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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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異国の少女

 真っ青な青空の下、美優は、一人、寮から学校への道を歩く。心地良いの光。暑くも寒くも無い、丁度良い天気だ。

 同じ敷地内といっても、十分程度歩かないと学校に着かない。それ位、広い敷地なのだ。

 登校初日という事もあって、一年生は十時からとなっている。

 今、学校に向かっている者は、皆、美優と同じ制服―つまり、同級生だ。



 朝、柊哉から、電話があった。用事が出来たので、先に学校へ行くと……

 そのせいで、一人で行く事になってしまった。


(初日、早々、一体何の用事があるというのかしら……)


 こんなに天気が良いのに、美優の心は、全然晴れない。

 心細さも、重なって、珍しく美優は不機嫌だった。

 浮かない表情で、トボトボと俯き、学校への一本道を歩いていた。



「如月さーん」


 後ろの方から、美優の名を呼ぶ声が耳に入る。女の子の声だ。

 美優には、同じ年頃の女の子には、知り合いがいない。


(誰?)


 不審に思い、立ち止まり振り返った。

 金髪のスラリとした少女が、こちらに向かって全速力で走り寄って来る。ポニーテールに結ばれた髪が、走る速度に呼応して揺れている。


「やっと……ハァ……追い付いたぁ……ハァ、ハァ」


 額に薄ら汗を掻き、息を切らせ、苦しそうに右手で胸を押さえた。

 彫りの深い目鼻立ち、青い瞳に金髪、色白の異国の少女。


 訝しげな表情で、少女の様子を伺った。


「やだ、そんな目で見ないで。別に怪しい者じゃないから」


 流暢な日本語で、そう言って、ケラケラ楽しそうに笑う。物怖じしない性格のようである。


「す、すみません。あの、どちら様ですか?」


 美優は、少女に謝り、遠慮がちに尋ねた。心臓がバクバクする。見知らぬ人と一人で話すのは、初めてだった。


「こっちこそ、驚かしてごめんね。私、野田エミリ。昨日、如月さんの直ぐ隣に座ってたんだけど、覚えてないかなぁ?」


(隣……)


 エミリと名乗った少女の顔を凝視する。

 無駄だと思いつつも、何とか思い出そうと試みる。

 だが、やはり覚えていない。


(こんなに目立つ方が、隣にいらっしゃったのに……)


 美優は、歯噛みした。

 緊張と体調不良、それだけで、いっぱいいっぱいだったのだ。


「あの、すみません……覚えてなくて……」


 美優は、申し訳なさそうに謝る。


「いいの、いいの」


 慌てたように、胸の前で、小さく手を振るエミリ。


「こっちこそ、ごめんね。具合悪かったんだもん、それどころじゃないよね」


 そう言って、ニッコリ微笑んだ。

 美優は、ホッとした。

 どうやら、気分を害してはないようだ。


「Dクラスで、入寮してる女子は、私と如月さんと大谷真生おおやまおさんの三人だけなんだ。だから、同じ寮生同志仲良くしようね」


「あっ、はい」


 エミリの勢いに乗せられ返事を返す。


 それにしても、エミリは、日本語が上手い。日本人と比べても、全然遜色がない。美優は、思った事を口に出した。


「日本語、お上手ですね」


 エミリは、その言葉を聞いて、くすりと笑う。


「生まれてすぐに日本こっちに来たからね。それに、これでもアメリカ人と日本人のハーフなんだよ」

 どっから、どう見てもアメリカ人にしか、見えないエミリが言う。


(なんだか、彼女にも色々ありそう)


 どちらともなく、二人は、肩を並べ学校への道のりを歩き出す。あんまり、のんびりしていると遅刻してしまいそうだ。




 頭上から、桜の花びらが、時折舞落ちる。まるで、ピンクの雪が降りそそぐように――


 一枚の花びらが、ヒラヒラと舞、美優の髪先に、留まった。花びらの可愛らしさに、自然と口元が綻む。

 花びらを取ろうと、視線を右に映す。瞳の端に、白い花びらが舞落ちるのが見えた。


(白い花びら……本物の雪のように見える……って言うか、本物?!)


 思わず、二度見する。


(今は、春……なのに雪?)


