれど、視線を逸らせなかった。ぶつかり合うお互いの剣撃から目を逸らせば最後、あの重たい一撃が私へ飛んでくる――と見紛う程、力強く、鋭利で、身を震わせた。


 盾が剣のように攻め、剣が盾の様に守りに徹するこの盤面はまるでお互いがお互いの役割を奪い合った様だ。

 

 攻めるスワードに、守るシリウス。

 お互いを冠する名は、盾と剣なのに。


「いっけぇー!団長ぉ!」


「スワード様だって団長なんだよぉ!うるせぇな騎士野郎!」


 彼らの踊るさまは、役割を奪い合うかのようで――。

 いいや、違う。彼らの踊る様は、私達の心を奪い合っている。だって皆の目がこんなにも、輝いているのだもの!

 先程までの悪寒は既に奪い取られてしまっていた。

 ただ、ただ、ただ――二人を包む喧騒に飲まれていく。


「――素敵」


 と、零れたその時に、どちらかの剣が宙を舞った。


「陛下!」

「お下がりを――!」


 見上げた頭上に、ぐるりぐるりと飛び回る剣の欠片。

 広げた眼に映る、ぐるり――角を真下に定めた剣の欠片。

 息を呑む私に向かう、矛先。


 夢の中のしがらみのように、私の身体は動かない。


「エリーシア!」

「エリーシア様!」


 ――天使に与えた力がある。

 ああ、そうだ。私(わたし)は、地上を諌める為にあらゆる天使を放った。持たぬ人と持つ天使の力の差は、歴然としたけれど……与えた力を目の当たりにした人は、其れを模倣してしまった。


 ああ、誰かが言っていた。

 覚えている。夢の水底で、私に吠えた、私の天使――――。


" ――王よ!貴方は矛盾している!争いをしてはならぬと言いながら、貴方は率先して争いを引き起こすではないか!陛下が人に武器を持たせぬのは、人が貴方に矛を向けるのを恐れているから、違うかッ!? "


「アザゼル……」


 投げ打つ剣が撓る音。

 反射的に庇う右腕の前に繰り出される白金の魔法陣。


「も、もう……!」


 震えた喉を触りながら私は、この場で微笑む選択をした。


「本気は、本番で出してね!」


「――スワード!貴様、……何のつもりですか!」


 静寂を切り裂く怒声が響き渡る。私を含めた数人の肩が上がり、皆声を荒げたシリウスに注目した。

 対してスワードは、髪を掻き上げる仕草をすると汗が伝う顎を拭い息を一つ吐いた。答えない。

 シリウスは折れたスワードの剣を素手で握り、スワードの目前に掲げた。


「答えてください、宮廷魔導士(スワード)。――この鈍(なまくら)で僕と一戦交える等、何のつもりですか」


 ――鈍?


 スワードは瞳を伏せた。シリウスは睨みつける。シリウスが口を開きかけたその時――スワードは、掴んだ剣を手放した。そのまま、くるりと背を向けると瞳だけをシリウスに寄越して言う。


「……確かに、グリームニルは宮廷魔導士。――……エリーシア、怪我はないか」


「えっ、あ、――はい。ない、です」


「そうか」


 橙の冷ややかな目に見つめられると、胸がざわつく。

 スワードは私の返事を聞くと頷いて、シリウスに背を向けたまま人ごみに道を作った。

 シリウスはその場で立ち尽くしながら、折れた刀身を握り締めて去り行くスワードを見ている。


「……」


 重い影だ。……シリウス、大丈夫だろうか。


「……陛下、エリーシア様」


「はい?」


 おずおずと私に声を掛けたのは、私の侍女リアラだ。リアラが手招きをしているが、私はシリウスの元を離れていいのか思案する。


「急ぎの要件がございます。エリーシア様、こちらに」


「わかった」


 武錬場を出ると、すぐに木製の打音が聞こえて来た。扉を背に振り返る私にリアラは、


「稽古が再開したようですね」


 と微笑んだ。

 明日は――御前試合当日。良い雰囲気とは言えない状況になってしまって、私自身責任を感じている。そんな私に気付いたのか、歩きながらリアラはぽつりぽつりと話しだした。


「……いつものことではありませんか」


「――いつものこと?」


「ええ……いつの時代も、盾と剣は本当に仲が悪い」


 立ち止まって、振り返る。

 そうだったか―――そうだったのだろう。ああ、そんな気がしてきた。いや、そうだった。

 でも――「そうだ、ね」


 定着した。


「剣は、王の心を注がれ動くもの。盾は、王に想いを注いで動くもの。全てが真反対に位置するのですから、競い合うのも無理はありませんね」


「でも――――」


 遠ざかる剣の音。沈んでいく夕日に、目を細めながら私は思う。


「どちらも、私の力だ。どちらも、失くせない……仲良くしてほしいなぁ」


 リアラはくすりと笑った。私もくすりと笑った。

 前を行くリアラの顔も見えないが、私は後ろからリアラを見つめていた。

 彼女も私の力――私の竜なのだから。


「あ、リアラ!所で急用って何?」


「それなのですが――エリーシア様」


 リアラが立ち止まる先、放たれた扉の向う。

 私は、机に置かれた紙束の……タワーというか山というか……を目にして、苦笑いを浮かべて後ずさる。ゆっくりと振り向くリアラの笑顔が怖すぎて、私は「へへ」という声が漏れた。無論、無意識に!


