今夜の添い寝役問題
「うああ〜〜〜! 寝る時の、俺の癒しのもふもふ成分が誰もいないなんて〜〜〜〜!」
部屋に戻ったところで衝撃の事実に気がついて膝から崩れ落ちた俺は、泣きそうな声でそう叫んで顔を覆う。
いや、もうマジで泣いてるよ。
「ごめんねご主人。アクア達はツルツルだからね」
「さすがにあのふわふわな毛は再現出来ないよ」
「ごめんねご主人、元気出してくださ〜〜い!」
落とした鞄から転がるようにして出てきたアクア達が、口々にそう言って俺にポヨンと軽く体当たりしてくる。
「あ、ああ……そりゃあスライムに毛があったらこっちが驚くって。まあ、仕方がない。寂しいけど数日の我慢だからな」
苦笑いしてその場に座り込んだまま、くっついてくるアクア達を順番におにぎりにしてやる。
開けっぱなしだった扉を閉めたところで、雪スライム達も出てきて俺に擦り寄ってきた。
「お、雪スライム達はやっぱり手触りがアクア達とは全然違うな。それにちょっとひんやりしていて気持ち良い」
笑ってひんやりしたアワユキに頬擦りした俺は、ここで聞こえた蹄の音に慌てて立ち上がった。
「ああ、ごめんごめん。お待たせだな。ええと、弁当ならこの辺りかな」
部屋の真ん中にある大きなテーブルに駆け寄った俺は、そう言いながら跳ね飛んできてくれたサクラを捕まえてテーブルの上に置き、サクラが取り出してくれるお弁当や揚げ物を急いで並べていく。
「ああ、急ぎませんのでそんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
苦笑いしたベリーが姿を現しながらそう言い、俺が取り出した弁当や作り置きの揚げ物各種を次々に収納していく。
パンやおにぎり、副菜なんかも色々と一通り多めに渡したところで、ベリーがにっこり笑って俺を見た。
「ニニちゃん達が、誰もケンの側にいないのを心配して戻りたがっていたんですが、ハスフェル達に止められていましたよ。さすがに従魔達だけで街へ戻ったら大騒ぎになりますからね」
「あはは、確かに。従魔達だけで街へ入ろうとしたらそりゃあ大騒ぎになるだろうし、そもそも入れてもらえないって」
苦笑いしながらそう言い、すっかり暗くなった窓の外を見た俺は、まだテーブルの上にいたサクラを見た。
「はあ。じゃあちょっと早いけど、俺も食事にしよう。ええと……あ、海鮮丼を出してくれるか。それと海老のあら汁もお願い」
「はあい、じゃあこれかな」
サッと取り出してくれた山盛りの海鮮丼。当然、横にはワサビと醤油と小皿付き。
それから大きめの汁椀に、一人前の海老のあら汁が用意された。
「おお、これこれ。あ、ベリーに果物出してやってくれるか」
まだベリーはいてくれたので、せっかくだから一人飯よりは一緒に食事をしたい。そう思ったので、サクラに追加で果物も出してもらうようにお願いする。
「おや、良いんですか? では遠慮なくご一緒させていただきますね。実はちょっとお腹が空いていたんです」
飛び地で採取したあの激ウマリンゴとブドウを見たベリーが、嬉しそうにそう言ってテーブルの横につく。
笑顔で頷き合ってから、俺は自分の分をスライム達が用意してくれたいつもの簡易祭壇に並べた。ついでに思いついて、冷えた白ビールと黒ビールも自分の収納から取り出して空のグラスと一緒に横に並べる。
「今夜はハスフェル達は郊外に狩りに出ていて戻らないので、俺とベリーだけです。作り置きで申し訳ありません。少しですがどうぞ」
いつものように目を閉じてそう言いながら手を合わせる。
現れた収めの手が俺の頭を何度も撫でてから海鮮丼と冷えたビールを嬉しそうに撫でまわし、持ち上げるふりをしてから消えていった。
「届いたみたいだな。よし、じゃあ食べよう!」
急いでテーブルに移動させ、改めて手を合わせてからまずは白ビールの栓を開けてグラスに注ぐ。
「うん、労働の後のビールはいつも以上に美味しいねえ。じゃあ、まずはお刺身でいただこう」
小皿にわさびと醤油を入れ、まずトロからいただく。
「ううん、何度食べてもトロは美味しいねえ。あら汁も良い出汁が出て美味しい」
海老のあら汁は、濃いめの赤味噌味だ。これがまた美味しいんだよ。
そのあとは、ベリーにも赤ワインを出してやり、のんびりビールを飲んで海鮮丼を食べながら、ケンタウロスの仲間達の話やこの街の周囲の様子なんかを聞いて過ごした。
「はあ、美味しかった。ええと、外は真っ暗だけどベリーはもう戻るのかな?」
夜目が利くベリーなら、真っ暗でも問題なく移動出来る。
一人飯が寂しくて引き留めてしまったけど、移動の時間を考えたらもう戻ってもらったほうがいいだろう。
寝る時の事を考えてちょっと涙目になりつつそう言うと、頷いたベリーは、何故か満面の笑みになって俺を見た。
「さっきも言いましたが、ケンの元に従魔がスライムだけしかいない事に気付いたニニちゃん達から頼まれましてね」
笑顔のベリーの言葉に思わずベリーを見返す。
「ええと、もしかして添い寝してくれるの?」
あの髭はもふもふ成分に入るのだろうか?
頭の中で若干斜め上な事を考えていると、吹き出したベリーが首を振る。
あ、あのふさふさな髪ももふもふ成分と言っていいんだろうか?
さらに斜め上の事を考えている自分に気づいて笑うしかない。
「ご希望とあらば、私の添い寝も考えないでもありませんが、残念ながら私の体型では、人の子のベッドで寝るには色々と問題がありそうですからね」
苦笑いしつつ床を蹄で軽く叩く。カツンと硬質な音がして俺も苦笑いしつつ頷く。
確かにベリーは下半身が馬だから脚は細いし蹄があるので、一緒に寝るにはかなり無理がある。
お互いの顔を見て揃って吹き出したその時、不意に俺の右手に何かが当たった。
ふわりとしたその柔らかさの正体に気付いた俺の目が見開かれる。
「ですので、今夜はフランマとカリディアが添い寝役を務めてくれるそうですよ。我々なら、この程度の距離は簡単に移動出来ますし、街へ入るのも城門を通る必要はありません。日中は狩りに参加するので戻りますが、夜にはまた戻ってきます。ニニちゃん達が戻るまでは、フランマとカリディアで我慢してくださいね」
「って事だから、私達で我慢してね」
「うああ〜〜〜! ありがとう! よろしくお願いします!」
予想外の嬉しい提案に歓喜の叫びをあげる俺。
頭の上に小さなカリディアを乗せて姿を現したフランマに、俺は両手で力一杯抱きついたのだった。
ああ、このニニとは少し違うもふもふもまた良きかな……。
2026年3月12日、アース・スターコミックス様より発売となりました。
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」第六巻です。
いよいよ、早駆け祭りが始まります!
そして、お祭りの後のあれやこれやからクーヘンのお店が開店まで。
怒涛の展開な第六巻を、どうぞよろしくお願いします!
2026年2月13日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」十三巻の表紙です。
もちろん今回も、れんた様が最高に可愛いくて素敵な表紙と挿絵を描いてくださいました!
冬のバイゼンでの冬祭り、スライムトランポリンでまたしても大騒ぎです!
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m




