本日のお仕事の終了と衝撃の事実発見!
「よし、これで全部だな。疲れているところをすまなかったな。これを全部まとめて資料制作担当の部署に預ければすぐに必要枚数を書き出してくれるから、これでようやく初心者テイマー講習会を始められるぞ。もう、早くしてくれって冒険者連中からせっつかれているんだよ」
確認の終わった原稿の束を抱えたヴォイスさんの嬉しそうな言葉に、俺の方が驚く。
「ええ、初心者テイマーの講習会って、そんなに大人気なんですか?」
「おう、大人気なんてもんじゃあないぞ。今回の募集は冒険者限定だったが、商人ギルドでもテイマー希望者が殺到しているらしく、あっちでも初心者講習会の開催が切望されているんだとか。そうなるとおそらく他のギルドでも似たような有様だろうから、とにかく講習用の資料だけでも早く欲しいって言われまくっているんだよ。それを聞いた資料作成担当部署の連中が、この原稿を手ぐすね引いて待ち構えているらしいから、渡した後にどれくらいの速さで出来上がってくるか、実はちょっと楽しみにしているんだよな」
にんまりと笑って面白がるみたいにそう言ったヴォイスさんの言葉に、俺は驚きつつも納得する。
この世界、ジェムで動く生活家電的な道具は色々あるけど、聞く限り印刷の機械は無いから、資料を作ろうと思ったらそもそも手で書くしかない。
今回みたいに講習会の際に使ういわば教科書的な数の必要な書類であっても、基本的には人の手で一枚ずつ書き起こすしか方法は無いわけだ。
一応、木版画的なものはあるみたいだけど、それでも刷れる枚数には限りがある。以前、ケンタウロスの皆様に活版印刷やガリ版印刷的な話はしておいたけど、今のところまだどれも出来上がったって報告は受けていない。
当然、今回の資料だって、俺が追加で書き込んだ事や、誤字脱字の訂正を含めて改めて最終の原稿がまずは書き起こされ、それを元にして資料が量産されるわけだ。もちろん人の手で書き起こされて。
あれを講習会での資料にするのなら、一体どれくらいの手間になるのか考えて、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
ケンタウロスの皆様〜〜〜早く活版印刷機を完成させてやってくださ〜〜い!
『ああ、印刷機については、ほぼ出来上がったそうですよ。今、郷の職人達が張り切って活字を制作中です。最終的に印刷を確認して活字のある程度の量産が終われば、代表者達が各街のギルドや街の議会を内密に訪れて、この印刷技術と機械の作り方を伝授する予定です。ですがこの資料作成には間に合わなかったみたいですね。申し訳ない』
不意に頭の中にトークルームが展開され、笑ったベリーの声が聞こえて驚きに飛び上がりそうになった俺は、今聞いた話を思い返してもう一回驚いたよ。
『ええ、活版印刷機って、もう出来たの?』
慌てて念話でそう尋ねると、笑ったベリーの揺らぎが会議室の奥の壁際に見えた。
『ええ、そうみたいですね。ちなみに活版印刷機第一号は、ケンから印刷に関する話を聞いて、すぐ作ったそうですよ。でも上手に刷れる粘り気のあるインクを作るのにかなりかかったみたいですね。その後、何度も工夫を重ねて試作を繰り返し、ようやく満足のいくものが出来上がったのが春の初め頃。活字は試作用に数文字作っただけだったそうなので、今改めて全ての文字を量産中なのだとか』
嬉々として説明してくれるのはいいんだけど、ハスフェル達と一緒に郊外への狩りに出掛けたはずのベリーがどうしてこっちにいるんだ?
内心でこっそり突っ込んでいると、笑ったベリーがふわりと飛んでこっちに来て、俺の腕を軽く叩いた。
『ハスフェル達からの伝言です。数日郊外で野営をしながら幾つかの狩場を回るそうです。なのでもう少しお弁当や作り置きが欲しいそうですよ。私が届けますので、宿泊所へ戻ってからで結構ですので彼らの分のお弁当を一通りお願い出来ますか?』
笑ったベリーにそう言われて、俺はもう笑いそうになるのを必死で堪えていた。
『了解。じゃあ戻るからちょっと待ってくれよな』
一応念話で返事をしてから、俺はギルドマスターのヴォイスさんを見た。
「お疲れ様でした。それじゃあ俺は宿へ戻りますね。もし何かあればいつでも連絡してください」
「おう、お疲れさん。まあ、ゆっくり休んでくれ」
「はい、それじゃあ失礼しますね」
スライム達の入った鞄を手にした俺は、笑顔でそう言って先に会議室を後にした。
「ああケンさん。ちょうどよかった。預かっている伝言がありますのでこちらへ来てください!」
もうそのまま宿泊所へ戻るつもりだったんだけど、部屋から出てきた俺を見たスタッフさんの一人が、笑顔で手を振りながらカウンターを指さしている。
「へ? 俺に伝言ですか?」
驚きつつ、素直に言われた席に座る。
「おお、アレクさんからですか。なになに……?」
蝋で封がされた封書を受け取り、マイナイフを使って開けると中には二つ折りになった手紙が入っていた。
差出人はアレクさんからで、明日鎧海老漁に出るので、また鎧海老を脚込みで届けてくれるらしい。
そこには、鎧海老漁初参加となるスライム達と共に、頑張って行ってきますので、どうぞ土産話も楽しみにしていてください。と、書かれていた。
「おお、ついにスライム達を連れて鎧海老漁に出るのか。これは、鎧海老そのものももちろん楽しみだけど、スライム達の活躍を聞くのがもっと楽しみだよ。よし、じゃあまた何か料理を作っておもてなしだな。あの、伝言をありがとうございました」
一応受け取りの書類にサインをしてから、スタッフさんにお礼を言ってそのまま鼻歌まじりに宿泊所へ戻る。
鍵を開け、扉を開けて部屋に入ってもがらんとした誰もいない部屋を見回して小さく笑った直後に、俺は衝撃の事実に不意に気がついて思わず悲鳴を上げた。
「ちょっと待った〜〜〜〜! 今回はウサギ達やいつもは留守番役のハリネズミのエリーやモモンガのアヴィも、気晴らしを兼ねて一緒に外へ行ってるんだよ。で、ハスフェル達は数日郊外で野営をするって事は、俺のベッド役の子がスライム達しかいないぞ! うああ〜〜〜! 寝る時の、俺の癒しのもふもふ成分が誰もいないなんて〜〜〜〜!」
その場に膝から崩れ落ちた俺は、泣きそうな声でそう叫んで両手で顔を覆ったのだった。
2026年3月12日、アース・スターコミックス様より発売となりました。
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」第六巻です。
いよいよ、早駆け祭りが始まります!
そして、お祭りの後のあれやこれやからクーヘンのお店が開店まで。
怒涛の展開な第六巻を、どうぞよろしくお願いします!
2026年2月13日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」十三巻の表紙です。
もちろん今回も、れんた様が最高に可愛いくて素敵な表紙と挿絵を描いてくださいました!
冬のバイゼンでの冬祭り、スライムトランポリンでまたしても大騒ぎです!
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m




