肉に赤ワインは正義です!
「だから予算は潤沢にあるって言ってるじゃんか〜〜〜!」
簡易祭壇にしている机の下に突如積み上がった金貨の入った袋の山を見て、堪えきれずに吹き出した俺がそう叫ぶ。
ハスフェル達も揃って吹き出して大爆笑になってる。
「しかも、多かった前回より更に量が多くねえ、これ」
呆れたようにそう言って、とりあえず先にステーキのお皿を下げ、他のお皿も下げる。
「ご主人、これも預かってていいですか?」
アクアが机の前まで跳ね飛んできて、山積みになった金貨の袋を見て俺を振り返る。
「ええと、どうだろう。これも俺が持っておくべき?」
「そうだな、気にせずもらっておけ」
笑いながら立ち上がったオンハルトの爺さんが、山積みになった金貨にそっと手をかざした。
「渡りし良き手に幸いあれ」
また以前と同じ言葉を呟いてすぐに手を引っ込めた。
それからもう一回小さく吹き出して一番上の袋を一つ軽々と持ち上げた。
「おうおう。またしても贈れるギリギリ迄寄越しおったな。ではスライム達に持っていてもらえ」
軽く笑ってそう言われてしまい、結局前回にもやった今のおまじないみたいなのが何なのか教えてもらえなかったよ。
まあ、神様のする事だから何も考えずに有り難く頂いておけばいいんだろうけどさ。やっぱりちょっと気になるよ。
気持ちを切り替えるように軽く咳払いして、席についた。
「アクア、じゃあそれも前回預けてる金貨と一緒に預かっておいてくれるか。とにかく食事にしよう。せっかくの肉が冷めちゃうって」
俺の言葉に、我に返ったようにお皿を持ったシャムエル様がまたしてもステップを踏み始める。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
いつもよりもやや激しい横っ飛びステップ付きでシャムエル様が踊り始めると、当然のようにカリディアがすっ飛んできて隣に並んで一緒に踊り出す。
そのカリディアの手にも同じくらいの大きさのお皿があり、シャムエル様の動きに合わせて同じように真剣な顔で振り回してる。
カリディア。言っておくがそのダンスは全然神聖なものなんかじゃなくて、単なる食欲の塊だぞ。
しかし、カリディアはそれはそれは真剣な顔で必死になってシャムエル様のステップをコピーしている。しかもそれは単なるコピーでは無くて、時に交互にステップを踏みつつ競い合うようにして仲良く踊る二人のダンスを見て、俺はもう途中から笑いそうになるのを必死で堪えていた。
最後は揃って決めのポーズだ。
「お見事! それじゃあ半分こかな」
笑って拍手をしながらそう言ってやると、シャムエル様は嬉しそうに目を細めてぶんぶんと首がもげそうな勢いで頷き、俺にお皿を押し付けてきた。
「お願いします! たっぷりね!」
「はいはい、ちょっと待てって」
笑ってお皿を受け取り、まずはステーキを半分に切って大きい方を渡してやる。
「おにぎりは?」
温野菜とフライドポテトも半分取りながらそう聞いてやると、一瞬でお皿がもう一枚と小鉢も出てきた。
「ワインはここにお願いします!」
そして当然のようにいつものグラスが登場する。
「じゃあ半分こだな」
もう笑うしかなくて、半分に切ったステーキを食べやすいように切り分けてから、シャムエル様の目の前に置いてやった。
「おにぎりも半分こっと」
さすがにこれは俺一人では多すぎるので、適当に半分やや多めをお皿に並べてやる。
「最後はこれだな。ええと、開けていいのか?」
さっきもらったワインはまだ封をしたままだ。
「ああ、まだ開けてなかったな」
振り返ってそう尋ねると、ハスフェルがコルク抜きを手にして左手を差し出すので一旦ワインを返した。
手早く封をしていた蝋を掻き落として、簡単にコルクを抜く。
ううん、あれも普通は力一杯抜かないとそう簡単には抜けない筈なんだけどなあ。でもまあ、ここは無駄に鍛えた筋肉に活躍してもらう場面だよな。
「はいどうぞ。なんだ、まだ残ってるじゃないか」
俺のグラスを見たハスフェルの言葉に、慌てて残りのワインを飲み干す。
「お願いします」
俺のグラスとシャムエル様の小さなグラスにも、封を開けたばかりの新酒のワインを入れてもらう。
「では、改めていただきます!」
改めて手を合わせてから、半分になったステーキを一切れ切って口に入れた。
「ううん、やぱり熟成肉は美味しいねえ。柔らかさが全然違う」
そして思った。肉に赤ワイン、これは正義だ。
それに、即席で作った赤ワインと玉ねぎのソースも絶品。
俺が無言で感動しつつ肉を食っている横では、シャムエル様が逆に大興奮状態で両手で鷲掴みにした肉に齧り付いていた。
いつもの三倍サイズに膨れた尻尾をこっそり突っつきつつ、俺も豪華な夕食を堪能したのだった。
「ううん、それにしてもこのワインは美味いなあ。あとでもう少し分けてもらおう」
既に何本目なのかわからないワインの封を開けながらの嬉しそうなハスフェルの声を聞きつつ、机に突っ伏している俺も同意するように頷いているけど、もう既に半分意識がどこかにお出かけしてしまっている状態だ。
「ほら、新しいのが開いたぞ」
「おう、もらうもらう……」
起き上がってグラスに注いでもらい、一気に飲み干したところまでは覚えている。
誰かの笑う声と、ふわふわの何かが俺の頬を叩くのを感じつつ、俺は気持ちよく眠りの海へ墜落して行ったのだった。