後日談 レムとイリス
「ねぇ、レム……だめだよ。ここ、入ったらダメっておじさんに言われてるじゃない」
「平気、平気! それより見てみろよ、これ」
レムと呼ばれた少年は、ガラクタの山の中から、キラキラと光を反射する透明なガラス板を引っぱり出した。
「何か入ってる。なんだろう、この線」
「ほら、見て」
少女が覗き込む。
「うん、すごくきれい……なんだろう、これ? 窓ガラスにしては、ちょっと小さいよね」
ガラス板を少女に手渡すと、少年はもう次のものに興味を移していた。
薄暗い倉庫の奥へと足を進めていく。
やがて彼は、ホコリをかぶったシートで覆われた、大きな箱のようなものを見つけた。
「なんだこれ?」
レムがシートを掴み、一気に引き剥がす。
箱の側面には消えかかったヘタクソな文字で、『Lattice』と書かれていた。
「なんだこれ? ボッコボコじゃん」
少女が箱の文字をたどるように読む。
「ら……てぃす?」
「え、すげぇ! イリス、読めるのかよ!」
興奮したレムは、そのまま箱の側面をゴンゴンと足で蹴飛ばした。
その瞬間――。
――プシュッ。
エアが抜ける音とともに、箱の蓋が突然跳ね上がった。
蓄積されていた大量のホコリが宙へと舞い上がる。
「うわっ!?」
「ゲホッ、ゲホッ……!」
二人は咳き込みながら、手で必死にホコリを払いのけた。
やがて視界が晴れていく。
少年と少女は、恐る恐る箱の中を覗き込んだ。
「うわっ!」「キャッ!」
そこには、人の形をした何かが、小さく丸まって座り込んでいた。
しばらくじっと観察し、それが全く動かないロボットだと分かると、2人は安堵の息を吐いた。
「なんだよ、ロボットだぜ。壊れてらぁ」
そう言って、レムはロボットの丸い頭をペシペシと叩く。
「壊れたから、捨てられちゃったのかな?」
「だろうな。お父さんでも直せなかったんだろ」
その時――。
――ピッ。
小さな電子音が響いた。
二人が顔を見合わせる。
次の瞬間、静止していたロボットが、ゆっくりと立ち上がった。
「うわっ!?」「きゃあ!」
二人は慌てて後ずさった。
ロボットは両腕を斜めにピンと上げ、独特なポーズを決めた。
<サプラァーーイズ……あれ?>
レムはイリスをかばうように背後へ押し込みながら、ロボットに向かって叫んだ。
「お前は誰だ! 敵か!?」
<?>
ロボットは首を傾げた。
<私はTOS規格、恒星間探査船に搭載された汎用作業ロボットです>
<ところで……あなた方は?>
レムは身構えながら、恐る恐る答えた。
「お、おれはレム……レム・アーキライトだ!」
少女も、おどおどしながら小さな声で続ける。
「私は……イリス……」
<レムに、イリス……>
ロボットはレンズの焦点を合わせ、2人を交互に見つめた。
<アーキライトはともかく、本船から送り出された入植者データの中に、あなた方の記録は存在しません>
<もしかして……現地発生した原住民の人類ですか?>
「何言ってんだ、こいつ!? 変なマユゲしやがって!」
「ねぇ、レムぅ……怒られるよ。早く行こうよぉ」
ロボットは周囲を見回した。
<アーサー? イブ? お二人はどこですか?>
レムは警戒感を強めながら尋ねた。
「お前……なんで父さんと母さんの名前を知ってるんだ!? 何者だ!」
<私、ですか?>
ロボットは一瞬だけ動作を止め――胸のランプを温かな橙色に点灯させた。
<私の名前は――>