「執務は如何なされたのですか!何一つ片付いておりません!」


 そりゃあ――そうなんだけど。

 リアラの奥の用紙の山を見ても、一番上はやはり白一色……のようにしか見えない。目を細めた私に溜息を吐いたリアラは、私の背後に回り背をぐいぐいと押した。


「しょ、しょうがないんだもん!だって、この紙、全部真っ白で――」


「そんな言い訳は通用しません!だって、これは、全て、このリアラが準備したのですからね!」


 リアラが運んでくれた?この白紙だらけの山を?

 椅子へと座らされた私は、紙の天上を伺い見ることは出来ない。真横で再び溜息を吐いたリアラが、一枚手に取り目をとおす。その様子を見上げていた私へ目を移すと、リアラは目尻を和らげた。私の目前の僅かな机のスペース。そこへその一枚を裏返しに置くと、くるりと引っくり返した。


「……陛下。どうでしょう?」


「…………ええ、と」


 裏面が目に入った私は冷や汗と共に身体が固まった。


「……10枚くらい、取ってもらっても……良いですかね」


「――ええ」


 渡された紙を高速で私は捲る捲る捲る捲る捲る捲る捲る捲る捲る捲ること10回!心臓がその度に動きを加速していく!!あれあれあれ?おっかしいなぁ~‼


「全部……書いてあるし……」


「――ええそうですとも!陛下!騎士堂へは何の為に訪れになったのですか!?あんなに昨日『明日は書類全部片づけるから。リアラ、明日のわたしは新しいわたしよ。今日のわたしとは違うのよ』っておっしゃったのに!」


「そ、そんなの知らないし!っていうか、そんなこと言ってる暇じゃないし!どうしよう!もう今日が終わっちゃう!」


 次から次へと書類を見ていくと、やだ泣きたいほどに明日には、御前試合が始まるまでには各部署に届ける許可申請書が数多に溜まっているではないか!

 もはや目をとおす暇もない。ざっと目は通すが、特に目に留まらない限りこの印を振り下ろす腕を止めてはならないと直感が告げている!


「リアラ!夕食はここに運んで!明日の朝には絶対間に合わせる!今日はもう寝ない!わかった!?」


「かしこまりまして。陛下、この列から片づけ下さい。優先順位が高いものから低いものへと並び替えておきました。しかし……陛下、これを」


「え!?ちょっと今止まりたくないんだけど……!?」


 判決の槌を悪逆の音で振り落すかの如く叩く私の視界に、数枚の紙が差し出された。滲んでもいない汗を拭きとると、私はその懇願書……に目をとおした。


「――王都結界への、不可解な接触……?」


 リアラは神妙な面持ちで頷いた。私は読み進めていく。


「……戦乙女(ワルキューレ)の……」


「――出動要請です。……私は、陛下が騎士堂へお越しになったのはこの事かと思っていました……」


「……ごほん。王都結界……は、別に傷ついてる気配はないし、その……戦乙女(ワルキューレ)?を出さなくてもいいんじゃないかな……リアラはどう思う?」


「俄然、許可を頂きたく存じます」


 返答が早い。なるほど、この言葉の重さで些細事では無いことがわかる。

 しかし――何故?私には、今一事の重要性が腑に落ちない……。戦乙女……ワルキューレ。


「……わかった。許可します」


 玉璽を降ろす一瞬、手が震えた。

 リアラはその様子を見届けると、頷いて胸に手を当て深く頭を下げた。


「――感謝を。戦乙女(ワルキューレ)の使い方は既に心得ております。何もご心配はいりません。――では、エリーシア陛下!」


「は、はいっ」


 満足げに口角を上げリアラは部屋を後にしようと背を向け――ずに言葉を発した。背筋が伸びた私は敬礼でもしそうな勢いで返事をする。


「……御夕食を、お持ち致しますので……」


「――はい!きちんとお仕事します!」


「ええ。お願い致します」


 ――ぱたり、と扉は閉じられた。

 ふへええええ、と椅子に伸びている場合ではなぁい!!

 飛び起き玉璽をきちんと握り、……うんもう一回しっかりと握り締め、私は左腕の右腕の絶妙なセッションを奏でることに勤しんだ。要は、リズムなのだ。右腕が軽快に押す二種類の音と、スピードを見極めながら紙を排出していく左腕とのコラボレーションなのだ。


「終わる、終わる、終わらせて見せる!」







 月が昇り影が消え、夕食を載せたお皿が空になって久しい夜更け頃。その部屋に、紙切れの乾いた音は響かない。

 山は大方崩れた。少しだけ――少しだけ、と閉じた瞳の向こう側。久しぶりに感じた、疲労という名のゆるやかな誘いに身を任せる心地よさは私を奥へ奥へと連れて行く。

 落ちた腕、沈む頬。




 進む先の――その場所で、ある男と私は出会う。



 夢の中の確かな輪郭と、夢の中で二人だけ。


 男は、私の訪れに気付くと頬杖をつき伏せた瞳を上げ、口角を――悪戯が好きな男の子ですと主張するように上げた。


「よぉ、一日目だな」

世間はお盆。お盆の水遊びは危険ですので、十分注意して下さいね。

にしても暑いなぁ~~。

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