 美優は、目が点になった。


「如月さん、四季の庭だよ。昨日、見なかったの?」


美優の驚きぶりに、驚いたエミリが言った。


(昨日は、ここ通らなかったから)


 瞬間移動ドアで寮まで、言った事を思い出す。あんまり、突っ込まれると説明するのが大変だと思い


「うん、ううん……」


 肯定とも否定とも取れる返事を返す。

 体調が悪くて、それ所では、なかったのだろうと、勝手に解釈をしたエミリが教えてくれる。


「左側が春で、その先が夏、道を挟んだ向側が秋で、手前が冬。それで四季の庭」


 春の陽気に雪、変な感じだ。

 降り積もる雪の中、小学生らしき男の子が、大きな瞳で、ジーッとこちらを見ているのに気が付いた。


(何で、小学生が?)


「あんな所に、男の子が……」


 そう言って、美優は、視線をエミリに移した。

 怪訝そうに、エミリは、冬の庭を見る。


「男の子? 何処に?」


「あそこです」


 先程、男の子が立っていた辺りを指差す。


「……あれっ……?」


 男の子の姿は、無い。

 美優は、我が目を疑った。ゴシゴシと二、三度、目を擦る。やはり、いない。


「いくら何でも、小学生は、ここにはいないわよ。一応、高校だしね。何か見間違えたんじゃないの」


(見間違え、だったのかなぁ?)


 美優は、首を捻った。



 少し進むと、エミリの言う通り、夏と秋の庭が見えた。

 こちらも、やはり違和感を感じた。



「一つ、お聞きして宜しいですか?」


「なぁに? 私に答えられる事なら、何でも答えるよ」


 美優は、先程から、ずーっと不思議に思っていた事を尋ねた。


「どうして、私の名前を知ってらっしゃるんですか?」


「十二名家の一つ、如月家の箱入りのお嬢様が入学するって、皆、入学前から騒いでたから……」


 ポニーテールに結んだ髪を揺らしながら、此方を向いた。の光がエミリの金髪に当たりキラキラ反射している。


「十二名家って?」


 美優の言葉に、エミリが目を剥いた。次の瞬間、弾けるように笑いだす。


「如月さん、自分の事なのに、知らないの?」


 美優は、顔を赤く染める。

 笑い過ぎて苦しそうに、ヒーヒーと息を吐くエミリ。何とか、笑いを止めて、説明してくれる。


「十二名家っていうのは、強い魔力を持つ一族達の事。皆、陰暦の名を持ち、十二名家以外は、月に関する名は、付けれない。勿論、魔力を持たない者もね。魔法界に於いて名家は、絶対の存在。その一族によって、それぞれ得意魔法が違う。名家内で、それぞれ睨みを利かせあい、独裁者を出さぬよう、今のところは、バランスを保っている。この学校にも、名家の一員は多いみたい。Dクラスは、如月さんともう一人師走しわすさんだけだけどね」


 一気にエミリは、話した。


(十二名家……初めて、そんな話を聞いた。何故、今まで、誰も教えてくれなかったのだろうか……イヤ、私自身が魔法に関わらないようにしてたからか)


 目線を落とし、ゆっくり首を左右に振った。


「まぁ、これから、色々知っていけばいいんじゃない。その為の学校なんだから」


 美優は、前向きなエミリが、眩しかった。


「有名人と同じクラスで、鼻が高い」


 そう言って、エミリは、微笑んだ。


「有名、私が?」


 人差し指を顎に当て、自分を指差した。


「そうよ、皆の注目の的。今まで、人前に姿を見せなかった、絶世の美女と名高い、如月家のお嬢様が、入学してくるんだもの。まぁ、私も顔と名前が一致したのは、昨日なんだけどね」


(絶世の美女!! 何処から、そんなデマが)


 思わず頭を抱えてしまう。


「でも、当たらずしも、遠からずよね。美女というか、美少女だけどね」


 エミリは、パチりと此方にウィンクする。


「そ、そんな事ないです」


 プルプルと大きくかぶりを振り否定した。頭を振り過ぎて目眩を覚えるほどに――


「男の子達、皆、騒いでたよ。ほら、今だって……」


 エミリが、そっと視線を移した。同じ制服を来た三人組の男の子が、慌てたように視線を逸らす。


(野田さんを見てたんじゃ?)


