ガッツリ焼肉丼!
「行け〜〜〜〜!」
「うおおおお〜〜!」
俺の叫ぶ声と、ランドルさんが叫ぶ声が重なる。
見事に一列になってもの凄い勢いで草原へ駆け込んだ俺達は、そのままの勢いでテントを張っていた場所まで止らずに走り続けた。
「これは完全に同着でしたね」
息を切らせたランドルさんの声に頷きながら、俺はマックスの頭に座っているシャムエル様を見て、小さな声で質問した。
「なあ、誰が一番だったんだ?」
「いやあ、見事な勝負だったね。では発表します! マックスとシリウスが同着で一位、エラフィとデネブ、それにビスケットが僅差でこれまた同着の二位だよ。でもまあ今回は、全員同着だって言って良いと思うね。いやあ、すごい勝負だった」
ちっこい手で拍手しながらのシャムエル様の言葉に、俺とハスフェルが小さくガッツポーズをとる。
とはいえ、まあ今のは確かに殆どの人が同着だと言うだろうね。
テントを張る位置で止まったら、加速と同時に飛び上がって空に避難していたお空部隊が羽ばたく音と共に戻って来て、俺の腕や肩の定位置に留まる。
狼達は俺達の走りに一緒に加速してすぐ後ろを遅れずについて来ていたのだが、いつものごとく猫族軍団は揃って後から追いかけて来た。新入りのセーブルは、どうやら駆けっこはあまり得意ではなかったみたいで、ニニの横を一緒に走って来ている。
「すごい速さでしたねご主人。私の脚では全然ついて行けなかったです」
悔しそうな言葉の割に嬉しそうなセーブルの言葉に猫族軍団達が集まって来て周りを取り囲み、あんなバカ達の真似なんてしなくて良いと大真面目に説教していた。
どうやら、セーブルは猫族軍団に加入したみたいだ。
「馬鹿は酷いぞ。誰が勝つかを掛けて必死で走るから面白いのになあ」
そう言いながら、まだ興奮して跳ね回っているマックスの首を叩いて落ち着かせて、とにかくまずはテントを張るために背から飛び降りた。
テントの準備が終われば、次は夕食の準備だ。
「さて、今夜は何を作るかなあ」
とはいえ、実はかなり疲れているのであまり手の込んだ料理はしたく無い。
「ええと、師匠が作ってくれた味付き肉が色々あったからあれを焼いたら早そうだな。よし、それにしよう」
サクラに確認して、牛肉の甘辛く味付けしたのが大量にあったので、それにスライス玉ねぎを追加で入れて焼肉丼にする事にした。
付け合わせは、大根の浅漬けとキャベツと昆布の塩もみ。それからゴボウサラダも出しておく。
焼肉丼は味が濃いので、サッパリ系の箸休めは必要だよな。ちなみに、これも全部師匠が持たせてくれた一品だ。
「おおい、焼肉丼にしようと思うんだけど、ご飯で良いか? パンが良いなら何か別メニューを考えるけど」
大声でまとめて聞いてやる。
「焼肉丼でお願いします!」
まあ、見事に全員の声が重なって返ってきて、ちょっと笑ったね。
「焼肉丼で良いんだってさ。じゃあチャチャっと作りますかね」
先に、大きめのフライパンに菜種油を引いて火をつけて温める。取り出した大きなボウルにがっつり入っていた味付け肉をまとめてタレごと投入。
「ううん。ちょっと入れすぎた気もするが、まあ、あいつらなら肉を残す事は無いよな」
って事で、気にせずそのまま全部炒める。大丈夫だ。まだまだ在庫はあるとサクラが言ってた。
途中で玉ねぎのスライスを追加して、肉に火が通るまで強火で一気にかき混ぜながら炒めて行く。
「出来たぞ」
火を止めて振り返ると、用意してあったご飯を各自お椀に盛り付けて全員満面の笑みで並んで待ってました。
「お前ら、どれだけ肉好きなんだよ」
笑って順番に山盛りに盛り付けてやる。仕上げに刻んだ紅生姜を乗せれば完成だ。
「ほら、お前の分はこれで良いか?」
ハスフェルが用意してくれた俺の分はいつもよりややご飯が大盛りなので、これはシャムエル様の分も含めての大盛りなのだろう。
なので俺の分の肉もいつもより大盛りにしておき、残った汁も全員に公平に入れてやった。
おお、すげえ。あんなにあった肉が全部無くなったぞ。
これも用意してくれてた小鉢と一緒に、冷えた麦茶も用意してからいつもの簡易祭壇に並べる。
「焼肉丼だよ。付け合わせは大根の浅漬けとキャベツと昆布の塩もみ、それからゴボウサラダです。少しだけどどうぞ」
いつもの収めの手が、俺を撫でてから料理を順番に撫でて消えていった。
「お待たせ。さあ食べよう」
急いで自分の席に料理を移動して、待ってくれていた彼らにお礼を言って席につく。
手を合わせてから、まずは、混ぜずにそのまま肉とご飯をまとめてお箸で取って口に入れる。
「おお、ちょっとピリ辛のタレが美味い」
「これはご飯に合うな。うん、美味い」
全員の口からほぼ同じ感想が聞こえて、俺も笑って全力で同意したね。
やや甘めのピリ辛で、これはご飯泥棒メニューだね。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャジャン!」
お椀を振り回しながら、シャムエル様がいつになく激しくステップを踏んでいる。倍くらいに膨れた尻尾がブンブンと振り回されて俺の手を叩く。良いぞもっとやれ。
「はいはい、わかったから落ち着けって」
笑ってお椀を取り上げ、スプーンでご飯とお肉をまとめて大きく取り分けてやる。紅生姜も一切れ乗せてから、別に出されたお皿に付け合わせも少しずつ取り分けてやる。
「麦茶はこっちだな」
別に取り出したショットグラスに冷えた麦茶も入れてやり、待ち構えているシャムエル様の目の前に並べてやる。
「はいどうぞ、師匠特製焼肉丼。付け合わせは大根の浅漬けとキャベツと昆布の塩もみ、それからゴボウサラダだよ」
「ふおお、これは素晴らしい。では遠慮なくいっただっきま〜す!」
嬉しそうにそう宣言して、やっぱり顔面から焼肉丼に突っ込んでいった。
「相変わらず豪快に食べるなあ」
笑ってもふもふの尻尾を突っつきながら、俺もがっつり焼肉丼を満喫したよ。
いやあ、美味しかった。ご馳走様でした〜!