肉を焼くぞ〜!
河原まで戻って来た俺達は、広い方の草を刈った場所にテントを張る事にした。
俺のテントを河原側に建て、ハスフェル達のテントは俺のテントを囲む様にして建ててくれた。この配置は、この飛び地での定番の形になりつつある。
「さてと、それじゃあ準備するか」
疲れてるので、手の込んだソースは作らず、作り置きの玉ねぎと醤油の和風ソースと、前回作って好評だったヨーグルトソースもまだあったので出しておく。
適当にパンをいろいろ盛り合わせて、簡易オーブンと一緒に並べておく。今日の付け合わせは、温野菜色々とフライドポテトだ。
「あ、味噌汁の作り置きもそろそろ減って来てるからまた作っておかないとな。汁物は案外手間がかかるから、ゆっくり料理の出来る時に作っておかないと、俺が出先で苦労するんだよな」
そんんな事を呟きながら、とりあえず小鍋に人数分の味噌汁を取り分けて火にかけておく。
テントの準備が出来たハスフェル達が、そろそろ俺のテントに入ってくる。
「パンは自分で焼いておいてくれよ。それと、付け合わせも好きに取ってくれよな」
三人の返事が聞こえたところで、味噌汁の火を止めてメインの肉を用意する。
「じゃあ今日の肉は、グラスランドブラウンブルの肉だぞ」
デカい塊を取り出し、サクラに四枚分を分厚く切ってもらう
最近、シャムエル様の食べる量がどんどん増えているので、俺の分はその分込みでいつもよりも若干多めに切っておく。
軽く叩いて筋を切ってから、肉料理用のスパイスをしっかり振っておき、強火力のコンロに一番大きなフライパンを乗せて温める。
牛脂の塊を入れてしっかりと油が出たところで、肉を投入。
強火で、まずは表面を一気に焼いていき、しっかり焼けたらトングで掴んで肉をひっくり返す。
「おお、良い感じだ」
しっかり焦げ目がついた肉を見て、オーブンでパンを焼いていたハスフェルとギイがまた喜んでるよ。
「お前の分はこれくらいで良いか?」
温野菜とフライドポテトが山盛りになったお皿を見せられてちょっと戸惑ったが、まあ食えない量じゃない。
「おう、ありがとうな。充分だよ」
既にお皿を出して待ち構えているシャムエル様は、嬉しそうにフライドポテトを見つめている。
もう一度肉をひっくり返してから、蓋をして一旦火を止める。
余熱で火を通す間に自分の分の味噌汁とご飯をよそる。
「じゃあ。肉が焼けたからお皿出してくれるか」
三人が自分のお皿を並べてくれたので、余熱でしっかりと火が通ったステーキを順番に一枚ずつ並べていく。俺の好みで、肉はしっかり焼くよ。
しかし、改めて見るとデカい。ファミレスステーキの五倍は余裕であるぞこれ。
ちょっと笑ったけど、この肉の場合、原価はほぼゼロなので気にしない。
サクラが準備してくれたいつもの簡易祭壇に、俺の分を一通り並べる。それから、二種類のソースも器ごと並べて置く。
「グラスランドブラウンブルのステーキだよ。付け合わせは温野菜とフライドポテト、わかめと豆腐の味噌汁です。少しだけど、どうぞ」
小さくそう呟いて、手を合わせる。
いつもの様に、俺の頭を撫でた収めの手が料理を順番に撫でてから消えて行った。
「よし、届いたな。じゃあ俺も食おうっと」
ステーキソースの器を先に机に戻し、自分のお皿も順番に持ってくる。座って改めて手を合わせると、待ってくれていた三人も同じ様に手を合わせてから食べ始めた。
さあ俺も食べようとした所で、お皿を持ったシャムエル様が飛び跳ね始める。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
タップダンスみたいなステップの後、くりっと回って最後は片足でキメのポーズだ。
「はいはい、今日も格好良いぞ」
笑ってもふもふの尻尾を突っついてから、ステーキの赤身のところを大きく一切れ切ってやる。
「あ、玉ねぎのソースかけちゃったけど、これで良いか?」
切ってから、前回作ったヨーグルトソースを気に入ってた事を思い出す。
「もちろん構わないよ、それも美味しいもん」
お皿を突き出してくるので切った肉をお皿に乗せてやり、付け合わせも一通り入れてからフライドポテトは大きめのを一本入れてやる。だけど、それを見てシャムエル様がまたタップダンスを踏んでる。
「何、まだいるの?」
大きく頷くので、苦笑いした俺はフライドポテトをまとめて数本並べて入れてやる。
蕎麦ちょこには味噌汁を入れてやり。ご飯はステーキの横に一塊り盛り合わせてやる。
ステーキソースをもう少し追加でお肉にかけてやれば完成だ。
ううん、最初の頃の数倍のボリュームになってるぞ、これ。
「はいどうぞ。召し上がれ」
目の前に並べてやると、わかりやすく笑顔になる。
「うわあい、美味しそう! いっただっきま〜す!」
相変わらず妙なリズムのいただきますの後、お皿を両手で持ってやっぱり顔面から突っ込んでいった。
顔中ステーキソースまみれになってるけど、自分で浄化できるんだから気にしなくて良いらしい。
だけど、どうやったら額や耳にまでステーキソースがかかるんだろうな。
「うん、やっぱりケンの焼いてくれるステーキは最高だね」
肉を半分くらい食べたところで、顔を上げて嬉しそうにそう言ってくれたので、笑ってもう一度ふかふかの尻尾を突っついてから、俺も自分のステーキを満喫した。
うん、やっぱり肉は良いなあ。我ながら焼き具合も完璧だよ。
最後の締めに、フライパンに残っていた油に切り落とし肉を追加して、肉しか入ってない元祖男飯的簡単炒飯を作る。
三人とシャムエル様も食べるのは確実だったので、今回はそれを見越して少し多めに作ったよ。
ステーキを食べ終えて空になったお皿に、炒飯を取り分けてやり、自分の分を食べようとしたところで不意に誰かに髪を引っ張られた。
「あれ、シャムエル様……は、そこで食べてるよな?」
シャムエル様かと思ったが、目の前の机に座って炒飯に顔面からダイブしている真っ最中だ。
不思議に思って振り返ると、収めの手が遠慮がちに俺の後頭部の髪を引っ張ってたよ。
「何やってるんだよ。シルヴァ達」
何が言いたいのか解って小さく吹き出した俺は、まだそのままにしてあった簡易祭壇に俺のお皿を乗せる。
「肉だけ炒飯、ちょっとだけですがどうぞ」
笑いながら手を合わせてそう言ってやると、スルッと出てきた納めの手が炒飯を撫でててからOKマークを作って消えて行った。
「相変わらずフリーダムだなあ」
捧げていたお皿を回収して自分の席に座ると、今度こそ自分の分の肉だけ炒飯を楽しんだのだった。