 エミリの青い瞳と金髪は、とても綺麗で人目を引く。


「でも、残念よね」


 美優の考えに気が付かないエミリが言う。


「えっ、何がですか?」


 意味ありげに、ニンマリ笑う。何を言おうとしているのか、見当も付かない。


「だって、彼氏持ちじゃ、諦めるしかないもんね」


「彼氏?」


 美優は、キョトンとした。


「えっ、違うの?」


 今度は、エミリが驚いた顔をする。

 「違うの?」と言われても、誰の事を言っているのか、分からない。


「一緒に来た人、彼氏じゃないの?」


(一緒って……)


 直ぐに、誰の事を言っているか気付いた。


「ち、違います」


 ブンブンと音がしそうな程、首を横に振る。内心、彼氏に間違われて嬉しかったのだが。


「本当に?? 如月さんが倒れた時、心配そうに、何度も名前を呼んでた。それで、貴女が如月さんって知ったの。皆も、あの時、貴女の名前を知ったと思う。で、先生が、保険室に運ぼうとしたら、自分が運ぶって、凄く大切そうに抱き上げたから、てっきり……」


(大切そうに……)


 頬がかっと熱くなる。両手で頬を挟むように押さえる。頬の火照りを抑えるように――


「本当に違います」


「なんだ違うのか……まぁ、それはそれで、楽しくなりそうだけれど」


 エミリは、一人事のように呟く。その声は、一人思案する美優には、届かなかった。


(抱き上げるって事は……)


 赤から青へ一瞬にして、顔色を変える。まるで、信号機のように――


(もっと、ダイエットしておけば良かったぁ)


と、後悔していた。



「美優、まだ具合悪い?」


 突然、話しかけられ、ビクリと肩を震わす。

 いつの間にか、学校に着いていた。玄関前で、待っていた柊哉が声を掛けて来た。

 美優の青い顔を見て勘違いしたようだ。


「大丈夫です。昨日は、ご迷惑をおかけして、すみませんでした。……あの……腰は、大丈夫でしょうか?」


 シドロモドロに尋ねた。


「腰?」


 柊哉は、左手で腰の辺りをを擦りながら、不思議そうな顔をした。

 何故、腰を心配されているのか、分からないようだ。そして、隣にいるエミリに気が付き納得した表情。


「あぁ、彼女に訊いたの?」


 コクりと頷きながら、答える。


「はい、保健室まで、運んで頂いたって……重かったですよね?」


 足下に目線を落とす。

 恥ずかしくて、顔が見られない。優しい笑みを浮かべ、柊哉が答える。


「重くないよ。逆に軽過ぎて、驚いたくらいさ。もっと、しっかり食べないと」


「はい」


 二人が話していると、ツンツンと右腕を突かれる。エミリが、目で何かを訴え掛けて来る。どうやら、紹介して欲しいようだ。


「あっ、ごめんなさい。此方は、湊柊哉さんです。私の元家庭教師です」


「……湊柊哉……」


 エミリがポツリと呟く。

 何か考えているようだ。


「で、こちらが」


 美優は、エミリに向き直り、紹介しようと口を開きかけた。


「野田エミリです」


 ずぃっと一歩前に出て、割り込むように自己紹介する。


「如月さん達と同じクラスで、寮生です。湊さんって、学校創立以来、初の筆記試験満点だった湊さん?」


「えっ!! 満点!!」


 目を真ん丸くし、思わず大きな声を上げた。柊哉は、困ったようにポリポリと頬を掻く。


「偶々ね」


(さすがは、柊哉さん)


 美優は、瞳をキラキラさせ、憧れの眼差しを向ける。本来、柊哉は、Dクラスになるレベルではない。

 あの力を使えば、Aクラス、イヤ、間違いなく学校一だ。

 柊哉は、美優の為にDクラスになったのだ。多分、美優の為に、魔法学校へ通う事を決めたように――


(ごめんなさい、柊哉さん)


 心の中で、柊哉に謝った。


「野田さんは、色々な事を知ってらっしゃるんですね」


 何気なく、思った事を美優は口に出した。

 クラスメイトの名前は、ともかく他人の成績など、非公開になっている。一生徒がそんな事を知っているのは、おかしいのに、そんな事も美優は、気付かない。


「そ、そんな事ないよ。あっ、あの子、大谷さんだ。私、行って来るね」


 エミリは、後ろから歩いて来る黒髪のボブショートの女の子の方へ、逃げるように走り去った。

 柊哉は、鋭い視線で、その後ろ姿を見つめていた。


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