肉を焼くぞ!
「さて、今日は肉を焼くぞ〜〜!」
ギルドマスターと別れて宿泊所に戻った俺達は、当然のようにそのまま俺の部屋に集合した。
従魔達は好きに寛いでるし、ハスフェル達もソファーと椅子に座って早速赤ワインなんか取り出してる。
「おおい、お前らだけずるいぞ。俺にも赤ワインくれよ」
コンロとフライパンの準備をしながら笑って文句を言うと、ハスフェルが大きなワイングラスに並々と赤ワインを入れて持って来てくれた。嬉しいけど、その量はちょっと入れすぎだと思うぞ。
「ヴァイトンからの届け物だ。バイゼンで一番人気のワイナリーの今年の新酒だそうだ」
おお、なんて言うんだっけ。秋に開ける今年の新酒。そうそう、ヴォーレヌーヴォ! あれ……ちょっと違うか?
ワインはあまり興味がなかったので自分からは進んで飲まなかったし、ヴォーレなんとかも毎年ニュースになってるなあ、くらいにしか覚えていない。
だけどこっちの世界では、俺もたまにはワインも飲むようになった。
小さく笑ってどう見ても入れ過ぎな量のワインが入ったグラスを持ち、笑顔で高々と掲げる。
「バイゼンでも拠点になる、お城購入を祝って、カンパ〜イ!」
「カンパ〜イ!」
三人も笑ってグラスを高々と掲げる。
「うおお、めっちゃ香りが良くて美味いじゃんか。へえ、さすがは新酒。いつも飲んでるのと全然違うな」
一口飲んで揃って笑顔になる。
「こんな美味い酒があるなら、張り切って美味しいお肉焼いちゃうもんね」
そう言って取り出したのは、グラスランドブラウンブルの熟成肉だ。しかも部位は最高級のサーロイン! やや赤身だが、しっかり脂身の部分もあって、これがもう美味いのなんの。
って事で、ガッツリ分厚く切り分けて包丁の背で軽く叩いて筋を切る。
「ここに肉用のスパイスをたっぷり〜〜」
両面にしっかりと岩塩とスパイスを振ったところでコンロに火をつける。フライパンにはたっぷりの牛脂を入れておく。
「ええと、付け合わせはフライドポテトと温野菜があればいいな。後は師匠の惣菜を少し出しておけばいいか」
って事で、サクラに頼んで付け合わせを色々出してもらい、これはいつものごとく各自で用意してもらう。
「その間に肉を焼くぞ〜〜!」
熱して綺麗に牛脂が溶け出したフライパンに、先程切った肉を乗せていく。
「ううん、この香ばしい音と香り!」
一気に立ち上る油の焦げる良い匂い。
「うああ、腹減った!」
ハスフェル達も、その香りに悶絶してる。
「最高級の熟成肉の厚切りを焼きながら、立ったままで今年初の赤ワインを自堕落に飲む。ううん、なんだか贅沢でいい感じだ」
そう呟きながらまた赤ワインを飲む。口当たりが軽くて美味しいから、グイグイといくらでも飲めそうだ。
「なあ、そのワインってまだあるのか?」
「もちろん。それが無くなったら次を開けるぞ。別のワイナリーの新酒もあるからな」
嬉々としてまたラベルの違う瓶を取り出すハスフェルを見て、俺は堪える間も無く吹き出した。
「そりゃあ楽しみだな。いや、そうじゃなくてさ。赤ワインのソースを作ろうかと思ったんだけど、それを使うのは勿体無いかな?」
「ああ、そう言う意味か。構わないぞ。じゃあこれを使ってくれ」
そう言って、かなり中身の減った瓶を渡してくれる。
「もったいない気もするけど、まあ食べたら一緒だよな。じゃあこれを使わせてもらうよ」
小さめの鍋を取り出してそこに赤ワインを全部入れる。
「これは中火にかけて煮詰めますよっと」
分厚いステーキは、焼くのにちょっと時間がかかるから、その間に即席ソースも作ってしまうぞ。
