殺意
「諦めろってなんでっ…!!イマジーネに行くのはスーマさんも賛成してたはずでしょ!?」
「それはそうだが…」
「スーマさんもこんな生活が嫌だからイマジーネを変えて欲しいんですよね!?だったら…」
熱くなってスーマさんを説得しようとするが、この人の表情は暗くなり続けている。
「なんで…いきなり…」
「お前とガルロの修行を見て、時期尚早だと判断した」
「勝手に決めないでください!!この俺のスキルでイマジーネを変える…」
「お前が死ぬと私も困るんだよ!!!!」
は…?死ぬ…???なんで俺がイマジーネに行くことで、勝手に死ぬって決めつけるんだよ…!
「…俺が死ぬってどういうことですか?」
「お前のスキルは自分が想像した物事を、そのまま現実に引き起こす力を持つ」
「…はい」
だから俺がノイタークを救うって思えばいいんだろ…?そうすれば現実に…
「だが、このスキルはそんな都合の良い物などではなく、1万年前と同じ…!!?!」
話の途中で何かに気を取られたスーマさんは、その方向に顔を向ける。
「まさか…!!」
「えっ…?」
ギリリと硬い歯を軋ませる音が、耳に響く。
「イマジーネめッ…!!!!」
ガタタッと音を立てて椅子を倒しながら、里の入口の方面に目を向けるスーマさん。
「ちょっとスーマさん!?」
「ジーニス、お前は自分の家で待機していろ!!」
また…!いつもいつもこの人は俺を除け者にして、今度は何だって言うんだよ!!
「まだ話は終わってない!!」
「いいから家で待機するんだ!!絶対に外に出るんじゃないぞ!!!!」
「あっ…!!」
ガチャッ!!
勢いよく扉を開け、外に飛び出て行ってしまう小さい背中を、俺は止められることが出来なかった。
「な、なんなんだよ…!!」
何が起きているのかわからず、自分の膝を叩く事しか出来ない俺に、情けなさが募っていく。
「あの人が何を隠したいか知らないけど…」
俺にはもう、スキルがあるんだ。
「知る権利くらい、俺にもある!!」
開けっぱなしにしているドア目掛け、俺は走る。
――――――――――――――――――――――――
木々に挟まれた里の入口に向かっていく途中で、誰かが既にそこに立っているのがスーマには見えた。
「スーマさん」
急いで里の入口へと走って来たスーマに、話しかける声。
「ガルロ!ジーアベルの家で呑んでたはず…」
ゆっくりとバリアの範囲外に顔を向け直すガルロに合わせ、スーマもその方向へと顔を向ける。
「…あんなに体を突き刺すような殺気が充満してたら、な」
だが、そう言うガルロが真っ直ぐに捉えていたのは、殺気を放つ兵士達などではなく…
「それに…俺がここに現れなきゃ筋が通らねえよな」
その目線が捉えていたのは、彼にとっては見覚えのある人影だった。
「なあ…?マーシャ…!!」
――――――――――――――――――――――――
「あっ…!!」
ドサッ…!
重りに足を取られ、転んでしまうマーシャ。歩こうにも右足が動かず、まともに歩けるはずもない。
「チィッ…!!」
鈍足な歩行にイラついたのか、マーシャの髪に手を伸ばしながら近付くギーラ。
「ああっ…ごめんなさいごめんなさいごめんなさ…!!」
ガシッ!!
「オラッ!!さっさと歩けよ虫がよォ!!」
「あ…あうぅ…」
金色の髪を掴み、疲労困憊のマーシャの顔に唾を飛ばしながらギーラは叫ぶ。
「てめえがさっさとしねえと、せっかくの好機を逃がしちまうだろうが!あぁっ!?」
ゴスッ!!
「うがっ…!!」
「結界が一部壊れたんだ、それを直すのにも奴さんは力を使ったはず…だから奴の力が戻る前に行くんだよぉ!!」
ベキッ!!
「ごふっ…」
汚れに塗れた頭を殴りつけ、髪を引っ張りながら隊列を戻す。
「早く歩け、ゴミ」
「う…ぁぁぁ…!」
痛みに昏倒しかけながらも、マーシャは再び右足が上手く動かないまま歩き始める。
「こ、こんな事…!間違っている!!」
腕に手枷を、足に鉄球を、そこ彼処に生傷を付けられたマーシャの悲惨な姿に、わなわなと震えながら声を出すイスィー。
「ま〜だ言ってんのかよ、隊長。こいつは『餌』だっつってんのに。お優しいイスィーさんはやはり違いますね〜?」
「だが、ここまでする事は…」
鋭い視線をイスィーに向けながら、言葉を制す。
「ここまでしなきゃ無理なんだよ、この任務は」
「任務のために痛めつける必要はあるのか!?」
「ハハッ!コイツの痛々しい姿を見せれば、ガルロの野郎も出てきてくれるだろうからなぁ!!」
「…ッ」
息を切らしながらも、右足の自由が効かないせいでアンバランスなまま歩く痛ましいマーシャに、イスィーは眉を顰める。
「…大丈夫か?」
手を差し伸べて言葉をかけようとするが…
「ひっ…!!」
反射的にその手を避けるマーシャ。
「ご、ごめんなさ…!!」
「いや、我は…!」
「そろそろ着きますよ〜、隊長」
ぶへへッと笑いながら、ギーラはマーシャを見る。
「しっかし、レベリア家も酷えよな。奴隷が使い物にならなくなった途端、廃棄処分を俺達に押し付けるなんてよ」
「廃棄処分…」
廃棄、という言葉をイスィーは頭の中で繰り返していた。
「まるで道具…このような非道を働いておいて、唯一神はどうお思いになる…?」
――――――――――――――――――――――――
「さあ、ここらへんだったはずだ。既にバリアを直したせいか、地形の把握が曖昧だがな」
「…」
イスィーは見窄らしい格好のマーシャから目を離さずにいた。
「おい餌、お前ちょっとここまで来い」
ギーラの声にビクッと体を跳ねらせながらも、頭を縦に振りながら近付いていくマーシャ。
「ぶふっ…!」
汚い笑い声と共に、その手には短剣を握っているギーラ。その異様な光景に、ずっとマーシャを見ていたイスィーが素早く気付く。
「おい…何を…!?」
ブシッ…!
「あっ…」
気付くのは素早けれど、ギーラの行動の方が早かった。
「ぶはははははははは!!!!」
マーシャの右手の人差し指を切り落とす方が、早かった。
「ぎゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
「いいぞぉ!!もっと叫べ、泣けェ!!」
短くなった指から血を吹き出しながら、マーシャの悲鳴が森にこだまする。
「何を…しているのだ…?貴様…」
無意識に得物に手を添えるイスィーに驚いたのか、動揺するギーラ。
「いやいや、待ってくれよ隊長!!これはガルロを誘き寄せるための…」
言葉を続けようとするギーラの声は何故か止まってしまう。
「ため…の…ぉ…???」
ギーラの喉を締め付けるほどの強い圧を感じ取り、イスィーはその圧が発生している地点に注視する。
「誰だ?」
イスィーは目を凝らし、遠くに人がいるのを確認する。
「…マーシャを」
遠くにいたはずの人が、ギーラの真横に一瞬のうちに現れ…
「離せ…!!!!」
ブチィィィッ!!
ギーラの右腕を吹き飛ばす。




