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禁じられた破壊魔法使いの私は、呪われた辺境公爵へ嫁がされましたが、私には何が呪いなのかよくわかりません。  作者: 秋名はる
第一章:呪い解除編

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北の地へ

翌日。


私はどうしてもユリウスに「辺境の地へ向かうのは思いとどまってほしい」と伝えるため、朝早くに部屋を出て彼を探しに行った。


あれから一晩考えて、いくつかの案を思いついたのだ。たとえば、ユリウスが持っている“呪いの石”を私が預かれないだろうか、とか。


あるいは、魔物のはびこる地に赴いたとしても討伐には向かわず、まずは敵の様子を探るだけにして、もし太刀打ちできないと判断すれば、王都に援軍を求めることだってできるはずだと。余計なお節介かもしれない。けれど、彼自身をこれ以上危険に晒す必要なんてない。


一直線に彼の部屋の前まで行き、勢い込んで彼の部屋の戸を叩く。だが――中から返事はなかった。扉を開けると、部屋はもぬけの殻。


(……えっ? もう? いくらなんでも早すぎじゃ……)


呆然と立ち尽くしていると、様子に気づいた執事のアルフレッドが静かに声をかけてきた。


「旦那様は、早朝に発たれてしまわれました。

 使用人たちのお見送りもなしに……皆に心配をかけまいと思われたのでしょう。」


「そんな……でもそれでは、あまりにも……」


「_旦那様にとっても今回がいかに危険な公務であるか、ご自身が一番よくご存じなのでしょう。

 私も、引き止めたい思いで胸が張り裂けそうでした。

 けれど――使用人として、旦那様の背中を見送ることが、私の務めでございますから。」


アルフレッドは、涙が迸んばかりの表情で呟いた。


「今からでも追いかけられませんか?

 私も、ユリウス様には今回の遠征を思いとどまってほしいんです。」


「……もう、お手遅れでしょう。」


そういったきり、アルフレッドは踵を返して去っていってしまった。

* * *


仕方なく私はその場を離れ、屋敷の一階へ降りていった。すると、廊下の先で洗濯籠を抱えたメイドたちが、ひそひそと噂をしているのが耳に入った。


「旦那様、あの魔物を討伐しに行かれたそうよ。

 北の地の民を長年苦しめてきた“災厄”なんですって。」


「今回ばかりは……さすがの旦那様も無事には戻れないんじゃないかしら。」


メイドたちも話は聞かされていたのだろう。一様に不安げな表情で顔を見合わせる。


「_でも、旦那様がいなくなれば、私たちも“あの呪い”に怯えずに済むんじゃない?」


「た、たしかに。」


_まるで、厄介払いができたと言いたげな口ぶりだった。


「あなたたち……!

 他でもない屋敷の主人に向かって、なんてことを言うのですか!

 彼は、皆さんのために命を懸けて戦地へ向かわれたというのに!」


咄嗟に口を挟んでしまい、気づけば私は声を荒げていた。

振り返ったメイドたちは、ぎょっとした顔で立ち尽くした。


「お、お許しください……お嬢様。」


慌ててそう言い残すと、彼女たちは籠を抱えたままそそくさと廊下の奥へ消えていった。

私はしばらくその場に立ち尽くし、唇をかみしめる。


(……やっぱり。彼を一人にはしておけないわ。)


* * *


勢いのまま、私は屋敷を飛び出した。


屋敷の裏手――馬小屋の方まで駆けていくと、そこには以前、私を町まで連れて行ってくれた御者の男性がいて、飼い馬の手入れをしていた。


「すみません、急用ができて。

 今から馬車を出してもらえませんか。」


息を整える間もなく、私は切羽詰まった声で言った。


「え、今からですか? いいですが……どちらまで行かれるのでしょう?」


「北の辺境の地まで。

 旦那様を追いかけていただきたいのです。」


「えぇっ!? 北の辺境ですか!

 そんな、今からじゃとても無理ですよ。ここからだと丸一日はかかります。」


慌てて言い直す御者に、私は一歩踏み出して言い返した。


「でも、行っていただかなくては困るのです」


私が食い下がると、御者は困惑したように眉をひそめた。


「そんなに急いで……一体どうなさったんですか?」


勢い込んで言ったものの、私はここで返答に詰まった。


「え、ええと……旦那様が忘れ物をされたのです。

 すぐに届けなければいけません。」


自分でも苦しい言い訳だと思った。

だが、本当のことを言っても、きっと止められるだけと思い、押し切る。


「それは……お嬢様が行かなくても、使用人が早馬で追えば済むのでは?」


「確かに……そうなのですが、私が行かなくてはならないのです。

 彼を一人にはさせておけません。」


私の必死の形相に、御者はしばらく言葉を失った。

やがて、苦い顔をして小さくつぶやいた。


「……お嬢様が行かれたら、危険が及ぶかもしれませんよ。

 それを旦那様が望むでしょうか。」


私の能力のことを知っている御者は、なんとなく察しがついたようで

不安げに私を見つめていた。


「それでも、ここで黙って見ているわけにはいかないのです。

 なんとか……お願いできませんか?」


「彼を説得して連れ戻せれば、それでいいのです。

 私を送り届けたら、あなたはすぐに引き返して構いません。」


御者は深くため息をつき、腕を組んで考え込んだ。

しばらく沈黙が続いたあと、ようやく折れたように頷く。


「……分かりました。

 すぐに準備します。でもどうか、くれぐれもお気をつけて。」


そう言って、すぐに出立の支度を整え始めた。

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