表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/63

第4話  『異世界でもビールが飲みたい』

目が覚めたのは昼過ぎだった。

窓の外から差し込む光が眩しくて、思わず目を細める。


寝ていたのは、木枠と藁でできた簡素なベッド。

とはいえ、ホームレス時代に段ボールを敷いて寝てた頃に比べりゃ、天国みたいなもんだ。


ゆっくりと上体を起こす。

全身がだるい。筋肉痛ってより、エネルギーを根こそぎ持っていかれた感じがする。

まあ、そりゃそうだ。アドレナリンだの魔法だの、慣れないことをやったんだから体に負担がないわけがない。


「……この身体のだるさも、生命魔法でどうにかならねぇのか? 確か、激しい運動のあとって筋肉に乳酸が溜まるんだったよな……」


口に出してみる。声にして確かめる方が、感覚がつかみやすい気がする。


ふくらはぎに意識を集中させる。

第二の心臓って呼ばれてる部分だ。

そこから血を巡らせ、溜まった乳酸を血で押し流すイメージ……。


すると、筋肉のだるさが消えていく感覚があった。

詰まりが取れたみたいに、血の流れが滑らかになっていく。


「……おぉ、なんか効いてる気がする」

思わず口角が上がる。こういう即効性があると、魔法って実感が湧くな。


そういえば……さっき、<アドレナリンサージ>って唱えたけど、魔法を使うには、詠唱が必須ってわけでもなさそうだ。

ただ、気持ちの入り方次第で魔法の効果も変わる気がする。

……まあ、言える時は言っておくに越したことはない。


それはそうと……なんか、いい匂いがしてきた。

肉が焼ける匂い……いや、これは燻製か? やけに香ばしい。


「あっ、起きました〜?」


リカの声と一緒に、視界に差し出されたのは簡素な皿。

その上には、こんがり焼けたベーコンと、湯気を立てるパンが乗っていた。


「おお……ベーコン! しかもこれ、自家製の燻製か!? うわっ、しかもこの照り具合……完璧じゃないか! 夢が広がるな!」


思わずテンションが上がる。スローライフってのは、こういうのでいいんだよ、こういうので。


リカがくすっと笑って、俺の隣に腰を下ろした。

「なんですか〜、さっきのあれは、筋肉魔法ですか?」


「筋肉魔法……まあ、そんなとこだな。魔法でアドレナリンを分泌させてみたんだ」


「オーバードーズして脳みその血管切れたら笑えないですよ……ほんとやめてくださいね、先輩」


「まあ、それは要調整ってとこだな」


あんなに俺をおもちゃみたいに振り回してたくせによく言うよ……と、心の中でぼやきながら、差し出された皿を受け取る。

焼きたてのベーコンにパン。香ばしい香りが食欲を刺激する。


……けど、やっぱり燻製といえばビールだろ。

ベーコンを噛みしめながら、ついそんな欲が湧いてくる。


「あれ? そういえばパンがあるってことは、昨日のあの畑? やっぱり小麦だったんだよな?」


「そうですよ〜。風魔法で麦の生育にちょうどいい温度に調整すれば、割と簡単に栽培できました」


「なるほど……」

と頷いた瞬間、ふとひらめいた。


「……なあリカ。発酵ってさ、生命活動の一部に入るよな?」


「理屈的には、そうですね?」


「じゃあ、俺の魔法でビール作れたりしないのかな?」


リカは一瞬、固まった。

そして、じわじわと引きつった笑みを浮かべる。


「……先輩、転生してまでアル中になるつもりですか?」


「いやいや! でもご褒美もないとさ! やってられねぇーじゃん!」


リカは呆れたようにため息をつき、やれやれと肩をすくめる。


「はぁ……まあ、紀元前三千年ごろにはシュメール人が自然発酵でビールを作ってたそうですし、理論上は可能だと思いますけど〜」


「おっ、マジか!」


「でも、カラハナソウがないので取りに行かないとダメですね」


カラハナソウ、いわゆるホップってやつだ。

ビールの香りや苦味、品質を保つには欠かせない。


「ここは標高二百メートルくらいありますから、林を少し歩けば見つかるかもしれません」


「そうか、なら探しに行くか……」


「では、私は麦を収穫しておきますね! ビールですかぁ〜……ふふっ、私、飲んだことないので少し楽しみです! 向こうの世界では未成年でしたし、ワインも焼酎も飲めなかったんですよ〜!」


リカは目をきらきら輝かせながら、ビールへの憧れを語りだす。

……このテンションのまま飲ませたら絶対悪酔いするやつだな。


「まあいい。俺もこの辺りの地形を見ておきたかったし、探検ついでにホップ探してくる」


「はーい! いってらっしゃい、せんぱいっ!」


「おう」


外に出ると、朝の風が頬を撫でた。

スーツ姿で林の中に入るのは違和感しかないが……まあ、今はそんなの関係ないだろ。





 


てくてく、てくてく。


歩き始めてから、もう十分くらい経っただろうか。

魔物って言っても、出てくるのはリスとかキツネとか……前の世界と大差ない。

こっちの姿を見るやいなや、みんな一目散に逃げていく。


「……まあ、平和でいいけどな」


ホップか……さて、どこにあるんだか。


鬱蒼とした林の中を進んでいると、ふと、低木の枝に赤い実がなっているのが目に入った。

さくらんぼみたいな見た目だ。


「これ……食えるのか?」


とりあえず観察眼を発動。


対象:ホップベリー

品質:標準

抗菌率:38%

発酵促進率:22%

効果:食べると血の巡りがよくなり、冷えに効く。


「……ホップ、ね」


案外すぐ見つかったが、それにしても……やはり最高ランクの観察眼は伊達じゃない。

品質とか名前だけじゃなく、欲しい情報まで自動で出してくれる。


一粒つまんで、口に放り込む。

……ん、ちょっと渋いな。

でも、飲み込んだ途端、体の芯がじんわり温まる。


「……こりゃ、血液の循環を促すタイプか……? 生命魔法との相性は良さそうだな。それにしても、こうやって素材の性質と魔法を組み合わせられれれば、かなり使い勝手が良くなりそうだ。治癒薬の素材にもなりそうだし……いや、今はやっぱりビールだな。どう考えても」


リカにこれもお願いして畑で育ててもらうか。

ビール用ホップ農園……うん、なんか夢があるな。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