「誰か玉ねぎのすりおろし作ってくれるか」
赤ワインの入った鍋をゆすり、フライパンのお肉をトングで掴んで順にひっくり返していく。よしよし、いい感じの焼き目がついたぞ。
「はあい! やりま〜〜す!」
即座にサクラとアクアがすっ飛んできてくっつき、机の上に転がっていた玉ねぎを一瞬で飲み込んだ。
「ニンニクも一欠片でいいからすりおろしておいてくれるか」
「はあい!」
アルファがすっ飛んできて、ニンニクを一欠片引っ剥がして飲み込んだ。
「赤ワインが沸騰したら、ちょっと煮詰めてから蜂蜜とウスターソースを少々、砂糖もちょっとだけ入れるぞ」
今日のはやや甘めのなめらか玉ねぎソースだ。
「混ざったら、すりおろした玉ねぎとニンニクを入れてさらに煮込む。仕上げに黒胡椒とバターを一欠片落とせば完成だ」
手早く作った玉ねぎソースは、大きめのお椀にまとめて入れておく。
もう一回肉をひっくり返して、両面にしっかり焦げ目がついたらフライパンに蓋をする。それから火を止めて、ひとまずそのままにしておく。
俺も含めて全員が肉の焼き加減はしっかり火が通ってるのが好みだから、このまましばらく予熱で火を通すぞ。
「ええと、その間に俺の分を……ああ、ありがとうな。取ってくれたのか」
山盛りのフライドポテトと、まあまあの量の温野菜。それから俺の好みを考えてくれたらしい、わかめときゅうりの酢の物の小鉢が横に並べて置いてある。
そして、おにぎりが幾つも別のお皿にぎっしりと並んで置かれていた。
「おにぎりだけで腹一杯になるって。いくら何でも多過ぎだよ」
苦笑いしつつそう呟いたが、おにぎりの隣で大きなお皿を振り回してステップを踏んでいるシャムエル様を見て納得した。
半分は余裕でシャムエル様の分って事だな。まあ、それなら大丈夫か。
「そろそろいい感じかな。おおい、肉が焼けたぞ」
フライパンの蓋を開けて、持って来た三人のお皿にそれぞれ大きな肉を乗せてやる。
この厚みと巨大さ。いかにもステーキって感じだ。いいねえいいねえ。
最後に自分の分をお皿に乗せて、スライム達が用意してくれたいつもの簡易祭壇にステーキのお皿を乗せる。おにぎりと小鉢も並べ、ハスフェルからまだ開けていない新酒の赤ワインをもらって空のグラスと一緒に一本そのまま並べた。
「熟成肉のステーキだよ。付け合わせはフライドポテトと温野菜、おにぎり、ワカメときゅうりの酢の物は箸休めです。それから今年の新酒の赤ワインも一緒にどうぞ。ええと、報告です。無事にとんでもなく豪華なお城を購入しました。今から改装工事だよ。かなり古いお城みたいだから、直す所はかなりいっぱい有りそうです。良かったらいつでもバイゼンにも遊びに来てください」
手を合わせて目を閉じ、いつものように料理の説明と今日の報告をする。
いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でる気配のあとに目を開くと、嬉しそうにステーキを始め、順番にじっくり撫で回して最後にお皿を持ち上げて回った。
しかし、いつもならこれで消えるのに何故か今日は消えない。
「あれ? どうかしたか?」
何かあったのかと心配になり口を開いた瞬間、またしても机の下いっぱいに、ぎっしり金貨が詰まった大袋が山になって出現した。
俺だけじゃなく、ハスフェル達まで全員揃って豪快に吹き出す。
収めの手は、嬉しそうにOKマークを作ってから消えていった。
「だから予算は潤沢にあるって言ってるじゃんか〜〜〜!」
俺の叫びにまたしても三人が同時に吹き出す音が聞こえたけど、俺は間違ってないよな?




