幸せのティアラ~190話~
「店 ほんとにやらないの?」
店長が残念な表情をした。
「すみません。せっかく声をかけていただいたのに。」
「角谷なら 絶対出来るって。やってみなよ。」
「ずっと考えてたんです。お話もらってから・・・・。
店を出すのは夢だったんです ついこの間までは……。
でも 何かが違うってずっと結論が出てこなくて……それでわかったんです。
私 幸せになりたいんです。」
「は?何言ってんの?」店長が目を丸くした。
「女として 家族が欲しいんです。
店長のように 家庭があって……何よりも大切な子供がいて…
私は小さい頃から 家族を知らずに育ってきました。
いつも孤独で 一人で…人をうらやんで生きてきたんです。」
「だけど…恋人が亡くなったんでしょ?」
「はい。彼が全てでした。
彼以外 私を幸せにできる人はいないと思ってました。
だけど…初めて 彼以外の男の人と一緒に未来を歩きたいって
思える人の存在に気付いたんです。」
「ってことは 角谷・・・・・。」店長が笑顔になった。
「あんた やっと立ち直ったの?」
「はい……。その人と…一緒に生きて行こうと決心しました。」
店長は私を抱きしめた。
「よかった。あんたが一人で生きて行くと思ったから
この話進めたんだけど…そう言う人ができたんだったら 話は別だよ。
幸せになりな。全てから手が離れてからでも遅くないよ。
また夢をみればいい。」
「店長・・・・。ありがとうございます。」
店を出ると 睦月が立っていた。
「あら どうしたの?」
「いや ちょっと心配だったから 店長何て?」
「幸せになりなさいって。」
「よかった。」
正式にプロポーズを受けた足で 店の出店の話を断りにきた。
「みんな驚くな。俺がやっと幸をゲットしたって。」
「うん。出発は明日なんだから 準備とかいいの?」
「便はあさっての夜に変更した。
幸を一緒に連れて行くから。忙しくなるぞ。」
「そんな急がなくても・・・・。」
睦月は私の手をとって
「気持ちが変わらないように 連れて行く。
幸を一人にはしたくないから。」
私には何も持ち物もなかった。
「幸 一人それだけでついて来い。」
一瞬 小さかった睦月がよぎって吹き出した。
「俺 今 台詞決まったとこだろ?何で笑う?」
「ほら 下着全部イヤだって言って 裸でいなさいって言ったんだよ。」
「何それ?俺 おぼえてないし~~。って
幸 俺の全てを見たのか?」
「うふふ・・・見た見たきゃわいいの見た~~。」
「やめろ~~マジでやめろよ~~。
もう すんげー立派なんだからな 見て驚くなよ。」
と言った睦月と目が合って 気まずくなった。
「や~~~バカだね 睦月~~~。」
「あはは・・・はは・・・。」
照れる睦月 可愛い・・・・・・。
縁って不思議だね。
私の中での睦月は 卑屈な病弱な 子供だった。
ぐれた時も お子様だから なんて思わず笑ってしまっていたけど
睦月は 大人になりたかったんだね。
いつからだろう
私の中で 子供だった睦月が 大人の男になったのは・・・・・。
あの死を覚悟した夜
本当は 死ぬのが怖かった・・・・・。
睦月が そんな私を助けてくれた。
力いっぱい抱きしめてくれた時・・・・・私は変わったのかもしれない。
「おじさまやおばさまも 驚くでしょうね。」
「いや 喜ぶって。
俺が幸を好きなのは 知ってたからね。」
「知らないのは 私だけ?」
「だよ。幸は圭くんのことしか見てなかったから・・・・・。
仕方がないよ。」
「なんだかごめんね。」
睦月が私の前髪をかきわけて 額にキスをした。
「俺はあの 切ない片想いがあったからこそ 成長できたと思ってる。
そして幸に男として 認めてもらえたって思ってるから
今はすげーいい思い出になってるよ。
心を伝えることだけが正解ではなかった。
圭くんを失ったのは 辛いけど・・・・・でもそれは運命で
俺が幸を幸せにするってことが 決まってたんだって思うだけで
しっかりしないとって 身が引き締まるよ。」
「私 幸せだね 睦月・・・・・。」
「これからも幸せだって。」
その夜 私は 初めて圭以外の 男の人に愛された。
睦月に愛されて 私はすぐに女になった・・・・・・。
圭 これでよかったんだよね・・・・・。
抱かれながらそう問う・・・・・。
幸せだって思えるこの気持ちは 正解なんだよね。
「愛してるよ 幸・・・・・。」
「私もよ 睦月・・・・・・。」
今度こそきっと 幸せになれるよね・・・・。
幸っていう名前の通り 幸せに・・・・・・・・・。
圭が私の心の氷を溶かしてくれた・・・・・。
憎しみ恨み そんな人生から解放された時 人には優しさが生まれる・・・・。
人を愛する心 いとおしむ心
私と板垣の家にあったその呪縛はもう 優しい絆に変わっていた。
おばは 私の手をとり
「ありがとう ありがとう 。」そう言い続けた。
祝福されて幸せになれることのありがたさを実感した。
私は 何も持たずに 身一つだけで
睦月と一緒に福岡へ旅立った。
「昨日さ 夢に圭くんが出てきたよ。」
「何か言ってた?」
「笑ってた。」
「よかった・・・・・・。」
睦月の肩に頭を乗せた。
私の王子さまは 天国できっと見ていてくれる・・・・・。
幸が世界一 幸せになれますようにと・・・・・・・・。