指名依頼の受理
「ええと、商人ギルドの建物は……ああ、あれだな」
教えてもらった商人ギルドの建物が遠目に見えて、小さくそう呟いてちょっとムービングログのスピードを上げた。
すっかり通い慣れた感のある朝市や昼市の出る通りを取り過ぎ、大きな円形広場を回って別の通りに入ってしばらく進んだところで、教えてもらった特徴的な石造りの建物が見えてきた。
一応この辺りは、海岸からは少し離れているので建物が少し大きい。
特に到着した商人ギルドの建物は、二階建てだけど他よりもさらに少し大きめだ。とはいえ、他の街のギルドの建物に比べればはるかに小さいんだけどね。
それでも、壁面には渦巻くような波の模様が一面に彫られていて、なかなかに壮観だ。
正面にある、見上げる程に大きな鉄製の扉は、今は全開になっていてストッパー代わりの大きな石で止められている。
「ああ、おはようございますケンさん」
ムービングログはサクッと収納しておき、開いたままの大きな扉から中に入るとギルドマスターのホークシーさんが、俺に気付いて笑顔でカウンターから出てきてくれた。
「おはようございます。ええと、以前言っていた料理講習会について相談したくて来たんですが……お忙しいですかね?」
書類の束を抱えたスタッフさんが、ギルドマスターの背後に待ち構えているのを見て、苦笑いしながらそう言っておく。
「ああ、それなら段取りは出来ているからいつでも構わないですよ。ちなみに、ケンさんの今日のご予定は?」
「特に無いのですぐにでも大丈夫ですよ。今日は天気も良いし、ハスフェル達が俺の従魔も一緒に連れて郊外へ狩りに行ってくれたので、今日の俺は、少し買い物したあとは宿に戻って料理でもするつもりでしたから」
俺の答えに、何故か周りにいたスタッフさん達が一斉に笑顔になって拍手する。そして、同じく周りにいた商人と思しき方々までが、何故か揃って満面の笑みで拍手をしている。
「では、冒険者ギルドに指名依頼を出してあるから、まずはそれを受けてきてもらえますか。それが終わったら、もう一度ここへ来てくれれば、そのまま講習会場へ案内します。その間に俺はこいつを片付けておきますね」
苦笑いしたホークシーさんが、背後に控えるスタッフさんが持つ書類の束を示す。
うん、ギルドマスターともなると、片付ける書類の種類も多岐に渡るんだろうな。ご苦労様です!
こっちの世界へ来てから書類仕事とはすっかり無縁になった俺は、以前の営業時代のいろんな届出の煩雑さを思い出して、ちょっと遠い目になっていたのだった。
「じゃあ、指名依頼を受けてきます。それでそれが終われば、もう一度ここへ戻ってくればいいんですね。ええと、食材とかは大丈夫ですか?」
手持ちに色々あるから、提供しようかと思ってそう言ったんだけど、ホークシーさんは満面の笑みで首を振った。
「各種食材は大量に準備してありますから、講習の際には、ケンさんのお好きなものをお好きなだけ使ってください。万一、何か足りないものがあれば、言ってくだされば即座に準備しますのでご心配なく」
頼もしいその言葉に俺は笑顔で頷き、そのまま一礼してから外に出て、またムービングログを取り出して飛び乗ると冒険者ギルドへ向かった。
周囲の人達の視線を一身に集めつつ、到着した冒険者ギルドの前でムービングログを降り、そのままムービングログは収納して中へ入る。
「おや、おはようケンさん。朝からどうした?」
こちらも書類の束を手にしたギルドマスターのヴォイスさんがカウンターの中にいたんだけど、入ってきた俺に気付いて笑顔でそう言ってくれる。
「おはようございます。ええと、商人ギルドへ料理講習会の件で行ったら、こっちに俺宛の指名依頼を出してあるから、先にそれを受けてくれって言われたんですけど、どうしたらいいですか?」
この辺りの手続きの仕方がいまいち分かっていないので、素直にそう尋ねる。
「ああ、それならこっちへ座ってくれ。おおい、ケンさん宛の指名依頼が入っているから、手続きを頼む」
「了解しました!」
カウンターの中にいたスタッフさんの一人がそう言い、壁際に置かれた明らかに書類入れっぽい引き出しから何枚かの書類を取り出してカウンターに来てくれた。
俺も素直に、言われたカウンターの席に座る。
「こちらが指名依頼の内容になります。念の為ご確認ください。もし何か分からない点や納得出来ない事があれば、ご遠慮なく何でもお尋ねください」
にっこり笑ってそう言われて、差し出された書類を広げて内容を確認する。
一枚目には、依頼内容。そのまんま、新作料理の説明と、それを作る料理講習の講師役をして欲しいと書かれていた。
二枚目には、依頼に対する報酬の内訳。
意外な高額で驚いてヴォイスさんを見ると、にっこり笑ってサムズアップされた。
三枚目には万一指名依頼を失敗した際の罰金の有無や、再指名についてなど、これはいわゆるテンプレ的な内容がゴマみたいな小さな文字で延々と書かれていた。
読んでいる途中でちょっと気が遠くなったけど、俺は悪くないと思う。
ってか、今まで何度か指名依頼を受けたけど、ここまできちんと確認したのって初めてな気がする。いいのか、今までの俺!
ちょっと遠い目をしつつ、指定された箇所にサインをした俺だったよ。
「はい、じゃあこれで指名依頼受領完了です。講習会、頑張ってください! 期待していますね!」
どうやら受け付けてくれたスタッフさんも、以前ジェムの引き渡しの後にした試食会に参加していたらしく、あれは本当に美味しかったですからと力説してくれた。
彼以外にも、周りのスタッフさん達の期待に満ち満ちた視線を感じて、もう笑うしかない俺だったよ。
よし、がっつり講習して、この街に寿司や刺身をしっかり普及させていただこうじゃあありませんか!
にんまり笑って立ち上がった俺は、笑顔で俺を見ているスタッフさん達に向かってサムズアップしてから、何故か拍手喝采で見送られて冒険者ギルドの建物を出て行ったのだった。
2026年3月12日、アース・スターコミックス様より発売となりました。
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」第六巻です。
いよいよ、早駆け祭りが始まります!
そして、お祭りの後のあれやこれやからクーヘンのお店が開店まで。
怒涛の展開な第六巻を、どうぞよろしくお願いします!
2026年2月13日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」十三巻の表紙です。
もちろん今回も、れんた様が最高に可愛いくて素敵な表紙と挿絵を描いてくださいました!
冬のバイゼンでの冬祭り、スライムトランポリンでまたしても大騒ぎです!
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m




