朝の一コマと酒屋で買い物
「それじゃあ、明日は屋台で朝飯を食ったら、その酒屋に行ってそのまま出発だな」
「ああ、それでまずはカルーシュへ行って、ギルドでジェムを引き取ってもらって、飛び地へ行ってジェムと素材集め、それからウェルミスさんから苗木をもらって西アポンの近くの果樹園に植える。それが終わったら、移動してオレンジヒカリゴケの収穫かな?」
「そうなるかな。万能薬の手持ちが少なくなってるから、しばらく滞在してありったけ収穫しておこう」
「で、それが終わったら、いよいよバイゼンだな」
旅が始まった当初から、目的地だと言い続けているドワーフの工房都市バイゼン。
ようやく近付いて来たみたいで、ちょっと嬉しくなった。
「それじゃあおやすみ」
三人が笑ってそう言ってそれぞれの部屋に帰り、見送った俺も机の上を片付ける。
「ベリー、果物出しておくな」
サクラからいろいろ適当に取り出して、まとめて空箱に入れておく。
「ああ、そうですね。少し頂きます」
外を見ていたベリーとフランマが嬉しそうに駆け寄って来て、草食チームも足元で飛び跳ねている。
果物を取り出すベリーを見て、俺は大きな欠伸をしてから少しだけ柔軟体操と屈伸をしておいた。
「さて、それじゃあもう寝るか」
防具を外して、サクラに綺麗にしてもらう。
「それでは今夜もよろしくお願いします!」
振り返ったベッドでは、もうマックスとニニが揃って転がり待ちかねている。
「やっぱりここが落ち着くよな」
そう言いながら二匹の隙間に潜り込む。
背中側に、巨大化したラパンとコニーが飛び込んできて収まり、胸元にはタッチの差でタロンが潜り込んできた。
「それじゃあ消しますね」
笑ったベリーの声が聞こえて、部屋が真っ暗になる。
ソレイユとフォールが顔の横で丸くなる気配がして、俺は小さく深呼吸して目を閉じた。
「おやすみ、また明日もよろしくな……」
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
「うん、起きる、よ……」
いつものモーニングコールチームに起こされて、眠い目を擦りながら無意識で答える。
だけど当然そのまま二度寝の海に、気持ち良くダイブしたよ。
「相変わらず、起きないねえ」
「そうですね」
「じゃあ起こすね」
「そうよね、起こしてあげましょう!」
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
耳元で聞こえた声に目を開いて、起き上がろうとした瞬間、耳の後ろと首筋に思いっきりやすりがけされたよ。
「うわあ、起きるって!」
慌ててそう叫び、飛び起きて横に転がる。
マックスはもう起きていて、広くなったベッドに転がると、ニニの背中からソレイユとフォールがずり落ちて来た。
ただしこれは完全にわざと。
仰向けに転がった俺の顔面に見事に着地して、平然とベッドに飛び降りたし。
「朝から俺にやすりがけをして、俺の顔面に着地したのは誰だあ?」
そう言いながら二匹の顔を両手で捕まえて、まとめておにぎりにしてやる。
「はあい、それは私たちで〜す!」
二匹揃って、ご機嫌で喉を鳴らしながらそんな事を言うので、朝から大笑いしたよ。
飛びついてくる、タロンとフランマも順番にもふってやってから、顔を洗いに水場に向かう。
「さて、今日は何が起こるんだろうね」
小さく呟き、一気に顔を洗った。
冷たい水で、少しぼんやりしていた目が覚める。
「ご主人、綺麗にするね〜!」
サクラが跳ね飛んできて俺にぶつかった瞬間、いつもの様に一瞬で綺麗にしてくれる。相変わらず器用なものだな。
「いつもありがとうな。ほら、行っといで」
元に戻ったサクラを撫でてから水場に放り込んでやる。順番に跳ね飛んできたスライム達も放り込んでやり、水浴びしているファルコとプティラにも、いつもの様に水を掛けてやる。
部屋に戻って身支度をしていると、ハスフェルから念話が届いた。
『おはようさん、もう起きてるか?』
『おう、おはようさん。今、身支度の真っ最中』
『それなら終わったら出て来てくれ、鍵を返して屋台で飯食ったら、酒屋に寄って出発だな』
『だな。じゃあ準備が終わったら行くよ』
念話が途切れる気配がして、小さく身震いして最後の籠手をはめた俺は庭を振り返った。
「ベリー、フランマ。そろそろ行くぞ」
「はい、今行きます」
扉が開いて、部屋の中に入ってくる。
「忘れ物は無いな。それじゃあ出かけるとしようか」
俺の言葉に、従魔達が一瞬で定位置に着く。
アクアゴールドをいつもの鞄に入れれば、これで出発準備完了だ。
「お待たせ」
廊下に出ると、もう三人とも出て来ていた。
「おう、それじゃあ行くか」
ハスフェルの声に頷いて、まずはギルドに鍵を返しに行く。
「はい、確かに」
受付窓口に座っていたお兄さんは、俺達の鍵を受け取ったきりそのまま片付けてしまった。
「あの、延長で一泊してるんですけど、追加料金を払ってませんので……」
「いえ、ギルドマスターから伺っておりますので、どうぞそのまま」
思わず振り返ってハスフェル達を見ると、苦笑いして頷いている。
「いいからここは奢られとけ」
まあ、あの大量のジェムの一割に比べたら、一泊分の宿泊代なんて安いんだろうけど。
「そうなんですね。ありがとうございます」
ハスフェル達は当然って顔してるし、今更俺だけ抵抗しても逆に駄目だよな。うん、ここはありがたく奢られておいて、今度ジェムを持って来たら二割引にしてやる。
それから、広場の屋台へ行き、それぞれ好きに買って食べた。
俺は本日のコーヒーと野菜サンドとタマゴサンドを購入。広場の端でマックスに寄りかかりながら、シャムエル様にタマゴサンドを齧らせつつ手早く食事を終えた。
残りのコーヒーを一気に飲み干し、カップを鞄に放り込む。こうしておけばアクアゴールドが綺麗にしてサクラが収納しておいてくれる。
それにしても便利だよな。俺もう、スライム無しの生活なんて考えられないよ。
それから、少し時間をもらって、屋台でまた大量に買い込んでおいた。だって、手軽に食べられる出来合い品は、在庫を切らしたくないからね。
「まあ、これくらいあれば、作り置きはしばらく大丈夫だろう。よし、じゃあ順番に予定を消化しよう」
「おう、美味い酒は大事だよな」
大真面目なハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんまでもが揃って頷いている。
「それには俺も同意しかないね。あ、そういえばあのクラフトビールの飲み比べってまだやってないな。今度ゆっくり飲んでみようぜ」
「ああ、それも良いな。じゃあ、一仕事終えた後にでも楽しむとするか」
「それなら、俺の分は冷やしておきたいから後でください」
「もう、サクラに渡してあるよ。後で自分で冷蔵庫に入れておけ」
「あ、そうなんだ、了解。じゃあ、今夜にでも準備しておこう」
そんな話をしながら、広場から歩いて目的の酒屋に向かった。
丁度、開店したばかりだったようで、店員さんと思しき人が、店先に何種類もの大小のグラスやジョッキを並べている真っ最中だった。
「ええと、どうする? 従魔達は入れないよ?」
広い店内だが通路は狭そうだ。棚には、大小様々な瓶がぎっしりと並んでいる。
「じゃあ、ここは任せるから、見てこいよ。従魔達は俺が見ててやるから」
オンハルトの爺さんがそう言ってくれたので、ハスフェルとギイと俺の三人で店に入る。
中にいた店員さんに聞いて、マギラスさんの店で使っている梅酒と大吟醸を確保。それ以外にも、これが好きならこちらもどうぞ、って感じで紹介してもらった米の酒を中心に、ビールもいろいろと買ってみた。
ハスフェルとギイも、何やら相談しながら色々と大量に買い込んでたよ。
お前ら、この前も業務スーパーで大量に買い込んでなかったか? と、内心で突っ込んだが、あれなら俺もちょっとは貰うので気にしない事にする。
それぞれにお金を払い、まとめて収納して店を後にした。
「なかなかの品揃えだったな。また無くなったら来よう」
「確かにすごい品揃えだったな。じゃあまた来よう」
俺も笑って同意して、マックスに飛び乗った。
それぞれの従魔に飛び乗り、大注目の中を進み、俺達はそのまま街を出て行ったのだった。




