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25.思い描いていたはずの世界で


過去の経験が人格を形成する。

最高のプロローグから始まった筈の人生は、どこかおかしくて憎かった。


「ヘリオドール、わたくしの大切な宝石」


屋敷の令嬢は、どこか傲慢にそう言い放つ。


邪魔をする存在を真っ先に排除し、彼女のレールを綺麗に敷きなおした。

この世界に愛されなかった可哀想で心優しい少女はいない。


いるのは、傲慢で醜悪な少女だけ。


誰からも愛され、何もかもを享受した唯一無二の公爵令嬢はひとつの宝石に執着しなかった。

当然のように望み、当然のように与えられる。


「…この宝石ね、飽きてしまったの」

ポトリと、無邪気に捨てられた宝石に異常なまでの違和感と恐怖を感じた。


ああ、僕が愛していたのは不幸で孤高なアリシアお嬢様なんだ、と。


薄汚い牢屋の中でも、ボロボロの姿になったとしても、いつだって毅然として美しいお嬢様。

大切な宝石と僕を慈しんでくれた優しい神様。

痛ましくて可哀想でひとりぼっちで不憫で愛しい僕の唯一の御主人様。


生まれてきたばかりのダイヤに手をかけた。

嘯くだけのクロムを遠ざけた。

嘆くだけのパライバ・ジェダイトに忘れ形見を守らせた。

兄妹仲を取り持ち、隔てない愛情を注いだ。


社交界の華として咲き誇る美しい宝石に育てた。


全てが彼女の世界になるようにした。



そうして、気付いてしまった。

僕の愚かで愛しいお嬢様。


彼女に拾われ、救われた少年がこの世界にいないように、

気高くとも健気で儚い少女はいなくなってしまった。


それでも、お嬢様の幸せを願ったのも事実だ。

砂を食むように苦痛に耐えた。


埋もれるほどの宝石の山に彼女はため息をつく。

それが、どれほどの幸福か知りもしない。


少女が淑女になり、気高い貴婦人になったころ、ヘリオドールは思った。


この世界では、もう自分は必要ないだろうと。



漆黒の髪の隙間から漏れる黄金の瞳は、歪に笑っていた。

その手に掲げた刃の切っ先を己の首にあてがいながら。


お嬢様の唯一も僕だけであってほしい、そう願った。


何千回間違おうとも、()()()()()を幸せにしなければならない。

不幸せで不憫で寂しがり屋で歪んでしまっている、僕のアリシアお嬢様を。


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