表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/61

異世界のファッションショーにご招待

 そして、数日後。


「ウォルフィ!」

 はごろも荘の玄関に飛び込んだハルミは、ウォルフィの部屋をめざして階段を()けあがった。


「商店街の会長のマダム華子が、レンタルスペースでお直しの店を出さないかって!」


 レンタルスペースとは、お店が入っていないカラッポの建物や部屋を、商店街以外の人たちに貸し出して商売をしてもらう場所のことである。

 商店街に空きスペースができるのを(ふせ)ぐために、あいている場所を貸し出したり、借りてくれる人を探すのも世話役(せわやく)たちの仕事なのだ。


「九丁目だからちょっと人通りは少ないけど、一階にあるし、なかなかいい物件(ぶっけん)だよ。もしよかったら……」


 と、バタンと音を立てて、部屋の扉を開けた時だった。

 そこには、


「そ、その格好(かっこう)は……」

 ウォルフィのすがたを見たハルミは、絶句した。


 白い着物に白い帯。

 足元には白い足袋(たび)

 いわゆる白装束(しろしょうぞく)すがたである。


 ただし、体じゅうにはお(きょう)らしい文字が、(すみ)でびっしりと書かれていた……

 

「見えるのか?俺の姿が」

 と、床に正座をして不思議そうな顔でふりかえったウォルフィに、


「見えるわいっ!」

 と絶叫するハルミ。

「っていうかなんでそんな格好してるのよ!?」


「おかしいなあ、ニッポン人が誰にも邪魔されないように部屋に引きこもる時のスタイルだと聞いたんだが」

 と、肌に書かれたお経の文字を、しげしげと眺めるウォルフィに、


「いやいやいや!それってもの凄く限定された人向けのこもり方だから!

 っていうか、その姿が見えないのは人間じゃないから!」

 と、ブンブンと風切り音を立てて首を横に振ったハルミは、


「あれ、お客さま?」

 部屋の中に、一人の紳士が正座をしていることに気がついた。

年齢(ねんれい)は、六十才ぐらいだろうか。

 真っ白な(かみ)口髭(くちひげ)に、(わし)の口ばしのような(とが)った鉤鼻(かぎばな)

 落ち着いたスーツの着こなしには、髪の毛ひとすじの(すき)もない。


「ムムム、それにしても、これはまた……」

 床に置かれたスケッチブックをのぞき込んでいた紳士が、うなり声をあげた。

「これだけ伸びる生地となると、天然素材では難しいでしょう。

 なにしろ、発表会まであと一週間しかありませんからな。

 すべてを超特急で手配しないと……」

 

 そこで老紳士は言葉を切ると、スケッチブックに落としていた視線をハルミに向けた。


「おお!」

 みるみるうちに笑顔になっていく、紳士の顔。


「なるほど、この方がお父様のおっしゃっていた……」


「ちがうって言ってるだろ!?」

 すり切れたタタミの上に、お経がびっしり書かれた(こぶし)をドンとウォルフィが(たた)きつけた。


「何度も言ってるだろう、ヴィンセント。ハルミは、あくまでも友人だ!」


「べつに(かく)すこともないでしょう。

 ウォルフィさんぐらいのお年でしたら、ガールフレンドの一人や二人」

 と、ニコニコと笑みを浮かべるヴィンセントと呼ばれた老紳士。


「だから違うって!」


「あっはっはは!分かりました分かりました!

 ハルミさまは、あくまで出店のパートナーでしたね」


「あ、あの、さっきからなんのことを……」

 わけがわからないと言った表情で二人を見くらべるハルミに、


「これはこれは、ごあいさつが遅れて申し訳ございませんでした」

 床から立ちあがった老紳士が、ハルミの前で腰を折った。


「はじめまして、瀬戸内ハルミさま。私、デュエマ()執事(しつじ)(つと)めております、ヴィンセント・ヴィンセンテイと申します。

 以後(いご)、お見知りおきを」


 し、執事?


「このたびはウォルフィさんがお店を出すにあたって事業主(じぎょうぬし)としてご協力いただき、誠にありがとうございました。

 そのお礼として、当家で行われるファッション・ショーに、ハルミさまをご招待させて頂きたくやって参りました」


「なんだって!」

 おどろきを隠せないといった表情でウォルフィが立ちあがった。

「ハルミをカンパネアに連れていく?正気か?」


「ご存じでしょう、ウォルフィさん。

 当家と取り引きのある事業主さまは、もれなくショーに招待するというしきたりがあることを」

 いきりたつウォルフィに向かって、顔色を変えずにヴィンセントさんが言った。


「ハルミさまは事業主の代表だとうかがっております。お呼びしないわけには参りません」


「で、本音は?」

 老紳士にウォルフィが()()った。

「父さんは、本当は何て言ってたんだ?」


 ウォルフィの問いかけにヴィンセントさんはコホンと(せき)ばらいをひとつずると、

息子(むすこ)の彼女、チョー見てぇ!」

 と、声色(こわいろ)を作って言った。


「あのクソオヤジいいいいい!」

 と、お経がビッシリ書き込まれた腕で髪を()きむしるウォルフィをそっちのけにして、


「というわけで、ハルミさま。今週の金曜日ですが、お(むか)えにうかがってもよろしいでしょうか」

 と、うやうやしく(たず)ねてくるヴィンセントさん。


 そして、ハルミは知ることになる。


 目の前にいる二人の人物が、どこからやってきたのかを。


 ウォルフィが、ウォルフガング・カンパネロ・デュエマという少年が、本当は何者かということを―


〈第一章・完〉


 次章より、異世界カンパネア編、スタート!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