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禁じられた破壊魔法使いの私は、呪われた辺境公爵へ嫁がされましたが、私には何が呪いなのかよくわかりません。  作者: 秋名はる
第一章:呪い解除編

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歓迎されない出迎え

手持ちの小さな鞄を抱えて汽車を降りると、頬に刺すような冷たい風が吹きつけた。

行き交う人々は皆、肩をすぼめて分厚いコートの襟を立て、うつむきがちに足を早める。


けれど、その中で私はただひとり、これまで知らなかった新鮮な空気に思わず目を見開いていた。

あたりには小雪がちらついている。寒々しい景色であることは確かだ。それでも、私は生まれて初めて見る北の地の様子に、少しだけ心が踊った。


「エポワール男爵家のご令嬢、フェンネル様でいらっしゃいますね。」


突然背後から声をかけられ、振り返る。

そこには枯淡な顔つきをした初老の男性が立っていた。


「私はハイデルベルク公爵家の執事にございます。

お嬢様をお迎えに参りました。どうぞこちらへ。馬車を用意しております。」


そう言うと、彼は私の荷物を抱え、先導して歩き出す。私はその背に従い、公爵家の馬車へと乗り込んだ。


屋敷へ向かう道中、私は窓から街並みと景色を眺めた。噂どおり、この地はどこまでも寒々しい。季節は夏の終わりだというのに、遠くの山々は雪に覆われ、白く輝いている。駅前の小さな町を抜ければ、あとは枯れた草木が広がる痩せた大地。


今まで暮らしていた王都タウンとはまるで違う光景。

やがて道が開け、視界の先に目的の城が姿を現した。


「ここが……公爵のお屋敷ですか。」


「はい。こちらが公爵様と、これからお嬢様が暮らすお屋敷にございます。」


私は思わず息をのんだ。

先日滞在したエドワード伯の屋敷とは比べ物にならない。広大な庭園にまるで王宮のような巨大な城がそびえていた。呆然と眺めているうちに、馬車は門をくぐり、屋敷の入口へと到着する。


執事は、私を馬車から下ろすのを手伝うと、玄関口で私が羽織っていた分厚いコートを引き取った。

玄関エントランスには、使用人たちが揃って私を出迎えている。


「旦那様は只今ご外出中にて、屋敷を留守にしております。

お嬢様におかれましては、公爵様がお戻りになるまで、こちらでお待ちいただきますよう申し使っております。」


「公爵様は……どちらに行かれているのですか?」


屋敷の主である、公爵にすぐ引き合わされるものと思っていた私は、思わず問い返した。


「はい、旦那様は所用にて郊外の街へ視察に出向いております。」


執事は簡潔に答え、再び歩き出す。

私は彼に導かれるまま上階へ上がり、客間のひとつへと案内された。


部屋に通されたあと、私はひとりで遅い夕食を取った。

食事は質素なものと期待していなかったが、さすがは公爵家。見慣れぬ果物や野菜、この地方特有の獣の肉など、どれも一級品の食材ばかりで、口に含めば、思わず舌鼓を打ってしまうほどの美味しさだった。


* * *


食事を取り終えて部屋に戻ると、私は一気に疲れが出てきた。

傍にあった寝台に腰掛けていると、女中メイドが私の着替えや、湯浴みを手伝ってくれた。


知らない土地、知らない人々に囲まれ、緊張が続いたせいかもしれない。

身支度を済ませて、今日は早めに寝室に入ろうとしたとき___。


側仕えをしていたメイド達数人が、部屋のドアの外にある廊下の片隅で、小声で話し込んでいるのが耳に入った。


「また……旦那様のもとへ、不憫な花嫁がやって来ましたわね」


「これで一体、何人目かしら。今回も長くは持たないでしょうね」


「今までだって何人も縁談の話はあったけれど、旦那様の恐ろしさに耐えきれず逃げ出してしまう。

 行方不明になったまま戻らない方も多いというのに」


「……恐ろしいこと。」


メイドたちの世間話とはかけ離れた、恐ろしい会話の内容に、私は思わずドアの内側に忍び寄って、耳をそば立てる。


「今回も、本当は姉妹のうち治癒魔法を持つ方を花嫁にと望まれたそうですのよ。

 けれど、その方にはすでに婚約者がいたとか。だから仕方なく、何の力も持たない姉のほうが嫁いできたのですって」


「まあ……。もし妹御だったら、公爵様にかけられた呪いを解くことができたかもしれないのに。」


「全く、期待外れですわね。」


私は息をのんだ。

どうやら公爵には、本当に何らかの呪いがあるらしい。そして、ここでも私はまったく期待も歓迎もされていないということを知ってしまった。


私はショックを隠しきれなかったが、考えてみれば当然だ。

忌まわしい力を持ち、役立つこともできずに厄介払いされた娘が、公爵家に釣り合うはずもない。

とはいえ、そんな私でも縁談を却下されることはなかったから、取り急ぎ向こうも了承しているのは事実ではある。


しかしこの分ではここでの婚約生活も、どこまで続くか_。期待していなかったとはいえ、私は少しだけ落胆した。


それにしても……公爵にかけられた呪いとは、一体どんなものなのだろう。

考え事をしながら寝室に潜り込んでいたら、いつの間にかうとうとと寝入ってしまった。


* * *


翌朝、空は広く澄んで晴れ渡っていた。

庭には涼やかな秋の風が吹き、心地よい冷気が頬を撫でる。昨日は夕暮れ時に到着したので、寒々しい景色に圧倒されていたが、今日は爽やかに晴れて澄み渡っていて、窓辺から見える森の青々とした木の葉も美しい。


初日ということもあり、緊張して眠れるか不安だったけれど、意外とぐっすりだったようで、初めての異国の地なのに気分も落ち着いていた。


* * *


朝食を済ませると、暇を持て余した私は屋敷の周囲を散策してみることにした。

ただ、窓の外から覗く庭の景色は広大すぎて、とても一日では回りきれそうもない。


よって、私はまず屋敷の中を探検してみることにした。

ここに済むことになるのだから、屋敷内の何がどこにあるかくらいは把握して置かなければならない。


食堂を後にして廊下に出ると、先が見えないほどの長い廊下が続いている。

赤い絨毯を敷かれた石畳の廊下、彫刻を施した柱や、豪華なアーチ状の天井など。全てが規格外で、私は呆気に取られてしまった。


1Fから廊下の端から端までを歩いて周り、ふと回廊の外に目を向けると、屋敷の中央に豪奢な中庭が広がっているのが見えた。


青々とした芝が一面に敷かれたそこには、美しく選定された樹木や、薔薇の生け垣が立ち並んでいる。人気はなく、長らく誰も使われている様子はないのに、その庭は隅々まで完璧に整備されて、美しい景観を維持していた。


私は興味を惹かれて、夢中で庭の奥へと進んでいった。

色とりどりの薔薇の花を眺めながら、気の向くまま奥深くへと入っていくと、気がつけば来た道を見失って迷子になってしまう。さほど広い敷地とは思わなかったのに、周囲を見渡せばどこを見ても似たような景色ばかりで、戻る道がわからない。


(――どうしよう。)


周りには人影らしいものはあるはずもなく、右往左往して歩き回っていた時

_不意に背後から聞き慣れない声が響いた。

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