狼とハサミに御用心?
「さて、と」
おじぎを終えたハルミはスタンドマイクを手に取ると、ふたたびストッパーをゆるめて手早くマイクの高さを調節した。
それからさとみの後を追って、舞台そでに向かって小走りにもどって行く。
入れかわるようにして、
「どうも―!極太エースと申します―!」
と拍手をしながら舞台に現われる、ショッキング・ピンクのスーツを着た伽美亜とコバルトブルーのスーツを着た闘龍風。
「いやー、今日のお客さんは……」
と、あいさつをしながらマイクの高さの調節をはじめた伽美亜の顔が、
「え……?」
つぎの瞬間、凍りついた。
あきらかに自分たちよりも背の低い「さとみ・はるみ」が使った後のマイク。
その高さが、自分たち双子の兄弟たちのアゴ下十センチの位置に、ぴったりと合っていたからだった。
それに気がついた弟の闘龍風も、
「あ……」
ポカンと口を開けて固まっている。
自分たちよりも明らかに背が低いコンビのすぐ後の出演である。
きっと舞台に出た後にマイクの高さを自分たちのアゴ下まで上げるイメージ・トレーニングをしながら、出番を待っていたのだろう。
なまじ舞台に慣れていたせいで、出鼻をくじかれてしまったらしい。
「えーと……」
完全にリズムをくずして、立ちつくしている双子の兄弟。
その様子を舞台そでからながめながら、
「ほんっと、気が利くわよねえ、あんたって」
と、笑いをかみ殺すさとみに、
「でしょ?」
と、ハルミは片目をつぶって見せた。
☆ ☆ ☆
もしも土曜日と日曜日にしか開いていないお店を見つけたら、用心したほうがいい。
入り口に狼とハサミの紋章のついた看板が掛けられていたら、なおさらだ。
うかつに扉を開いたら、とんでもない冒険に巻きこまれてしまうかもしれないよ?
〈完〉




