モーニングコールチームまたしても増員されました
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
「うん、起きるよ……」
いつもの様にモーニングコールチームに起こされた俺は、半ば無意識で返事をしながら、感じた違和感に目を開いた。
あれ? チクチクってのはハリネズミのエリーだな。あいつもモーニングチームに参加したのか。
でもって、あの最後のショリショリって、ソレイユとフォールのソフト舐めの感触だぞ。ええと、どうして、あいつらが最初に起こしに来るんだ?
完全に寝ぼけた頭で考えていると、頭上で誰かが話す声が聞こえてきた。
「ね、ほら、また寝ちゃったでしょう」
「本当ですね」
「聞いた通りね」
「まあ、気持ちよさそうだ事」
「しばらくして起きてこなければ、いつもは私達が舐めて起こしてあげるの」
「だけど今日は新人さん達に譲るから、頑張って起こしてあげてごらん」
「分かりました!」
ううん、これはもしかしてもしかしなくても、最終モーニングコール担当のソレイユとフォールが、お空部隊の新人三羽に俺の起こし方を伝授してくれているのか?
嫌な予感にびびって起きようとしたのだが、残念ながら俺の寝汚さは筋金入りだった。そう思った直後に、俺はやっぱり二度寝の海に垂直落下していたのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
「うん、起きてるって……」
やっぱり担当が増えてる二度目のモーニングコールにぼんやり返事をしながら、俺は内心で慌てていた。
早く起きないと、何だか嫌な予感がする。頼むから起きろ俺〜!
何とか寝返りを打とうとしたその時、額の生え際の辺りと眉毛のすぐ横のこめかみのあたり、それから耳たぶをいきなりちょびっとずつ摘まれたのだ。
そう、爪の先でちょっとだけ肉を摘んだ、あれ。はっきり言ってめっちゃ痛い、あれ。
「待って待って待って! 起きます起きます!」
あまりの痛さに悲鳴を上げて横に転がると、一斉に羽ばたく音がして、痛みが一気に無くなる。
「お前らか! めっちゃ痛かったぞ」
笑いながらそう言って、飛び起きて額のあたりを押さえる。
うん、一応出血は無いみたいだな。
「もしかして、その嘴で摘んだのか?」
「そうだよ〜! 完璧な力加減だったでしょう? 血も出てないし、皮膚も破けてないよ」
得意気に、椅子の背に留まって胸を逸らすお空部隊の新入り三羽を見て諦めのため息を吐く。
うん、俺が起きれば良いんだよな。頑張ろう。どんどんと俺を起こす為の凶器が増えていってる気がするんだけど、気のせいじゃ無いよな?
何とか起き上がり、頬擦りしてくるマックスとニニを順番に抱きしめてやる。それから背中担当のラパンとコニーも、巨大化してたのでそのまま抱きつき巨大なモフモフを堪能した。それからモーニングチーム(シャムエル様除く)も順番に撫でたり揉んだりしてやる。脇の下に突っ込んできたタロンとフランマも、それぞれ好きなだけ撫で回しておく。
立ち上がったところで、スライムベッドが分解したので、お礼を言ってスライム達も順番におにぎりにしてやった。
ううん、この触り心地も良いなあ。
最後に、アヴィをおにぎりにしてからファルコとプティラも撫でてやる。
「あ、普段の移動の時の鳥達の留まる場所を考えてやらないとな。ここはファルコ一羽だよな」
身につけたまま寝ていた防具を一旦脱ぎ、サクラに綺麗にしてもらって改めて防具を身につけていて気が付いた。
最初に作ってもらった左肩の肩当てにつけてもらったファルコ専用の革製の止まり木。それほど大きく無いから無理しても二羽が限界だと思う。
プティラはニニの背中にいるけど、あそこもうそろそろ限界に近い。
ちょっと考えて、今は外しておいてあるマックス用のデカい鞍を見て首を振る。あそこは俺が乗るから、留まれる場所は無い。
「なあ、お前達、移動の時はどうする」
ローザを見ながら相談すると、三匹は揃って俺を振り返った。
「ご主人の腕に留まります。ファルコの横に小さくなったメイプルなら止まれるから、彼女にはファルコと一緒にいてもらうわ。私達は、マックスで移動する時は空を飛んでついて行きます。それ以外の時はこんな感じね」
そう言って、軽々と羽ばたくと俺の左上腕部に二匹並んでしがみ付いた。しかも、ちゃんと服の部分に爪を立てているので俺の腕は痛く無い。
外から見たら、左の袖に鳥達をくっ付けてるみたいな感じだ。
「苦しく無いか?」
「全然大丈夫だよ」
二羽が声を揃えてそう言ってくれたので、お空部隊の新人達の定位置は決まったみたいだ。
「おおい、開けるぞ」
その時、外からハスフェルの声が聞こえてテントの垂れ幕を巻き上げる音が聞こえた。
「おはよう」
身支度を整えた三人が入って来る。
「ああ、おはよう。待ってすぐ準備するよ」
机を出していなかったのを思い出して慌てたが、振り返ってみるといつの間にかスライム達が机と椅子をいつもの様にセットしてくれていたよ。ううん、スライム達最高!
大急ぎで、サクラにサンドイッチを色々出してもらい、コーヒーと激ウマジュースも並べておく。
「あ、俺は久々に豆乳オーレにしよう。サクラ、豆乳Aも出しておいてくれるか」
豆乳Aとは、あの老夫婦の豆腐店で買った濃厚で美味しい方の豆乳だ。一応こっちを飲む用に、量販店で買った豆乳Bは、料理用にして使い分けている。
タマゴサンドの横で自己主張するシャムエル様の尻尾をモフってから、タマゴサンドとキャベツサンド、それからちょっと考えてソースカツサンドを取ってお皿に並べる。
マイカップには豆乳オーレ、それから取り出したグラスに氷を数個、激うまジュースミックスを入れて席に着いた。
お皿を持って踊っているシャムエル様からお皿を受け取り、タマゴサンドの耳を切って丸ごと、それからソースカツサンドも真ん中の部分を一切れ切ってやる。
「ドリンクは?」
「両方ください!」
当然の様に蕎麦ちょこが二つ差し出されたので、豆乳オーレと激ウマジュースミックスをそれぞれたっぷり入れてやる。
うん、どちらも半分以上無くなったんでこれはもう一回入れてこよう。追加で鶏ハムをサクラに出してもらって改めて席に着く。
シャムエル様は律儀に待っていてくれたよ。
「先に食うか?」
キャベツサンドを見せてやると頷くので差し出してやり、三角の長辺丸ごと1センチ分ぐらいがっつり食われました。
一回り小さくなったキャベツサンドを見て笑いながら、俺は残りのサンドイッチとパンの耳と鶏ハムを平らげたのだった。
食事が終われば、手早く撤収してすぐに出発だ。
先頭を走るギイの乗るブラックラプトルのすぐ後ろをオンハルトの爺さんの乗るエラフィが続き、俺の乗るマックスとハスフェルの乗るシリウスがその後ろに並ぶ。
羽ばたく音が聞こえて、巨大化したお空部隊の新人達がゆっくりと俺達の上空を旋回する。ファルコとプティラもそれを見て巨大化して舞い上がっていった。
上空を賑やかに鳴き交う鳥達の声を聞きつつ、俺達はスピードを上げて一気に草原を駆け抜けて行ったのだった。