見る者によって変わる服
「和服?」
その服をひと目見たものは、誰もがそう思っただろう。
色合いは、前回さとみが着ていたのと同じ明るめのピンク。
ただし今回は紫色で染めあげられた、羽織りのような上着をはおっている。
遠くから見ると、それはたしかにピンクの着物に紫色の帯をしめて、その上から紫色の羽織をはおっているように見えただろう。
ただし近づいて見てみると、気がつくはずだ。
それがワンピースタイプのドレスの上に、ローブと呼ばれるゆったりとした上着を重ねた、洋服すがたであることに。
今から一世紀まえの一九二〇年。
男性から見た女性の理想像を体現するために、ギュウギュウと胴体を締めつけていたコルセット。
それがファッションの表舞台から消えていくのと同じころ。
女性の服に動きやすさや心地よさを求め始めた時代のフランスで流行した、ジャポニズムと呼ばれる和服と洋服の特ちょうを合わせたドレスである。
ドレスの襟もとから裾に向かって、縦方向に入ったドレープ。
その上に帯のような幅のひろいベルトを巻きつけてウエストを絞りこむことで、着物を着ているように見せると同時に体をスリムに見せている。
羽織っているローブの襟も、下に着ているドレスの生地が縦に長いアルファベットのIのかたちに見えるようにデザインされており、ここにも体がスリムに見える工夫がされている。
けれども、
「なんだ、洋服だったのか」
と、安心するのはまだ早い。
さらに近づいてよく見れば、ドレスの生地に入った波うつような縦縞の柄が、「立涌模様」という日本古来の模様だと気がつくはずだ。
生地のピンクも「一斤染め」と呼ばれる、和服で使われるうすい赤紫である。
その上にはおっているローブの色も葡萄鼠と呼ばれる濃い赤紫で、生地にも「枝梅模様」という和服の柄が染め抜かれている。
「では、和服なのか?」
と、さらに近づいて見てみると、ワンピースの生地がジョーゼットという、これも今から百年ほど前から使われはじめた洋服の素材だと気がつくはずだ。
ローブの生地もよく見れば、表面に細かいシワが浮き出したクレープと呼ばれる洋服の生地でできている。
はじめに遠いところから見たときには、着物に羽織の和服すがた。
けれども近づいて見た時には、ローブをまとった洋服すがた。
しかし、さらに近づいて見れば、その上には和服の模様が。
さらに、さらに近づけば、その下には洋服の生地が―
「いかかでしょう、この服は」
半年に一回、ほてい神社の境内で行われる「ほてい町アマチュア漫才コンテスト」。
おなじ楽屋で出番を待つ「アゲアゲ☆極太エース」の伽美亜と闘龍風に向かって、にこやかな表情でさとみがたずねた。
「時代おくれのデザインですし、色も前回と同じ膨張色なんですけど」
そのすがたを見た伽美亜と闘龍風は、
「……」
と、言葉を失ってしまった。
その服を見る者と、着ている者との距離。
あるいは生地やデザインに対する知識しだいで、和服に見えたり洋服に見えたりする服。
それがジャポニズムのワンピースをヒントにしてウォルフィがデザインした、ファッションにうるさい人をだまらせる服だった。




