冒険者である事
「本当にご馳走様でした!」
「それじゃあまた半月後に来てくれよな。待ってるからな」
満面の笑みで、見送りに出てきてくれたスタッフさんやマギラスさんと握手をする。
帰り際、マギラスさんに気になっていた食前酒で出た梅酒と、激うま大吟醸を売っているお店も教えてもらった。業務用の店だけど、個人でも現金なら売ってくれるらしい。なのでこれは明日、出発前に立ち寄る予定。
「いやあ、それにしても凄かったな」
「全くだ。彼も変わってなくて嬉しい限りだ」
宿泊所への道を歩きながら、ハスフェルとギイは、さっきから何度もそう言って嬉しそうに笑い合っている。
「なあ、思ったんだけど、マギラスさんも一緒に旅していた時って、彼が今の俺みたいに全員分の料理をしたりしてたのか? それなら、そう言うレシピも教えて欲しいな」
振り返った俺の質問に、二人は揃って苦笑いしながら首を振った。
「たまに肉を焼いたり、冬場に宿に長期間留まったりした時に、簡単な煮込み料理を作ってくれる事はあったが、基本的に旅の最中は彼も携帯食や干し肉だったぞ」
「あれ、そうなんだ」
「そもそも、旅にそんな大きな机や椅子、それから大量の料理道具を持ち歩く奴なんていないって。せいぜいがクーヘンが持っていたみたいな折りたたみ式の椅子程度だ。それだって相当量の入る収納袋が必要だから、誰にでも出来る事じゃ無い」
「お前らは収納があるのに?」
そこで二人は黙って顔を見合わせる。
「ケンは、分かっていないみたいだが、他の誰かと組んだとしても、俺達が持つのは、非常時以外は基本的に自分のものだけだぞ」
ハスフェルの言葉に、驚いて目を見開く。
「えっと、それってつまり……」
「つまり、他の誰かの分の荷物を俺達が収納して持つ様な事はしない」
真顔のギイが断言する。
「旅の仲間でも?」
「旅の仲間だからこそ、さ。ああ、丁度いい機会だからゆっくり話しておくか」
そこで宿泊所に到着したので一旦話は止まり、そのまま全員揃って俺の部屋に集まる。
「あ、そういえば宿の延長の手続きしてないぞ」
部屋の鍵を開けながら思わずハスフェル達を振り返る。
「ああ、レオンから好きなだけ泊まって行ってくれて良いと言われてるよ。鍵を返した時点で宿泊終了だ」
「あ、そうなんだ。じゃあ遠慮無く泊まれるな」
笑って部屋に入ると、一緒に入ってきたベリーが一瞬で部屋に設置されたランタンに火を入れてくれた。
「ありがとうな。夜目が利くとは言っても、薄闇で一つずつ火をつけるのは面倒だからな」
振り返ってお礼を言い、鞄を下ろす。
「話をするのに何も無いのも愛想が無いな。まあちょっとだけ」
何となく間がもたなくて、そう言いながら作っておいた透明な氷と水を取り出すと、ハスフェルがウイスキーのボトルと綺麗なグラスを出してくれた。
何となく無言で全員がそれぞれに自分の分を作る。
一応、ナッツの摘みも出しておく。俺はもういらないけどな。
「で、さっきの話って、どう言う意味だ?」
俺の言葉に、ハスフェルとギイが顔を見合わせて揃ってため息を吐いた。
「まあ、いつかお前さんが単独で活動する時が来るかもしれない、だから今後の為にも知っておくべきだからな」
真顔でハスフェルがそう言い、持っていたグラスを傾ける。
おお、確かに今は頼りになる仲間がいるから安心だけど、彼らにだってやることがあったりすると、いなくなる可能性もゼロじゃ無いものな。
突然、いつか来るかもしれない別れの時を考えてちょっと涙目になったのは、水割りを一口飲んで誤魔化しておいた。
「そもそも、冒険者には二種類の奴がいる。一つは住む街を決めて定住し、その街のギルドにのみ所属して依頼を受ける冒険者」
初めて行ったレスタムの街にいた、ヘクターさんみたいな人って事だな。確かに彼は、レスタムの街のギルドに所属してるって言ってた。
「もう一つが、俺達の様に定住する地を定めない流れの冒険者。複数の街のギルドに所属して、気ままに放浪している。依頼を受けるかどうかは、まあその時の気分次第と言ってもいい」
俺も水割りを飲みながら頷く。まさに今の俺もそれだよな。
「もちろん一人でいる奴もいるが、そう言う奴らでも、郊外での危険性を考えると大抵が三人以上でチームを組む」
「まあそうだろうな。俺みたいに従魔がいたら別だろうけど、一人なら野宿するのだってかなり気を使うだろうからな」
「そうなると、仲間を誰にするのかと言うのは、わりに深刻な問題になる」
そこまで言われて何となく分かった気がした。
「つまり、チームの中の誰か一人だけに負担がかかったりするのは、ダメだって事?」
「もちろんそれもある。だけど思い出してみろよ。地下迷宮で、ケンが一人で水脈に落っこちた時の事を」
「いきなり、何でそこに話が……あ! そっか、そう言うことか」
そこまで言われて、彼らが何を言わんとしているか分かった。
あの時の俺は、スライム達が一緒に来てくれたおかげで死ななかったんだが、結果として全員分の食料を離れた俺が持っている状態になってしまったんだった。
「あの時は、俺達も全員が収納の持ち主で、それぞれ最低限の食料は持っていたから何とかなったが、もしもあの場で、全員がお前の収納に頼りきっていて、誰も自分の食料を持っていなかったらどうなっていたと思う?」
「うわあ、最悪」
顔を覆った俺を見て、苦笑いしたハスフェル達が揃って俺の背中を叩いた。
「な、つまりそう言う事だ。今はケンが作ってくれているから有難く頂いているが、俺達だって最低限の食料は常に確保している。最近は屋台でたまに買ったりもしてる。つまり冒険者なら、移動の際に自分の持ち物は自分で管理する。持ち切れない物はそもそも持たない。ってのが最低限の常識なんだよ」
「確かにそうだな。いきなり現れた魔獣やはぐれのジェムモンスターに襲われて死ぬ事だって有り得るもんな。唯一の収納の持ち主に、全員分の食料を預けててそいつが突然死んだら……」
「まあ、襲われた場所にもよるだろうけど、最悪の場合、そのパーティーは全滅だな」
「なるほど。自己責任って、そう言う意味もある訳か。要するに自分のものは基本自分で管理する。もしも誰かに預けるとしたら、万一何かあってもそれは自分の責任って事だな」
「そう言う事だ。誰かの荷物を預かる時は、その辺りを理解してる奴でないと、万一何かあった際に、問題になりがちだから気を付けろよ」
「了解。言われてみれば確かにそうだな。気を付けるよ」
残ったお酒を一気に飲み干す。
「俺は良い仲間に巡り会えて幸せ者だな」
何だか急に、彼らの存在がありがたく感じて、深く考えもせずにそう言ったんだけど、口に出したら物凄く恥ずかしくなってそのまま机に突っ伏した。
「何だ何だ? 嬉しい事を言ってくれるなあ。だけどそんな事言われても何も出んぞ」
「まあ、こいつは見るからに頼りなさそうだからな。俺達が付いててやらないとな」
「確かにその通りだな。迂闊に一人にしてると誰かに簡単に騙されて、身ぐるみ剥がされていそうだものなあ」
オンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェルとギイが同意する様に頷いている。
「何言ってるんだ! って言いたいけど……俺にもそんな未来しか見えないから、今後ともよろしくお願いいたします〜!」
突っ伏したままそう叫ぶと、笑った三人から何故だか思いっきり頭を撫でられてしまった。




