17話
洞窟の外は先ほどまでの赤黒く重々しい雰囲気の夕暮れから姿を変え、オレンジの光が眩しい明るい夕日が森を照らしていた。
「お母さんのところにはどうやって行けばいいの?」
そうやって不思議そうに嘉内を見上げた子供に対し、嘉内や安心させるような優しげな笑みを浮かべる。
「そうだね、じゃあおじさんとお兄ちゃんとでかごめかごめしないかい? ちょっと人数少ないんだけど」
「やりたい! 村では普段やるなって村長に怒られてたんだ〜。あ、けど大雨の時にはやらせてくれたんだよ? なんでだろ?」
嘉内は幼子の返答で、うっすらと生贄がどのように選ばれたのかを悟った。大人たちが自分たちでは生贄を選べないという苦悩と、子供達の遊びを利用する残酷さをまざまざと見せつけられたようで苦い気持ちになる。
「そっか、じゃあ最後に遊んでお別れにしよう。おじさんが鬼をやるから、お兄さんと二人でぐるぐる回ってくれないかな?」
「いいよ! それでお母さんのところに帰れるの?」
「そうだよ。あ、もし居ればさっき言ってくれたお友達も一緒に遊ぼうか。どこにい
るか教えてくれる?」
嘉内がそれとなく、香那ちゃんの居場所を探る。どんな状態かだけでも先に見ておきたかった。幼子はわかった! と元気よく声をあげると、あっちだよ! と先ほどの洞窟のあたりを指差した。
先ほど洞窟から出てきた時にはいなかったはずの香那ちゃんが、いつの間にか洞窟のすぐ前で横たわっていた。
麻倉がすぐさま駆け寄り、香那ちゃんの呼吸と脈を確かめる。どちらも問題なかったようで、嘉内に視線を送り静かに頷いた。
やはり一度、禍津神になりかけただけあって、幼子がはかなり強力な力を持っているようだ。今は敵意もなく、浄化を望んでる状況だからいいが、これがまた一転してしまったら。そう考えると嘉内はうっすらと背筋が寒くなるのを感じた。
麻倉にだき抱えられ、連れてこられた香那ちゃんの顔を幼子は一生懸命に背伸びして覗き込む。嘉内は麻倉にしゃがむように顎をしゃくると、嘉内の要望通りのそっと膝をついて幼子に見えるようにしてあげた。
香那ちゃんは幼子が言うように元気がない、青白い顔色をしてぐったりと目を瞑っていた。幼子は香那ちゃんの頬を両手で包み込み、優しく額を合わせる。
「おはよう、かなちゃん。起きて?」
そう声をかけられた香那ちゃんと幼子の間に、淡い光が灯り、静かに消える。香那ちゃんの頬に僅かに血色が戻り、ゆるりと閉じられていた瞳が開いた。
「ゆき、ちゃん……?」
「おはよ、かなちゃん。お迎えだよ」
「お迎え……?」
よく状況を理解できていない香那ちゃんは、ゆっくりと周りを見回して、知らない男の人にだき抱えられていることに気付く。
「あ、あの……」
「こんにちは、三科香那ちゃんだね? 僕らはお母さんに言われて君のお迎えに来たんだ。体調はどうかな?」
普段あまり動かない麻倉の表情筋だが、少しでも腕の中にいる少女を安心させるべく、できるだけ柔らかく笑って見えるように口角を上げて話しかける。そんな麻倉のぎこちなすぎる笑顔に、嘉内は笑いを堪えることができなかった。
「ふ、ふふっ、麻倉、あんま無理すんなよ、ははっ」
「嘉内さん黙っててください」
ぎこちない笑みを浮かべながら鋭く切り返す麻倉に、いよいよ耐えられなくなった嘉内が腹を抱えて笑い始める。そんな男二人のやり取りを見て、不安そうにしていた香那ちゃんは安心したように笑った。
「体調は、あんまりよくないですけど、お母さんのところに帰れるまで頑張れます」
しっかりとした言葉に、麻倉はほっと一息つく。怖い思いをした子は、その後精神に影響が及んでしまうことが多いが、香那ちゃんは大丈夫そうだ。神隠しの元凶とはいえ、幼子が彼女を怖がらせることなく交流を重ねてたのだろう。目覚めた時のやり取りを聞く限り、名前を教え合うほどには親密になったのだろう。
図らずも幼子、ゆきちゃんの名前が知れたところで、香那ちゃんにも協力してもらえるように、どうするかを説明した。ゆきちゃんをお母さんの元へ返す手助けをしてほしいと伝えれば、彼女は真剣な面持ちで二つ返事で頷いた。
「ゆきちゃん、ずっと帰りたいって言ってたんです。もう家族はいないけど、ここから帰りたいんだって。だからゆきちゃんがお母さんの所へ帰れるなら、協力します」
そう強い意志を目で伝えてくる香那ちゃんに、麻倉はそっと頭を撫でる。
「そっか。じゃあ協力お願いします」
真っ直ぐに瞳を見つめ返せば、香那ちゃんの頬は真っ赤に染まった。こくこくと首振り人形のように頷く香那ちゃんの頭を優しく数回撫でて、麻倉は彼女を地面に下ろした。
「初恋泥棒やってんじゃねぇぞ」
「何を訳のわかんないこと言ってるんですか」
嘉内が肘でつっつくも、麻倉は鬱陶しそうに払い除けた。




