メタルマスター爆誕!
「だから、そんな簡単に言うなって〜! お前ら世間の常識ってものをちょっとは理解しろ〜〜〜!」
その至極もっともな叫びを上げたアルバンさんは、俺達が揃って大笑いしているのをこれ以上無いくらいのジト目で睨んだ後、またしても頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。
「絶対大騒ぎになる。しかもこれでスライムトランポリンをするとか、有り得ない……」
「ええ駄目ですか。受けるかと思ったんだけど」
俺の言葉に顔を上げたアルバンさんは、またしてもものすごいため息を吐いた後に、ゆっくりと立ち上がった。
「うん、いや、ちょっと待てよ。ここは考え方を変えるべきだな。滅多に見ない貴重なメタルスライムが常にクーヘンの店にいる訳だからな。うん、これは良い。またこれで街に人が来るぞ」
うんうんと頷きながら何やらぶつぶつと呟いた後、にんまりと笑ったアルバンさんは顔をあげて俺達を見た。
「ケンさん達は、祭りが終わったら街を出て行くんだよな?」
「ええ、バイゼンヘ行って、冬の間に、今までの旅で手に入れた素材を使って自分用の装備一式を作ってもらうつもりなんですよね」
「だけど、春には戻ってきてくれるんだよな?」
「もちろん。春の早駆け祭りには絶対参加しますよ」
「よっしゃ! それなら安心だ!」
それを聞いたアルバンさんは、何やら一人で納得した後、またしてもうんうんと頷きながら腕を組んで、何やら考え始めてしまった。
その様子を見て顔を見合わせた俺達は、揃って首を振り見なかった事にしたよ。うん、触らぬ神に祟りなしってね。
そして足元に整列しているスライム達を一旦解散させてやり、あちこちに好きに転がるスライム達を見て和んでから、クーヘンへのメタルスライムの譲渡を再開させた。
その後、無事にランドルさんがクーヘンにメタルスライムを全員引き渡し、ここでようやく俺達は部屋に用意されていた椅子に揃って座った。
好きに部屋を転がっていたメタルスライム達は、またピンポン玉サイズになって各自の鞄や小物入れの中に入ってしまった。
どうやらメタルスライムは人見知りな子達みたいです。
それを見て苦笑いした俺は、とりあえずスライム達の入った鞄を足元に置いて冷たい麦茶とジュースをいろいろ出しておいてやる。
「ところでそろそろ夕食の時間なんだけど、ここで食って良いんですか?」
一緒に並んで座っているアルバンさんに尋ねると、火を使うのは禁止らしいが持ち込みは大丈夫らしいので、それならと作り置きを出そうとしたら、エルさんがスタッフさんを引き連れて戻ってきてしまった。
ううん、ちょっとタイミングが悪かったですねえ。
って事で、ひとまず夕食はお預けにして先に従魔達の登録をお願いする事にした。
全員に従魔登録の紙が渡され、大人しく点呼をとりながら記入していく。
いやあ、しかし改めて自分で書いてて驚いたね。
予想以上に増えてた従魔の数に、我ながらちょっと呆れたのは内緒だ。だけど後悔はしてないよ!
「では、ギルドカードの提示をお願いします」
新しい従魔達の名前が書かれた大量の書類を手にしたスタッフさんに言われて、俺達はそれぞれのギルドカードを取り出す。
一応ギルドカードは自分で収納して持ってるよ。収納する時は、ベルトについてる小物入れに入れるふりして収納してます。
台車に乗せられて持って来られた、例の謎のポイントカードもどきの装置に、スタッフさんがギルドカードを差し込む。
しばしの沈黙の後、ぺろっと出てきたギルドカードをスタッフさんが手にして俺に返してくれようとして、何故か固まってしまった。
「あの、ギルドマスター! ちょっと、ちょっとこれを見てください!」
何やら急に血相を変えたスタッフさんが、俺のギルドカードを手にしてエルさんの腕をものすごい勢いで掴んだ。
「ええ、一体どうしたんだい?」
驚いたエルさんが、スタッフさんの持っていたギルドカードを見てこちらも何故か急に無言になる。
「あの、何か問題でも有りましたか?」
ちゃんと収納していたから、折れたり割れたりしてる事は無いと思うんだけどなあ……。
心配しながら恐る恐るエルさんの後ろから覗き込むと、俺のギルドカードの裏に、各街の名前と一緒にあの文字が刻まれていたのだ。
そう、メタルマスター! ってね。
それって、例のシャムエル様が言ってたメタルスライムを全部集めた魔獣使いに贈られる称号じゃんか!
いつの間に付与してくれたんだよ〜〜!
明らかに心当たりがある俺の様子に、エルさん達のこれ以上無いジト目の集中砲火が炸裂する。
誤魔化すように笑った俺は、黙って足元に置いた鞄からメタルスライム達を呼び出して机の上に並べた。
呆気に取られるエルさんとスタッフさん達を見て俺達全員が満面の笑みになり、それぞれのメタルスライム達を呼び出して机の上に並べる。
しばしの沈黙の後、部屋にエルさんとスタッフさん達の奇声が響き渡り、俺達は揃って思い切り吹き出したのだった。