19. タヌキなのか?
ここ国境沿いの集落は、どちらかというとドワーフ族よりだということ。
もう純粋なドワーフは少なく、人族やエルフ族、あとハーフの人と結婚しているドワーフが大半だと話してくれた。
それによって背の高い者が多くなり見た目でわかりにくくなったと、カベルネたちにペクメズが教えている。
「まあエルフ族だけは、純粋なエルフ族を一族で代々守っているところがあるけどね。それは寿命が長いからしょうがないのさ。どこもいろいろ、たいへんなんだよ」
そこで、カベルネが反応して。
「そういえば、ひい爺ちゃん。サンジョ爺ちゃんの奥さんはもう死んでいないよな? ひい爺ちゃんは元気なのに、ひい婆ちゃんが死んでいるのは寿命の違いなのか?」
孫の質問にガメイがこたえていた。
「ああ、そうだ。ワシの母親は人族だったから寿命が短い。九十八歳で死んでしまった。父さん、サンジョ爺ちゃんはそれから、四百三十五年間ひとりだ」
サンジョの子どもガメイが、孫のカベルネに説明すると。
「うわーっ、それはサンジョ爺ちゃん……つらいな……」
おれも、そう思う。
竜人はツガイ、相手の寿命も引き上げるから寂しくないが、他の種族にはそれがない。
純粋なエルフなら千年は生きるし、ドワーフ族でも八百年は生きる。
人族は長くて百年……やっぱり、つらいだろう。
「んっ、なんともないぞ。ヴェーゼはワシの心の中にずっといる。子も残してくれた。カベルネ、おまえの目はヴェーゼに……そっくりじゃ。結婚してからの八十一年。知り合ってからだと、八十二年の間がワシのすべて。宝なんじゃ。ワシらはいつでも二人でひとつじゃ」
「そうだった……母さんはそう……よく父さんとのことを二人でひとつだと言っていたな……思い出したぞ……」
ガメイがうっすら目尻を光らせていた……
いろいろ話していたようだが、ペクメズが最後パールに教えている。
「パールさん。迷い人は『歴史の証人』と言われているんですよ。迷い人はエルフ族より長生きでしょ? だからあなたはこれから、エルフ族にもドワーフ族にも大切な友として扱われます」
大切な友……それはおれも知らなかったな。
「そうなのか? じゃあパールは、オレより長生きなのか?」
「たぶんね」
「そうじゃ、パール殿。カベルネの嫁にきますかな? 歳も近いし、気も合っているみたいじゃしな」
「「「それはない!!」」」
なんてことをガメイは言うんだ?!
わざとだな!?
そうだ、そうに決まっている……
おれと重なった言葉に、パールとカベルネがおどろいているじゃないか!
「カベルネ、きみはコウジュと仲がよかっただろ? だからパールとは、それはないね……」
ソードーっ! ありがとう!!
無理があるような気もするが、なんとかなったか……
おやっ?
カベルネの顔が赤いぞ……
「ソードさん、なにを急に言うんですか! そんなことないですよー」
「そうか。カベルネにはもう、おったのか……ホッホッホーッ!」
サンジョが良いタイミングで、つぶやいてくれた。
ガメイとサンジョは親子だからか、二人はタヌキなんだな……
ボケたふりをして? 核心をつくのがうまい。
ハァー、つかれた……
年寄りには、かなわない……
♢
今日も朝からおれたち四人とカベルネ兄弟に、その父親と祖父でもある村長ガメイの八人で、岩や石を片付けてまわっている。
ここらへんの家には、少しゴツゴツしてザラっとした丸い石が多い。
粉っぽいのか、持つと手についてしまう。
「このへんの石は、ガントの顔の大きさぐらいのモノが多いね!」
パールに言われて、笑いながら。
「ハッハッハ! おれの顔はこんなに大きいか?」
ソードも笑いながら、ガントの顔の大きさはこれぐらいあると言っていたので、おれも笑ってしまった。
「でも、パール。金の塊はこのぐらいが良いぞ」
ガントがカベルネたちに聞こえないように、コソッとパールに話している。
ガントの顔の大きさか、おれも見てみたいよ。
ソードは少しまじめ顔で……
「そうですね。これぐらいの大きさだと、持とうと思うと持ててしまい、量があるとお年寄りには少し腰にきますね」
その言葉にテラス付近で、椅子に座って見ていた年寄りが反応する。
「そうなんじゃ! はじめは良いが、段々と地味にくるんじゃよ」
んっ、今の話を聞いていた? 耳が良すぎだろ?
この爺さんもタヌキなのか?!
この村は……さすがだな……
「じゃあ、ここらへんの石も片付けてしまいましょうか?」
「おーっ! よろしく頼むよ」
パールは庭の端のほうによけてある石と家の横にある石も、すべて片付けてやっていた。
村人たちがよろこんでいる。
どの家も同じような感じだな?
持つと手が汚れるじゃまな石だ……
昼食後もサクサク進み、夜の宴会までだいぶ余裕ができたと思っていたら、カベルネがパールに何かお願いをしだした。
三、四歳の頃、大岩の間からチラッとみえる洞窟を見つけ中に入ろうとして岩に挟まれ動けず、大泣きして大勢の村人に迷惑をかけた場所があるそうだ。
なに?
その大岩をどかして洞窟の中がみたいと言っているのか?
そこはカベルネが挟まれてから危険区域になり、子どもの立ち入りが禁止になっていたようで、カベルネの父親がそこにまだ行っていたのかとカベルネを問い詰めている。
「違うって、行ってないよ……でも、忘れてもいない……中が、どうしても気になるんだ……」
おい! カベルネ。
めんどうそうなお願いをパールにするなっ!
んっ、まてよ?!
おまえ……
はじめから、これが狙いか!?
さすがは、ガメイの孫だな……
おまえもタヌキなのか?!
りっぱな知能犯、子ダヌキじゃないかっ!!
少し考えたような顔をした後、パールが話しだす。
「いいよ! カベルネ。その岩を一度どけて、中を見てみよう。危なそうなら、もっと隙間がないぐらいに置き直すよ。そうしたら、カベルネみたいな子どもがまたでてきても挟まれないし安心でしょ?」
あーっ、パール……
カベルネの思うつぼだな。
「ホントか! 行ってくれるのか! パールありがとう!」
こらっ! カベルネ!
またパールに触れる気か!
今度は、飛びつこうとしたのか?
……よし。
ギリギリ思い出したな。
よく踏みとどまった。
よほどうれしかったようだが。
しかし、パールは……チョロい。
みてみろ、ソードの顔を……
苦虫を噛み潰したような顔をしているぞ。
ガントは……
ガッハッハァーッ!!