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第64話 『縛られたままの自由』

ギルドへの報告を終え、メイカは夜のピエイの街をあてもなく歩いていた。


「国家資産、ですか……」


守られている……?

今さら、そんな美辞麗句で塗り替えるつもりですか。


値札を付けられたこともある。

私の所有者が変わるたびに、扱いだって変わった。


……昔と違うのは、鎖が見えなくなっただけ。


「……進歩したものですね。今は尊重されていますし、多少の発言権もある」


……だが、自由ではない。


「まあ、自由も逃げもありませんが」

 


国宝職人を辞すというのは、ギルドの庇護を失い、国家管理の枠から外れることを意味する。

それは同時に、他国による囲い込み、あるいは拉致の対象になるということだ。


空間魔法は、非合法勢力にとって喉から手が出るほど欲しい魔法だ。


……そして、それを誰よりも理解している自分がいる。

 




「弱いですね、私も」




視界が、にじむ……呼吸がうまくできない。


……泣くな。

……泣くな、私。


噛み締めた奥歯が軋む……それでも、堪えきれず涙がひとつこぼれた。


その時だった。


「よっ」


間の抜けた声が、メイカの真正面から聞こえてきた。


視線を上げると、そこに立っていたのは、風呂上がりでまだ湯気の残る髪をタオルで拭きながら、片手に紙袋をぶら下げた俺だった。


「……宿に戻ったのでは?」


「戻ったよ。風呂入ってさ、腹減ってたから屋台で適当に買ってきた」

 

紙袋を軽く持ち上げて見せながら続ける。


「なんか美味そうでさ。つい気になってよ。てか、この街って夜になると毎回こんな感じなのか? 屋台めっちゃ出てんじゃん」


紙袋から漂うチーズの香ばしい匂いに、思わず喉がごくりと鳴った。


……何も食べていないことを、今さら思い出すメイカ。


「で、なんでそんな顔してんだ?」


「そんな顔とは?」


「まあ、変な顔」


目元がわずかに緩んでいるな。呼吸も僅かだが浅い、視線の切り方が不自然だが……ああいうのは、無理に感情を抑え込んでる時の顔だ。


……泣きそう、なのか?


だが、そこまで言うのは野暮だな、ギルドで何かあったのかもしれないが今は踏み込まない方がいいだろう。


「……まあいいや」


俺の問いに、メイカはわずかに視線を逸らした。


「気のせいです」


「そうか」


俺はそれ以上追及しなかった。

隠したがってる相手に踏み込むのは下策だ。聞き出せても、得れる情報は大抵ろくでもないしな。

 

代わりに、紙袋をそのままぽん、とメイカの手に押し付けた。


「旨いもん食ったら、大体なんとかなるぜ?」


「……根拠は?」


「ない。けどまあ、いいだろ? こういうのは、無理に考えねぇほうが楽な時もあるぞ? ほら、食っとけ。ちょっとはマシになるからよ」


メイカは手の中の温もりを見つめた。


「……あなたは」


「ん?」


「どうして、そういう時だけ妙に優しいのですか」


メイカがふっとわずかに笑みをこぼしたが、それを見た俺は「は?」と間の抜けた顔をした。

 

……いや、そんなこと言われる覚えはないし、そもそもメイカとまともに関わったのは今回の迷宮がほぼ初めてだ。


だが、メイカの視線はどこか俺じゃない誰かを見ているようで――まあ、さっきまでの張り詰めた空気が少し緩んだ気もするし、いいか。


そして、はっとしたように現実へ引き戻されるメイカ。


「あっ……すみません……」


「おう……呼び出し、面倒だったか?」


「ええ」


「そっか」


それ以上は聞かない。

メイカには触れちゃいけない話がある、何度か踏みかけてもう分かってるし、ここは軽く話を変えておくか。


「なあ、せっかくだし工房ちょっと見せてくれよ。国宝職人の工房ってやつをさ」


「……却下です」


「何でだよ」


「散らかっています」


「ええ? 整理師なのに?」


「私にも、見られたくない場所はあります」


ほんのわずかに、長い耳先が赤い。やっぱエルフってこういうとこ可愛いよな。


まあこの顔見りゃ散らかってるってのも本当なんだろうし、それ以上は踏み込まないでおこう……ていうか、何回俺に気を遣わせるんだよ。


無意識に地雷を避けてるあたり、昔の任務を思い出すな……深入りしない、余計なことは聞かない……癖みたいなもんだな。


「じゃあ、その辺のベンチで食うか」


石造りのベンチに並んで腰を下ろす。


「ほら、冷める前に食おうぜ」


「……慌てなくても逃げませんよ」


「いや、逃げるかもしれねぇだろ。俺の胃袋に」


俺の冗談に、メイカがふっと笑う。

まあ、流しただけかもしれないが……。


「それとさ。俺、まだこの……天命因子? とか魔法とか、よく分かってねぇんだよな……ちょっと教えてくれないか?」


「それは……あなたの問題ですが、まあいいでしょう」


「助かる。こういうの誰に聞けばいいか分かんなくてな」


「ふふっ」


本当は、ただの口実だ。ちょっとでも楽しい空気にしたかっただけだが――まあ、それも言わなくていい。


そして、さっきまで張り詰めていたものが、ゆっくりとほどけていくのが分かった。


……まあ、今はこういうのでいい。今の俺たちには、それで十分だ。


そして、今の私にとっても……それだけで、十分だった。

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